第176話 彼女じゃん……
フランクの部屋は相変わらず、武器が多かったので剣を取り、ベッドに腰かける。
フランクはデスクの椅子に座り、セドリックはテーブルについた。
「お前らも男子共にイルメラが言ってたように説明したのか?」
俺はラ・フォルジュと関係ないってやつ。
「したぞ」
「男子も噂になりかけたからねー」
なるのか……
「そんなにウチとイヴェールってマズいのか?」
「まずその辺を確認したいんだが、お前ってどれくらいラ・フォルジュなんだ?」
フランクが聞いてくる。
「現当主である婆ちゃんに次期当主のエリク君のことを頼むって頼まれたくらい。ついでにラ・フォルジュを名乗るように言われたが、それは拒否した」
そう言うと、フランクとセドリックが顔を見合わせる。
「がっつりだな」
「完全にラ・フォルジュの人間だよ」
まあ、俺もそう思う。
「前に裏口入学って言っただろ」
「あー、ラ・フォルジュかー」
「なるほどね……」
2人も納得したらしい。
「それを踏まえて聞きたいが、マズいか?」
「マズいな」
「ラ・フォルジュとイヴェールは仲がめちゃくちゃ悪いからね」
そっかー……
「どうしようもないな。男子共には説明した?」
「したぞ。むしろ、聞かれたくらいだ」
「皆、興味津々さ」
そうなんだ……
「そんなにウチらって有名なん?」
「まあ、有名といえば、有名だが、そこじゃない」
「ぶっちゃけ、他国の家なんて興味ないしね。男子が興味を持っているのは別」
あれ? そうなの?
「何?」
「そりゃ会長だろ」
「会長は人気だからねー」
あー、そっちか。
「美人だもんな」
「まあな」
「男子なんてそんなもん」
だよなー……
「わかる、わかる」
「お前、会長のことをどう思っているんだ? というか、どういう関係だ?」
「友達」
「断言したな……」
別に付き合っているわけじゃないんだからそうなるだろ。
「ツカサさー、もしもの話だけど、会長がコクってきたらどうする?」
セドリックがアホなことを聞いてくる。
「断る男がいるのか?」
美人で可愛くてスタイルも頭も良いシャルだぞ?
しかも、優しい。
「君は断らないといけないんだよ。ラ・フォルジュの至宝君」
何それ?
「至宝って?」
「本人は知らないか……じゃあ、言うけど、僕も君がラ・フォルジュの人間なことは知っていたよ」
え?
「そうなの?」
「ノエルも言ってただろ。君は社交的で男女問わず、皆とすぐに仲良くなったけど、トウコとだけは不自然なまでに距離を取っていた。気になって調べたらすぐにわかったよ。ラ・フォルジュが誇る天才で至宝。あまり表立ってないけど、ラ・フォルジュの当主様が嫁探し、婿探しに躍起になっているから調べたらすぐだったよ」
うーん、さすがシーガー家。
五指に入る名家だ。
「なんで言わないの?」
「別に言ったところでね……どうせすぐにバレると思った。イルメラが言ってたけど、そっくりなんだもん。でも、君が会長に近づいたことで皆、気付かなかったんだろうね」
そうなのか……
「フランクは?」
「俺は全然、わからんかった。トウコはあまり話す人間じゃないからな」
「あれ、演技だからな。あいつ、クソおしゃべりでめっちゃバカだから」
「想像できんなー。魔法大会はひどかったが……」
死ねを連呼してたもんな。
「まあ、トウコのことはいいよ。今は君と会長」
セドリックが話を戻す。
「俺とシャルがマズいのはなんとなくわかった」
「うん。それでも君は無視するんだろうね」
「俺とシャルがどうなるかはわからんが、付き合う人間は自分で決める。たとえ、親や家がお前らと付き合うなって言っても無視だ」
俺は親が敷いたレールには乗らないのだ。
裏口入学させてもらってなんだけど……
「おー、我が友よ!」
「付き合うって大きい意味だよな……?」
セドリックは大げさだが、フランクはフランクで引いてんじゃねーよ。
当たり前だろうが。
「で? 噂は消せそうか?」
「それは余裕。何でもないって言ったらそれを信じるのが男子さ」
「ラ・フォルジュ云々より会長に彼氏がいるかどうかだからな」
うまく誤魔化せたわけだ。
「女子の方は?」
「あっちはイルメラに任せておけばいい」
「そうだね。女子はイルメラがそうって言えば表立っては言わなくなるから」
えーっと……
「あいつ、番長なん?」
「イルメラは昔からそういうのが得意だ」
「女子はああいうタイプの女子には逆らわないんだよ。ましてや、魔法大会のことがあるからね」
圧倒してたもんなー……
「じゃあ、イルメラお姉様に任せるか」
「そうしろ。昔から男子より女子からモテた女だ」
やっぱり……
「それより、海に行ったんだって? どうだったの?」
セドリックが聞いてくる。
「楽しかったぞ。シャルが花火を作ってくれたんだ」
「へー……」
「それは良い夏だね。なんで会長がいるかは聞かないけど、ユイカとトウコと行ったの?」
聞かないんだ……
まあ、ありがたいけど。
「あとはユキとミシェルさんとシャルのメイドのクロエ」
「ユキは日本だもんね。ミシェル先生は?」
「ラ・フォルジュ派の人間なんだよ。というか、親戚らしい」
いまいちわからんが……
「そうなんだ…………いや、男子は君だけ?」
「すげーな、お前……」
確かにすごいと思う。
「成り行きだな。本当は従兄のエリク君が行くはずだったんけど、ダメになったんだ」
「なるほどねー。一応、男子トークとして聞いてあげる。誰が一番良かった?」
「シャル」
うん、シャル。
「そっかー……僕、もうダメな気がするよ」
「ダメだな、これは……」
セドリックとフランクが顔を見合わせる。
「一緒に遊んだというか、海で魔法の訓練と泳いだのはシャルだからそうなる。ミシェルさんとクロエはチェスをしていたし、妹と他2名は遠いところまで行ってた」
「そっかー……僕、もう絶対にダメな気がするよ」
「他の連中も見事に空気を読んでんな……」
いや、絶対に読んでない。
「俺のことはもういいわ。お前らはどうだったんだ?」
「親戚と会ってばっかりだったな」
「移動と他所の家の人と会ってばっかりだったね」
つまんねー。
「この夏の勝者は俺か」
「そうだな」
「ツカサ、もし、家を追い出されて、夫婦で子供を抱えて路頭に迷ったらすぐに頼るんだよ?」
なんで結婚して子供がいることになってんだよ。
自慢じゃないが、実家は太いんだぞ?
問題ないわ。
「俺は熊とワニを狩って、生計を立てるから大丈夫。あ、それとさー、ウチの親がうるさくて、外にはトウコと行けって言ってきてるんだわ」
さすがに誘拐未遂の話は言えない。
「行けよ」
「君らならワニでも何でも狩れるよ」
「妹と2人は嫌なんだ。付き合ってくれ」
頼むよー。
「嫌なのか?」
「双子は一緒にいるとセット感が増すんだ。小学校、中学校の頃の俺のあだ名を知ってるか? お兄さんの方、だぞ」
女子はほぼそれだった。
なお、男子はトウコのことを妹の方と呼んでいた。
「あー、そうなるのか」
「確かにそうなるかもね。もし、一緒に入学して苗字も同じだったらそう呼ぶかもしれない」
これは仕方がないことである。
だって、逆の立場なら俺もそう呼ぶと思うし。
「そう言うわけでお前らも付き合ってくれ」
「別にいいぞ」
「大所帯の方が楽しいじゃないか。僕とノエルは安心だよ」
女子連中とも行った方が良いか。
よく考えたら魔力が高いのは俺達に限った話ではない。
ユイカも高いし、イルメラだってそこそこある。
「持つべきものは友だなー」
「そうそう。あ、そんな友におみやげがあるよ」
セドリックがそう言って、何かのジャーキーをくれる。
「何これ?」
「カンガルー」
えー……
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




