第190話 ミシェル「嫁と姑だ……」
「ちょっとあなた達は黙ってなさい。シャルリーヌさん、話というのは再来週の対抗戦のことですね?」
母さんが勝手に話を始める。
「はい。校長先生より1年生の中から10人を選抜するように言われました。そうなると、必然的にツカサ君とトウコさんが入ります」
「まあ、そうでしょうね。まず選ぶのはこの2人。次点でユイカとユキさん」
ミシェルさんが頷いた。
「ミシェル、ウチの子はそんなにか?」
父さんがミシェルさんに聞く。
「はい。戦闘ならこの2人に勝てるのは1年どころか2、3年でもいません。校長先生が1年のみと決めたのはその辺りのこともあるかと思います」
そうなの?
「下手に2、3年を入れると上下関係でギクシャクするからか。ましてやリーダーとなるであろう生徒会長のシャルリーヌさんも1年」
「はい。だったら先日、経験した1年のみで挑んだ方がいいです。負けても言い訳できますしね」
なるほどー。
ウチは本気を出してないスタンスか。
「え? 私、リーダー?」
シャルが怪訝な顔で聞いてくる。
「「会長ー」」
トウコと口を揃え、拍手した。
「魔法大会も逃げられなかったし、生徒会長なんてやる価値なくない?」
おかげで皆、シャルの名前を呼ばんしな。
きっと卒業しても会長だ。
「シャル、次期当主じゃないの? 武家の名門がリーダーとして皆を引っ張れよ」
「そうね……」
嫌そう……
「母さん、参加してもいい?」
「ぶっ潰したーい。私、お兄ちゃんが学園に入ってから良いところがないもん」
メッキなんか被るからだ。
「それについてはミシェルを引率に出すという条件で了承しました」
あ、そうなんだ。
「ミシェルさんが引率するの?」
「前のことがありますから先生方も信用できません。そのためのミシェルです」
ウォーレス先生ね。
「ミシェルさん、大丈夫かな?」
「こういう人こそ裏切りそうだよね」
な?
「そこは信用してね……」
まあ、ミシェルさんは大丈夫か。
トウコが攫われた際に駅に案内してくれたのはこの人だし。
「では、ツカサ君とトウコさんにも参加してもらいます。ミシェル先生が言うように2人が出るか出ないかで大きく変わりますので」
シャルが話を戻した。
「バカをしないと良いけどな……」
「シャルリーヌさん、どうか、ツカサを……いや、ウチのバカ2人をお願いします」
嫌な親……
自分達の子をまるで恥のように言う。
「え? あ、はい……」
シャルがちょっと動揺しながらも頷いた。
「なんで私もバカにカウントされているんだろう?」
「お前、自分で頭が良いと思ってんの?」
勉強ができるバカとはお前のことだ。
「お前よりは良いわ」
「みーんな、お前のことをバカだと思ってるぞ」
というか、ガキ。
「私がお姉ちゃんになる時が来たか……」
トウコがゆっくりと立ち上がった。
「もうその言葉がバカだわ。今度は確実に落としてやるよ」
「レイプ魔め」
「あ? 魅力ゼロが何言ってんだ?」
シャルの家で修行してこい。
「……これをですか?」
「あなたしかいません」
「が、頑張ります」
母さんのシャルを見る目が仇敵の家とは思えんな。
その後、シャルが帰ったのでミシェルさんを交えて、夕食を食べた。
夕食を終えると、部屋に戻り、漫画を読む。
なお、ミシェルさんがトウコの部屋に行き、レッスンだ。
隣の部屋からユイカの声も聞こえるからイルメラも呼んで説明しようかなと思っていると、電話が鳴った。
「シャルか……」
スマホにシャルの名前が表示されていたので迷わず通話ボタンを押す。
『あ、ツカサ、さっきも会ったのにごめんね。そのまま話そうかと思ったけど、クロエを待たせてたから……』
「いや、いいよ。わざわざ来てもらってありがとう」
『そればっかりは仕方がないでしょう。先に校長先生に確認すれば良かったわ。あ、まだあの女……ごめん、ミシェル先生はいる?』
そんなに嫌いなのかね?
まあ、裏切って、トウコとユイカについたしな。
「隣の部屋でバカ2人にレッスンしてると思う。ミシェルさんもいた方が良い? 必要なら呼んでくるけど」
『ううん。いらない』
そう……
まだ棘があるな。
一緒に旅行に行った仲なのに……
まあ、ミシェルさんはずっとフリーズしてたけど。
「それで用って?」
『今回の件についてちょっと説明しようと思って。かなり大事なことだから』
ジェニー先生の部屋で集まった時に後で電話するって言ってたやつか。
「代理戦争云々?」
『それ。前にアストラルの代理戦争は説明したでしょ?』
聞いたな。
あまり理解はしてないが、要はこっちの世界で争いをするのはやめよう、だ。
「それが今回のことに繋がるの?」
『誘拐事件のこともあるけど、最近は情勢があまり良くないってことも言ったでしょ? そんな状況で今回の争いみたいな対抗戦だからユキさんはよく思ってないのよ』
なるほどな。
ユキってボケるし、バーサーカー3号だけど、当主らしくちゃんと周りを見ているわ。
「オスカーはガス抜きって言ってたよな?」
『学校対抗の争いを敢えてすることで直接的な争いを避けようとしているんじゃないかってことね。オリンピックやワールドカップと一緒』
スポーツに熱狂しようってことか。
しかし、そこでサッカーが例に出るところはフランス人って感じがするわ。
「効果あるの?」
『さあ? ただ以前の代理戦争と違うのは国ごとに分かれていないこと。これは大きいと思う。誰だって同郷の人間と争いたくないからね……ウチやそっちは置いておいて』
ヨハンさんがバカにしてたなー……
「競技の会場となる運営委員会がいる町っていうのは?」
『町って言ったけど、本当に何もないわ。そして、そこだけは絶対に争いが起きないのよ』
フラグに聞こえるんですけど……
「本当に大丈夫か?」
『さすがにね……まあ、何かあった時のミシェル先生でしょ』
うーん、裏切る裏切らない以前にあの人って大丈夫なんだろうか?
魔力も高いし、強いんだろうけど、活躍しているところを見たことないぞ。
「クロエは来るの?」
『さすがに来ないわよ。学校行事だもの』
「それもそっか。来週、集まるんだよな?」
『そうね……ケンカしないかしら? 特にそちらのお姫様』
暴力姫ね。
「知らんなー。あいつ、お嬢様のメッキが剥がれたことでまだキャラを確立できてないっぽいんだよ」
『何をしたって無駄なのにね。性格が好戦的すぎるもの』
ホント、そう。
そして、同じようなイルメラさんがいるんだよな。
なんか入学したての頃を思い出す。
「一応、トウコとイルメラにも言っておくけど、そっちも頼むわ。なんかアーサーには睨まれたし」
『マチアスのことがあるからね。そういうのを持ち込んでほしくないんだけど、仕方がないと言えば仕方がないかも。どういう競技になるのかはまだわからないけど、チーム編成も考えないと……』
ミシェルさんや父さんはああ言ってたが、1年は1年で派閥とかがあるから揉めているんだよな。
シャルも大変だ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
私が連載している別作品である『左遷錬金術師の辺境暮らし』のコミカライズが連載開始となりました。
ぜひとも読んでいただければと思います(↓にリンク)
本作共々、よろしくお願いします!




