第173話 ちゃんちゃん
家に帰ってきて以降も特に外に出ることはなく、家で過ごした。
週末になり、従兄姉妹3人が訪ねてきたりもしたし、色々あったが、楽しい夏休みだったと思う。
そして、日曜日の夕方になり、超憂鬱になっていた。
「わかる?」
『わからないでもないわね。絶対に明日の朝がきつい』
電話越しにシャルが答える。
本当は土曜日に会う予定だったのだが、シャルの実家の都合で急遽、会えなくなったのだ。
それでさっきシャルから電話がかかってきた。
「結局、いつ実家に帰ってきたん?」
『さっきよ、さっき。つまらなかったし、無駄な話ばかりで最悪だったわ。気付いたら夏休みが終わっちゃった。他にもやる予定があったのに』
「予定?」
錬金術に1000円。
『やりたい研究がいっぱいあったの』
ほらね。
「お疲れ」
『そっちはどうだった?』
「色々あったね。今度会ったら話すわ」
どうせミシェルさんも来るだろ。
その時にどうなったのかも聞こう。
『ふーん……ちょっと気になるわね』
「ヒントを言うと、俺とトウコが兄妹なことをバラすことになった」
『全然わかんない……ラ・フォルジュでも名乗ることになったの?』
なるほど。
そう思うか。
「ツカサ・ラ・フォルジュはないでしょー」
『あなたに悪いけど、ないわね』
シャルもそう思うらしい。
「だろー。まあ、今度話すわ」
『わかった。じゃあ、また金曜の呪学の時間に』
「そうだなー。ちょっと早いけど、おやすみー」
『ええ。おやすみなさい』
電話を切って顔を上げると、部屋の中を覗いているトウコと目が合った。
「何だよ」
「彼女との電話は終わった? ご飯だよ」
彼女じゃねーよ。
「明日から学校って知ってるか?」
「知らない。夏休みは1ヶ月ちょっとでしょ」
ホントになー。
2週間はねーわ。
俺達はリビングに降り、夕食を食べた。
明日から学校のため、早めに寝ないといけないのだが、まったく眠気が来ず、結局、夜更かしをしてしまった。
そして、翌朝。
時刻は4時であり、まだ暗い。
「ねっむ……」
「まだ夜じゃん……」
俺とトウコは朝食を食べていた。
「だから早く寝なさいって言ったのに」
母さんが納豆をかき混ぜながら呆れる。
「寝られるわけないじゃん」
シャルから睡眠薬でももらっておけばよかっただろうか?
「いいから早く食べて学校に行きなさい。あ、ちゃんと寝ぐせをどうにかするのよ」
「「はーい……」」
朝食を食べ終えると、洗面台に行く。
「お兄ちゃん、今日の薬草学の授業が終わったらノエルに相談してみるから」
歯磨きをしていると、櫛で髪をといているトウコが言う。
「わかった。何だったら家に連れてこい」
「そうするかな……ちょっと話してみるよ」
「んー」
歯磨きを終え、2階に上がると、制服に着替えた。
すべての準備を終えたのでゲートをくぐり、部屋を出る。
すると、休憩スペースにフランクとセドリックが座って待っていた。
「よー、久しぶりだなー」
「お、おー」
「久しぶり。元気だった?」
セドリックが聞いてくる。
「まあなー。こいつはどうした?」
フランクを指差す。
フランクは俺が挨拶をしたら目を逸らしたのだ。
「うーん、色々あってねー。まあ、行こうよ。遅れちゃうじゃん」
「確かになー」
2人が立ち上がったので1階に降り、寮を出た。
そして、丘を降りていく。
周りには制服を着た男子と女子がおり、学校が始まった感がものすごくする。
「セドリック、おみやげは?」
「後で渡すよ。いやー、やっぱり大変だったよ。何度もホームシックもとい、寮シックになった」
「マジで世界中を回ったん?」
「回ったよ。飛行機が寝る時間」
すごいなー……
「フランクはどうだった?」
「ん? あ、ああ。久しぶりに会えた親戚もいたし、悪くはなかったな」
こいつ、マジでどうした?
「俺も2年ぶりに従兄姉妹に会ったわ」
「あ、そういえば、デートはどうだったの?」
セドリックが聞いてくる。
「商業区でデートしたけど、時差の関係できっつい。夜だぜ?」
「あー、ヨーロッパとは逆だしねー」
ホントだわ。
「そうそう。そこでユイカとユキにも会ったわ。あいつら、演習場で殺し合いをしてたらしい」
「物騒だねー」
「なー?」
うーん、フランクが本格的におかしい。
話にまったく入ってこない。
「お前、マジでどうした? 風邪か?」
フランクに確認してみる。
「いや、そういうわけじゃない……んー、まあ、後で話すわ。ちょっと噂があってな」
噂……?
「お前も知ってるん?」
セドリックに聞いてみる。
「うーん、知ってるというか、真実の方を知っているというか……何とも言えないね」
こいつ、何を言ってるんだ?
「え? 何? 俺がバカなことがバレた?」
「それは初日でバレたよ」
「イングランドとドイツを知らないのは相当だったしな」
いや、それはヨーロッパ勢の驕りだ。
皆、知らんよ。
ソースはユイカ。
「うーん、何だろ?」
「まあ、後でいいじゃないか。まずは授業。君が力を入れている基礎学だよ」
「確かになー」
俺達は丘を降りると、D校舎に向かった。
そして、校舎に入ると、教室の扉を開ける。
「ん?」
教室では珍しくイルメラとユイカとノエルの3人が座っているトウコを囲んで立っていた。
なお、トウコはものすごい嫌そうな顔をしている。
「あ、ツカサじゃないの! 良いところに来た!」
イルメラが俺を見てくる。
「何? 2週間ぶりに会った親愛なるクラスメイトに挨拶しろよ。おはー」
「おはー。ねえねえ、そんなことより、トウコと付き合ってるってマジ?」
は?
「なんで俺がラ・フォルジュさんと付き合わないといけないんだ?」
ねーよ。
世界で一番近くて遠い存在だぞ。
「いやさ、夏休みにトウコが寮のあんたの部屋にしけこんだって噂になってる」
……え?
あ、ラ・フォルジュの家から帰った時だ。
あー……フランクがおかしいのも噂っていうのもこのことか。
チッ! 誰か寮にいて、見られてたのか……
「いや、気のせいだと思うわ」
「そうですよ。ありえません」
俺が否定すると、トウコも否定した。
「怪しい……すごく怪しい……」
「違うってば」
「そうですよ。いい加減、怒りますよ?」
トウコ、もう怒ってね?
なんか寒いぞ。
「はいはい……でも、あんたら避妊はしなさいね。学生結婚は大変よ?」
イルメラのにやけ面にイラっとした。
「「兄妹だよ! 見りゃわかんだろ!」」
俺とトウコはどこぞの両親を想像しちゃったので口を揃えて、即否定した。
ここまでが第4章となります。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
引き続き、第5章もよろしくお願いいたします。




