第189話 嫉妬
男子寮と女子寮の分岐点でシャルとユキと別れると、家に帰り、すぐに隣の部屋に行く。
「トウコー」
声をかけながら扉を開けると、トウコがベッドで横になりながら雑誌を読んでいた。
「ノックはー?」
「ノック……?」
「可哀想な兄だよ……それで何? もうご飯?」
まだ5時過ぎだろ。
「それはウチの大黒柱が帰ってからだ」
長瀬さんちは皆でご飯を食べるんだ。
「いや、お父さんなら帰ってるよ。なんか午後休を取ったんだって」
え? そうなの?
じゃあ、俺が漫画を読んでた時には帰ってたのか。
「まあ、父さんがいるならちょうどいいわ。ちょっと下に降りろ。シャルが来る」
「え? 会長? なんで?」
「話があるんだ。ちょっとミシェルさんも呼ぶから先に降りてろ」
「ああ……ついにか……」
何がだよ……
「駆け落ちせんぞ」
「じゃあ、あっちか……」
どっちだ?
「しょうもないことを言ってないで降りろ」
「はいはい……叔母さんかぁ……」
トウコが本当にしょうもないことを言いながら起き上がったので部屋に戻り、ミシェルさんに電話する。
『はーい、どうしたのー?』
ミシェルさんが明るい声で電話に出た。
「こんにちは。今、電話大丈夫です?」
『ええ。仕事も終わって一休み中』
なんか悪いなー。
「他所の町との魔法大会のことは?」
『あー、それね……』
やっぱり知ってるか。
「この前の言えないってやつです?」
シャルの家でそういうことを言っていた。
『そそ。ね? 誘拐事件を大事にできないでしょ?』
「してくださいよ。皆、不参加ですから」
『運営委員会に逆らわないでよー』
面倒だな。
「ちょっとウチに来てくれます? 今日、各クラスが集まって、シャルとメンツを決めたんですけど、俺とトウコは参加っぽいです。それでシャルがウチの親と話すってんで今から来るんですよ」
『あー、そっか……お嬢様はそうするわよね。ごめん。実は昼に校長先生がジゼルさんやマコトさんに話してる』
えー……
あ、いや、だから父さんが午後から休んでいるんだ。
「わかりました。でも、とりあえず、来てくださいよ」
『わかった。じゃあ、今からそっちに行くわ』
「すみませーん」
電話を切ると、1階に降り、リビングに向かう。
すると、家族3人がテーブルにつき、テレビも付けずに何故か俯いていた。
「シャルと駆け落ちせんし、デキ婚もないぞ。そもそもそういう関係じゃないし」
「「「え?」」」
嫌な家族……
自分達がそうだったからって一緒にすんなよ。
「昼に校長先生が来たんだろ? 俺達はそのことを知らなかったからシャルがわざわざ説明に来るんだよ」
「あ、そういう……こほん、お母さんは信じてました」
「ツカサは真面目な子だものな」
エロ夫婦め。
「校長先生って?」
トウコが首を傾げる。
「魔法大会の甲子園があるんだと」
「マジ? 昨日の敵と協力して新たなる強敵と戦う感じ?」
「そうそう。俺とトウコもその頭数に入ってる。でも、この前の事件があったから他所の町と関わるのはどうなんだろうって話になって、シャルが説明に来るんだ」
「なるほどねー。でも、私達が出ないと勝てなくない? 他はユイカとユキだけじゃん」
ひっでー。
「ロナルドとかイルメラがいるだろ」
「イルメラが怖いのは最初だけ。ロナルドも決め手がないじゃん。相手じゃないね」
まあ、そうなんだけど……
スーパーエリートウコ様は自信満々だな。
「シャルもいるぞ」
「あー……はいはい。そうね。強いもんね。私なんか2回も負けたよ」
全然、思ってないな。
「あ、ご飯を作らないと」
母さんが慌ててキッチンに向かう。
「ミシェルさんの分も作ってあげてー」
あの人、忙しすぎてコンビニ弁当だろうし。
「それもそうですね。シャルリーヌさんは?」
「多分、いらないと思う。メイドさんがいるし」
「わかりました」
俺達がリビングで待っていると、チャイムが鳴ったのでトウコと玄関に行き、扉を開ける。
すると、そこにはシャルと共にミシェルさんもいた。
「あれ? 一緒?」
「いや、道中で見つけたから車に乗せただけ」
拾ったのか。
「クロエは?」
車ということはクロエがいる。
「止めるところがないからその辺をウロウロしてるって」
あー、なるほど。
ウチにも車はあるので駐車場もあるが、1台しか止められない。
「入って、入って。とはいえ、校長先生が昼に来て、説明してたみたい」
「この女に聞いたわね」
この女……
「シャルさー、先生だってば……」
「そ、そうね……先生、申し訳ありませんでした」
シャルが頭を下げて謝る。
「いいの。理由もわかってるし」
ラ・フォルジュとイヴェールか。
「シャル、あまり学校に家のことを持ち込まない方がいいぞ。どっかのバカが退学しただろ」
「そうね……気を付ける」
大丈夫かね?
「いいの、いいの。理由は家のことじゃないもの。ほら、話し合い」
「お義姉ちゃん、もうちょっと広い心を持った方がいいよ」
ミシェルさんとトウコがそう言って、リビングに向かったのでシャルと顔を見合わせた。
「どういう意味だ?」
「さあ? どうせしょうもないことでしょ」
まあ、トウコがお義姉ちゃんって言ってたしな。
「あ、上がって。校長先生から説明があったみたいだけど、一応、話をしよう」
「そうね。お邪魔します」
シャルが靴を脱いだので一緒にリビングに向かった。
「母さーん、シャルとミシェルさんが来たぞ」
「あらあら、よくいらしてくれました。ミシェルもわざわざごめんなさいね」
おばちゃんみたいだ。
「おばちゃんみたいって思っている名前とは正反対の双子。お茶」
「「は、はーい」」
俺とトウコは母さんに睨まれたのでキッチンに行き、冷えた麦茶を冷蔵庫から取りだし、コップに注いだ。
そして、人数分のお茶を持ってリビングに戻ると、座っている皆の前にお茶を置いていく。
「冬のような冷静な心を持って何事にも動じない子なんだよ?」
「人の上に立って、皆を司る賢い子なんだよ?」
「「ノーコメント」」
シャルとミシェルさんの前にお茶を置く時に一言添えたが、スルーされた。
「小学校の頃の名前の由来を勉強する授業は嫌だったなー」
「笑われたなー。名付けた両親が悪いよ」
ホントだわ。
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