第182話 |_^)
2階のシャルの研究室にやってきた俺達は今週のおさらいと来週の予習をやっていた。
「ちょっと休憩しましょうか。実は勉強の合間にぴったりなポーションを作ったのよ」
シャルがまたなんか作ったらしい。
「ポーションはポーションなわけ?」
「脳に糖分を行きやすくするの。さらにリラックス効果もプラスしてみたわ」
シャルが白い液体が入ったポーションを取り出す。
「色々作ってんだな」
「うーん、まあ、これはツカサが要望した美味しい魔力回復ポーションが上手くいってないから気分転換で作ったのよ」
錬金術の気分転換が錬金術か。
本当に好きなんだな。
「そんなに難しいんだ?」
「まあね……魔力回復ポーションがこの世に登場してから数百年の月日が経っているけど、いまだに不味いのはそういうことなのよ」
なるほど……
「じゃあ――」
「待ちなさい!」
シャルが言葉をさえぎってきた。
「人間が想像できることは実現できる?」
なんちゃらさんの言葉。
「そう! 私は不可能を可能にする錬金術師になるの!」
この子、錬金術のことになると性格が変わるなー……
「じゃあ、待ってる」
「うんうん、待ってなさい」
シャルが自信満々に頷いたので牛乳みたいなポーションを飲む。
完全に某乳酸菌飲料の味がするなと思ったら脳がすっきりし、なんだか穏やかな気持ちになってきた。
「おー……冴えてきた気がする。今なら5桁の暗算もできそうだ」
111111+11111=22222!
「すごいでしょ!」
「すごいな……でも、これ大丈夫か? 鎮静剤的なものも入っているんだろ?」
「あれ? ちょっとマズいかな……ツカサ、これはこっちで飲んでね。間違ってもこれを持ってゲートをくぐらないで」
アウトっぽいな……
「逆に興奮剤とか作れそうだな」
「えっち……」
そっちじゃないんだなー。
バーサーカーになれる方なんだなー。
「例えばの話。痛み止めとかも作れそうじゃん」
「麻酔はいけるかも……うーん、あまりこっち系は作らない方がいいかも」
「それがいいかもな」
シャルが捕まって停学になりましたっていうのをクロエから聞きたくない。
「あ、味はどう?」
「乳酸菌飲料だな」
「乳酸菌は入ってないけど、それに近づけたのよ」
「へー……あ、ジンジャーエール味は美味かったぞ。それと母さんも紅茶味が美味しかったってさ」
この感想を伝えるのも大事。
「そう…なら良かったわ。紅茶はちょっと悩んだからね」
色々あるもんな。
バカ舌の母さんはどうでもいいだろうけど。
「あー、シャル、ちょっと頼みというか相談があるんだけどいいか?」
「ん? 改まってどうしたの?」
「さっきトウコが攫われた話をしただろ?」
「ええ。びっくりよ。あんなトラとかライオンみたいな子をどうやって攫うのかしら? 麻酔銃?」
惜しい!
「一服盛られたんだよ。それでスヤスヤだ」
「中らずと雖も遠からず、か……まあ、他にないわよね」
トラとかライオンだもんな。
正攻法では無理だ。
それはドーピングしても俺に勝てなかったウォーレス先生でわかるはずだろう。
「それでさ、薬を無効化するか薬が入っているかわかる魔道具ってない?」
「そういうコップやナイフやフォークもあるわよ。アストラルの魔道具の店に売ってんじゃない?」
あるのか……
「ちなみにだけど、ラ・フォルジュの家の食器ってどうかな?」
「100パーセントそういうものを使っているでしょうね。ウチもそうだもん。となると、それすらも突破できる眠り薬か……」
向こうにはドーピング薬を作り、いけない錬金術をしているジョアン先輩がいるからな……
「別に俺やトウコに限ったことじゃなくてさ、シャルも必要なんじゃない? クロエが眠らされたらヤバいじゃん」
魔力云々はともかく、次期当主のシャルも重要人物だ。
「そうねー……ちょっと考えてみるわ。最近はちょっと魔法業界が変だしね」
前にも聞いたな。
「そういやラ・フォルジュの婆ちゃんが時代が変わる前の兆候が見えるって言ってた」
「ラ・フォルジュの当主が……」
シャルが考え込む。
「そんなに?」
「ツカサはこっちの業界に関わったのが春からだものね……一番は魔法大会よ。全員参加に変えたのはまだわかる。でも、急に決まったのがおかしいのよ。普通はもっと前に知らせる」
まあ、普通はそうだろうな。
俺はそもそもそういうお知らせを見ないから知らんが。
「ウォーレス先生とジョアン先輩のせいだろ」
「そうね。でも、やっぱり何かバランスが崩れている気がするわ。ランドローがラ・フォルジュを裏切り、他所の町についたこともあるし」
やっぱりかなり大事っぽいな。
「俺、ランドローを知らないんだけど、そんなに?」
「ウチで言うマチアスくらいの距離の家よ」
あの金魚の糞か。
確かにシャルと近かった気がする。
「エリク君、大変だなー」
「でしょうね。ウチもどうだか……信用できる人を選ばないと」
ウチで言うミシェルさんか。
「クロエ?」
「まあ、そうね。ツカサは将来、ラ・フォルジュの家に入るの?」
「さあ? トウコはそうするみたいだけど、俺は考えてない。まあ、就職が上手くいかなかったらエリク君を頼ると思う。もしくは、エリク君がピンチなら助けるかな……家のことはともかく、従兄だもん」
そこにラ・フォルジュは関係ない。
「ふーん、そうなったら私達は敵同士ね」
シャルはイヴェールの当主になるんだもんな。
「敵か?」
勉強を見てくれてるのに?
「いいえ……ツカサ、もし、そうなっても私はあなたの敵にならない」
「俺もシャルの敵になる気はないな」
トウコは知らない。
「さっき言った信用できる人ね、私ははっきり言って少ないのよ」
友達があんまいないもんな……
「まあ、うん……何と言いましょうか……」
「言わなくて結構。実際にクロエくらいよ……でも、あなたも信用できる。だから私は絶対にあなたの敵にならない」
それは俺もそうだ。
シャルをどうやって敵に回せばいいのかすらわからない。
「じゃあ、指切りしよう」
そう言って、小指を立てる。
「子供みたいね」
シャルは笑いながらそう言うものの、小指を立て、絡ませてきた。
これはお互いに敵にならないという約束だ。
「大事なことだよ」
「まあね……」
「………………」
「………………」
これ、いつ離せばいいんだろう?
あと、シャルの手って小さいな……
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