第185話 ワニワニパニック
ゲートをくぐり、川にやってきた俺達はさらに歩いていく。
「さて、ツカサ先生、ロナルドにワニの狩り方を教えてやってくれ」
先頭を歩いていたユキが立ち止まり、振り向いた。
「狩り方って言われてもな……ワニを引っ張り出して、仕留めるだけだ」
「どうやって引っ張り出すんだい?」
えーっと……
「前は水辺でぱちゃぱちゃしてたら川からいきなり出てきたな」
「こえーよ。ウチの国では水辺に近づくなって言われているんだぞ」
アメリカってそんなにワニが多いんだろうか?
「ユイカとあれだけやれるんだから大丈夫だよ。よし、トウコ。ラ・フォルジュの戦士の力を見せてやれ」
「何買おうかなー」
トウコは川に近づくと、しゃがんで水で手を洗い出した。
「ラ・フォルジュって絶対にそういうことをしない家じゃない? 君らの従兄姉妹さん達はいかにもだったよ?」
エリク君も細いし、セレスちゃんやリディーは論外だしな。
「長瀬の血の方だろ」
多分、そう。
絶対に母親の血ではない。
「お兄ちゃーん、飽きたー」
はえーよ。
「もうちょっと頑張れ」
「釣りにしようよー。お肉をロープに巻きつけて、放置すればそのうち――おらぁぁっ!!」
トウコが提案していると、川からワニが飛び出てきてトウコを襲った。
しかし、ワニの噛みつきよりも早くトウコが反応し、アッパーでかち上げる。
上空にはワニがくるくると回転しながら飛んでいた。
「「「おー……」」」
俺達は上空を見上げ、飛んでいるワニを見ている。
すると、ワニは地面に落下し、ピクリとも動かなくなった。
「ふっ、畜生風情がこのスーパーエリートウコ様に挑むとは……」
トウコは立ち上がってかっこつけながら髪を払う。
「暴力姫だな……」
「さすがは学年ナンバーワンだと思うが……」
「お前の方がゴリラだろ」
どこがモンシロチョウなんだ?
「ゴリラ言うな。ロナルド、わかった? こうやるの」
トウコがない胸を張る。
「……どうやるんだ?」
まあ、ロナルドには無理だろうな。
「槍でぱちゃぱちゃするのはどうだ?」
「マジかよ……」
ロナルドは槍を取り出し、川から距離を取りながら川を突き始めた。
「ユキは刀でやんないの?」
トウコがユキに聞く。
「私の刀は父の形見なんだ。そういうことに使いたくない」
「いや、ロナルドの槍も高そうだけど……」
「いいか、トウコ……刀は魂なんだ。人を斬り殺すための神聖なる武器なんだよ」
ユキが目を開けた。
ちょっと怖い。
「お兄ちゃん、新選組に白川っていたっけ?」
「知らん。沖田さんと土方さんぐらいしかわからん」
あと、近藤?
「おーい、ワニが近づいてきてるぞ」
ロナルドがそう言うので川の方を見ると、確かに水面に2つの目が見えている。
「よし、確実に仕留めるんだ」
ユキがそう言って頷いた。
「赤羽の嬢ちゃんにも長瀬の坊ちゃんにも後れを取ったし、この辺で名誉挽回といくか……」
わかった。
この同級生を嬢ちゃんや坊ちゃんって言うところが同い年に思えないことに拍車をかけているんだ。
「頑張れよー」
「がんばー」
「我が一族の力を見せてやれ」
「俺はエルトン家だけどな」
ロナルドはそう言いながらもしっかりとワニの方を見る。
そして、ワニの目が見えなくなると、槍を引き、構えた。
すると、ワニが飛び出してきたのだが、ロナルドは来るのがわかっていたので冷静に見極め、槍を使って宙に逃れる。
「よっと!」
ロナルドは宙で翻すと、槍を下にいるワニに向け、狙いを定めた。
そして、槍でワニを突き刺す。
ワニは仰け反り、じたばたと暴れていたが、すぐに動かなくなった。
「よー動けるよな」
「身体も槍も大きいのにね」
ロナルドは横に大きいわけではないが、長身である。
そして、槍も長い。
それなのに接近戦を主とするユイカや俺の攻撃についてきていたし、非常に器用に動けるタイプなのだ。
「すごかろう? これが白川家だ」
ユキがドヤ顔になる。
「だから俺はエルトンだっての」
「まあいい。見事だな、ロナルド。もう1匹いけるか?」
「いけるか行けないかで言えばいけるが、そんなにワニを獲ってどうするんだよ」
というか、売れるのかね?
「それもそうか……」
ユキはちょっと残念そうだ。
「トウコの分はクラウスに頼むけど、そっちはどうする?」
「そうだな……せっかくだし、あの職人に頼むか」
「クラウスって誰だ?」
ロナルドが聞いてくる。
「フランクに紹介してもらったドイツの鍛冶職人だよ。横の繋がりで売ってくれるんだ、この前、ユキも刀の調整をしていたな」
「ああ。中々の腕だった。お前も頼むと良い」
「へー……じゃあ、行ってみるか」
俺達はワニを空間魔法で収納すると、来た道を引き返す。
そして、ゲートで工業区にやってくると、クラウスのもとに向かった。
「クラウスー、いるかー?」
クラウスの工房にやってくると、扉をドンドンと叩いて声をかける。
「んー? なんだ、お前らか……」
扉が開くとクラウスが出てきた。
「久しぶりー。元気だった?」
「元気だよ。お前らはいつも元気そうだな。しかし、珍しい組み合わせだな。1人は知らんが……」
クラウスが俺達を見渡した後にロナルドを見る。
「あ、こいつは違うクラスだけど同級生のロナルド。ユキの従兄なんだ」
「どうも」
ロナルドが軽く頭を下げた。
「同級生ぃ? あー、いや、そうか……お前ら日本人は幼く見えるからか」
やっぱり同級生には見えないらしい。
「幼く見えるか?」
「見えるな……しかし、いいのか?」
クラウスがちらっとトウコの方を見る。
「あー、それね。もう皆にバレちゃった。まあ、こいつらは元々知ってたけど」
「なんだバレたのか……結構持ったな」
「まあなー。でも、何人かは気付いてたっぽい」
ノエルとセドリック。
「言わなかっただけか。最近のガキは大人だな」
あいつら、優等生で人間ができているのだ。
「おたくの国の赤いのはめっちゃ笑ってくるぞ」
「あいつはそういう奴だ。まあ、安心しろ。性根は優しいから本気で嫌そうなら言わない」
まあ、双子芸を笑ってくれる良い奴だしな。
「あ、それでさ、ちょっと頼みがあるんだよ」
「何だ? まさかまたワニか?」
さすがはクラウス。
賢い。
「うん、2匹」
「2匹て……ウチはそういう工房じゃねーぞ」
「そうでもないと俺が来るわけないじゃん」
「お前も妹の方も武器を持ってないからな」
トウコは杖があるが、どっちみち、ここに用はないだろう。
「ちゃんと今後の客になりそうなのも連れてきたぞ。ロナルドは槍を使うんだ」
「ふーん……まあ、強そうな男だな」
雰囲気はある。
まあ、実際に強いんだけどさ。
「1匹はトウコが狩って、もう1匹はロナルドが狩ったんだ」
「そうかよ。まあ、中に入って、出してくれ。まずは見てみる」
クラウスがそう言ったので中に入り、トウコとユキが収納していたワニを出した。
「またでけーな……」
確かにでかい。
「アストラル大ワニだからな」
「何だそれ?」
「俺が今考えた名前」
「あっそ。ふむ……」
クラウスは軽く俺を流し、ワニを見分しだした。
「どうだ?」
「こっちは傷一つ付いてないな……」
クラウスはトウコが狩った方のワニを見る。
「トウコのアッパーで一撃死」
「とんでもない兄妹だわ。こっちは槍で一突きか……」
クラウスはトウコが狩った方のワニを見る。
「上手かったぞ」
「一撃っていうのは良いな。損害が少ないから高く売れる。売るのはいいが、やっぱり時間をもらうぞ?」
「それはしゃーない。お前らもいいだろ?」
後ろを見て、確認すると、3人共頷いた。
「わかった。じゃあ、早速、声をかけてみよう。連絡はお前でいいか?」
「それでいいよ。トウコは同じ家だし、ロナルドも同じ寮だ」
知らない人が聞いたらお前は何を言っているんだって思うセリフ。
「じゃあ、電話する。用件は終わりか?」
「終わりー。じゃあなー」
俺達は用件が済んだので工房を出ると、その場で解散した。
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