第181話 チェック ★
「らしいよ」
「敵の家のことだけど、それは大変ね……」
「ランドローから裏切者が出たんでしたら今頃、ラ・フォルジュは大慌てでしょうね」
あれ?
「これ、言ったらマズかった?」
縮こまっているミシェルさんに確認する。
「言って欲しくないけど、お嬢様にも関係することだし、どうせメラニーから情報が漏れるから別にいいわ」
あ、そういえば、あの鉄道警察隊の人はイヴェール派だ。
「メラニー? メラニー・ラプラスですか?」
クロエが聞いてくる。
「そうそう。クロエに勝てなかった人」
「ぐさっ」
ミシェルさんが胸を抑えた。
「メラニー……メラニーがなんで出てくるんです?」
「鉄道警備隊なんだってさ。実はトウコを探しに行く時にちょっと揉めたんだよ」
「あの子、鉄道警備隊に就職したんですね……トウコ様は列車の中に?」
「いたね。寝てた」
のんきなもんだわ。
「なるほど……これを私やお嬢様に伝えるということは春先のあの事件ですか」
「うん。ヨハンさん、他所の町の人間だった。俺がダメだったから似たような魔力でバカのトウコを攫おうとしたらしい」
「厄介な……しかし、ラ・フォルジュは大変ですね」
クロエがミシェルさんを見る。
「もうね……お婆様が一族以外は信用できないって言って、派閥を洗い出してるところ……」
ラ・フォルジュ派って大丈夫かね?
「お嬢様、このことは旦那様から?」
クロエが今度はシャルに確認する。
「なーんも聞いてないわね。把握しているのかしら?」
「そうですか……ツカサ様、情報提供ありがとうございます」
クロエが頭を下げた。
「ううん。春のウォーレス先生とジョアン先輩の件にはシャルも絡んでいるし、知っておいた方が良いと思って」
「そうですね。敵の目的は誘拐ですのでお嬢様も危ないです」
「大丈夫じゃない? 私、魔力低いし」
そういう問題ではない。
「お嬢様、次期当主ですよね?」
「あ、うん……そうね。そうだった。気を付けないと」
大丈夫かな?
「ミシェルさん、今回のことで町や学校は何て言ってるの?」
「それね……まず、申し訳ないけど、ヨハンは取り逃がした」
でしょうね。
「それは仕方がないでしょう。泥人形でしたし」
「ええ。それで町や学校の対応なんだけど、非常に複雑なことになっている。詳しいことは言えないけど、とりあえずは大事にしない。最低でもここひと月は」
はい?
「どういうことです?」
「言いたいけど、言えない。すぐにわかることだから勘弁して」
今月に何かあるな……
「わかりました。シャル、話も終わったし、勉強しようぜ」
俺がこのセリフを言う日が来るとは……
◆◇◆
ツカサ君とお嬢様は勉強をしに2階に上がっていった。
「お嬢様、大丈夫?」
「何がです?」
「あまり危機感がなさそうだったけど……」
まあ、ツカサ君の説明がかなりはしょられたからピンと来てないのかもしれない。
「お嬢様には私がついていますから問題ありません。あと素晴らしいナイトがいます」
そのナイトが誘拐対象なんだけどね……
「面倒なことになったわねー。あんたのところも気を付けなさいね。どう考えても裏切者はウチだけじゃないわよ」
「でしょうね。そして、悲しいことにそのことを旦那様はお嬢様に伝えておりません」
さっきの話か。
「まだ知らないとか?」
「メラニーが報告していないわけがありません。大事件じゃないですか」
まあね。
ましてや仇敵の家のことならその日のうちに当主の耳に入るだろう。
「イヴェールのことは突っ込まないけど、お嬢様も大変そうね」
「いえいえ、おたくのツカサ様より大変ではないですよ」
狙われていることかな?
「まあ、大丈夫よ。一応、私がついている。それにあの子はあの子で警戒心も高いし、何よりも強いしね」
ちょっとバカだけど。
「いーえ、そのことじゃありませんよ。私もラ・フォルジュのことに突っ込みませんけど、呪学は大変ですよ」
………………。
「……チェスやる?」
「いいですよ。メラニーは相変わらず、ドジってました?」
クロエがチェスを用意し、話を変えながら聞いてくる。
「ドジというか、ツカサ君、ユキさん、ユイカに詰められて、ビビり散らかしてたわ」
あの3人はスイッチが入ると、キラーマシンになるからわからないでもないが……
「可哀想に。それにトウコ様の誘拐に気付かなったことで罰ですかね?」
「クビにはならないでしょうけど、減給処分は避けられないんじゃない?」
少なくとも、ラ・フォルジュの家は責任を追及するだろう。
それをイヴェールが庇い、減給処分っていうのが落としどころだろう。
「今度、慰め会でもしますか」
「同窓会? ウチのトップを呼ぼうか?」
もちろん、エリクさん。
「お嬢様がいつもお世話になってますー。おかげでそちらの至宝とやらを2度も倒せましたー」
……と言う気かな?
「エリクさんは呼ばない。やっぱり女子会にしましょう」
「いいですね。深夜になりますけど」
お嬢様が寝てからか。
「朝方飲みね」
アストラルは世界中から人が来るため、24時間営業の店もそこそこにあるのだ。
「たまには良いじゃないですか。あなたもお守りは大変でしょう」
「トウコさんがねー……あの子がお兄ちゃんに勝てない理由がよくわかるわ」
「まあ、お兄ちゃんはお兄ちゃんでおかしいですけどね。あれ、お嬢様が自爆しなくてもトウコ様とユイカ様に勝てたんじゃないですかね?」
そんな気はする……
「やっぱりトウコさんとユイカにひたすら遠距離攻撃をさせようかな……」
「良いと思います。お嬢様が活躍できますね」
そうなると強力な攻撃魔法を使えるお嬢様か出てくるのか……
防御手段がないユイカが落とされ、2対1……
「なんであの2人で組むんだろ? 兄妹で組めばいいのに」
「それは反対です。お嬢様は他にいないんですよ」
めんどくせーのはお嬢様の方か……
あの子、本当にツカサ君としかしゃべらないからな……
「お嬢様に友達を作った方がいいんじゃない?」
「素晴らしいご友人がいますよ。ナイトまでやってくれます」
それ、友達じゃなくて駆け落ち3秒前と評判の恋人。
「ハァ……疲れる」
「そうですね。では、私は掃除をします」
クロエがそう言ってナイトを動かし、立ち上がった。
「おー……おー?」
おー……
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