第188話 選抜
「ジュリエット、それでその対抗戦の概要は?」
「開催は2週間後から1週間。参加校は9。対戦形式はその日に発表される。登録できる人数は10人。以上」
えーっと……
「それだけ?」
「ジュリエット……もうちょっとないか?」
「ない。私も聞いたけど、これ以上はなかった。そして、校長先生からその10人を1週間以内に選べって言われた」
えー……
「ちょっと待ってくれ。シャルリーヌさんが選ぶのか?」
オスカーがシャルに聞く。
「ええ、そうよ。不満?」
「不満というか……それでこのメンツを呼んだということは1年だけか?」
あ、そういえば、2、3年がいない。
「ええ。ウチの学校は1年だけでやる。そういう方針よ」
不利じゃない?
「それで俺が呼ばれたのか……」
「そうよ。この前の魔法大会で3勝したのはBクラスではあなただけだった」
あ、そうなんだ。
「ウチのクラスは戦闘タイプの魔法使いがほとんどいないからな……しかし、1年だけか」
オスカーがまたしても腕を組んで考え出した。
「私達にその10人を選ぶのを手伝って欲しいわけ?」
ユキがシャルに確認する。
「ええ。私は一応、すべての生徒を把握している。でも、クラスに詳しい人の意見を聞きたいのよ」
すべての生徒を把握しているの?
シャル、すごいな……
「うーん、10人だろ? 決まってるのは双子とユイカか」
俺とトウコのことかな?
まあ、双子は他にいないからそうなんだろうけど。
「ええ。そこは確定と思っている。あと、あなたとロナルド」
すぐに5人が決まった。
でもまあ、俺も自身を含めて、その辺りは確定だと思う。
「イルメラを入れとけ。あの初見殺しは相当だ」
「よし、イルメラさんね。あと4人……オスカーも参加でいいわよね?」
シャルがオスカーに確認する。
「それは構わない。ただ、Bクラスの他はちょっと無理だ。ウチのクラスは本当に大人しいんだ」
きっとウチと違って上品なクラスなんだろうな。
「となると、あと3人……順当にいけば、ウチのクラスのアーサーとヘンリーなんだろうけど、どう思う?」
あー、イルメラが名付けたモブコンビね。
「悪くないと思う。3敗したが、それは相手が悪かっただけだ」
「私もその2人でいいと思うよ。剣の腕自体は悪くなかった」
「ツカサ、いい?」
シャルが確認してくる。
「いいんじゃないか? マチアスなんかよりずっと上だったし」
長所がないのが難点だけどな。
「よしよし、これであと1人ね。最後の1人は同じ3勝したあなた達の友達のフランクがいいと思うわ」
シャル……
「どう考えてもジュリエットだろ」
「俺もシャルリーヌさんだと思う」
俺もそう思う。
「私はダメよ。超弱いし、ツカサにおんぶにだっこで勝っただけ」
自分を下げてまで出たくないのか……
「シャル、今決めた9人は明らかに接近戦に偏っている。純粋な遠距離タイプは皆無で遠距離戦ができるのがトウコとユキしかいない。バランス面、実力面の両方から見てもシャルしかいないだろ」
そう言うと、ユキとオスカーも頷いた。
「私は剣士だから接近戦タイプだよ」
「俺もそっちだ」
「トウコもだぞ」
俺達がそう言うと、シャルが頭を抱えた。
「なんでこの期はそんなのしかいないのよ……普通は遠距離の方が多いのに……」
知らんけども……
「シャル、まだ競技内容がわからないけど、この前の魔法大会と同じルールならシャルは出なくていいから安心しろ。他のメンツでやる」
「双子が出なよ。それで勝てる」
「まあ、あの広さなら純粋の遠距離タイプが出る競技じゃないからな……とはいえ、競技内容が不明ならそういう人材も入れておくべきだと思う。そちらが有利な競技というのも十分に有り得る」
シャルが有利なのはフィールドが広いパターンや対戦形式じゃないパターンだ。
「私、魔力が低いのよ……」
「大丈夫だって」
「魔力の大きさは1つの指標に過ぎんぞ?」
「シャルリーヌさん……申し訳ないが、校長先生が君に頼んだということは君は確定なんだと思う」
俺もそう思う。
「そう……嫌だわー……」
はっきり言いおった……
「ジュリエット、そういうのは後で彼氏と2人っきりになって慰めてもらえ。今は時間がないし、話を続けよう。10人は決めたし、あとは打診をしてみることになるだろう。私はロナルドに話してみるが、他のメンツは任せたぞ」
彼氏ちゃうわ。
「じゃあ、俺はトウコとユイカとイルメラに話すわ」
「私はあの2人か……気まずいのよねー……」
シャル、本当に大丈夫か?
マジでクラスで浮いてない?
「その6人が断ったら?」
「断るのは許されないわね。校長先生命令だから」
自分がメンツに入ったからって……
「まあ、断られてから考えよう。ジュリエット、競技はどこでやるんだ? さすがに他所の町ってことはないだろ?」
ユキがそう聞きながらチラッと俺を見る。
「ええ。場所は運営委員会の本部がある町。町といっても人が住んでいないし、いくつかの施設しかないけど……」
「あそこか」
「行ったことないな」
聞いたこともありませーん。
後でシャルに聞こう。
「どうやって行くんだ? 列車?」
修学旅行?
「ゲートを使うから普通に学校から行くことになってる。当然、終わったら帰ってくるわね」
外泊はなしか……
ちょっと残念。
「シャルリーヌさん、確認だが、校長先生を含めた上の方は俺達に勝てと言っているのか?」
「そこまでは言われてない。自分達が持っているものを出せってだけ」
「ふむ……開催は2週間後……少し鍛え直すか」
オスカーがそう言って立ち上がった。
「オスカー、来週の同じ時間と同じ場所にさっきのメンツで集まろうと思うわ。来てちょうだい」
来週の月曜日の放課後にここね。
「わかった。勧誘の方は任せる。それと今回のことを父に聞いてみる」
「お願い」
オスカーは頷くと、部屋から出ていった。
「オスカーの家ってすごいん?」
「ドイツの名門よ。確か元貴族のはず」
貴族様か……
「ジュリエット、今回の件、誘拐事件と関係ないんだろうな?」
「それは私の方で何度も確認した。今回の件はあくまでも運営委員会の決定で各町の思惑はないそうよ」
あ、他所の町に出た時に誘拐するのか!
ユキが懸念してたのはそれだ!
「うーむ……それでもこのタイミングは……その上で校長先生が1年だけで参加しろ、と……ツカサ君とトウコが絶対に参加するのはわかっているだろうに……」
「ラ・フォルジュから苦情が来そう……」
「来るだろうな……というか、私も入れる」
ユキは当主だもんな。
「ツカサ、この後、空いてる? ちょっとお母さんとお父さんと話すわ」
ウチ?
「いるとは思うけど……来るん?」
「あなた達に参加して欲しいけど、ご両親が反対するならさすがに無理よ」
えー……
「俺が光るイベントだぞ?」
「こればっかりはね……」
うーん……
「でもなー……正直、他の奴も狙われるんじゃない? ユイカとかお菓子あげるって言われたらついていきそうだぞ」
「ユイカ、バカだからなぁ……」
うん。
「そこはなんとも言えないけど……」
バカなんだよ。
「ユキ、お前はいいのか? お前も魔力は高いだろ」
「私は別にいいよ。白川家が死んでないことを示すチャンスだ」
ユキはそっちが重要か……
「やっぱり反対するのはツカサのお母さんだと思う」
そうかも……
「わかった。じゃあ、ウチに来てくれ。ミシェルさんも呼ぶぞ?」
「ええ。そうしてちょうだい。あとトウコさんね」
あいつもか……
いや、そりゃそうか。
「じゃあ、帰ろうか」
「ええ」
「そうだね」
俺達は立ち上がると、ジェニー先生の部屋を出て、寮に戻ることにした。
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