第172話 帰宅
俺達はアストラルの住居区から学園にやってきた。
そして、寮を目指して歩いていく。
「うーん、いまいち実感がわかないなー」
「寝てたからな。お前、一服盛られてたって言われてたけど、何を飲んだの?」
「お風呂上りに何か飲もうと思ってキッチンに行ったら私のコップがなくて、探してたら冷蔵庫にジュースが入った私のコップがあった」
ひでー罠……
「それだな。ヨハンが入れたんだろう」
「おのれー! そんな巧妙な罠をしかけるとは! どおりでめちゃくちゃ眠かったわけだ!」
巧妙だなー……
「シャルに薬を無効化するか薬が入っているかわかる魔道具を作ってもらおうぜ」
そんなもんがあるかは知らんが。
「それだ! それでそのヨハンはどうしたの? 捕まえた?」
「いや、逃げた」
ジョアン先輩も捕まらなかったし、多分、逃げ切っているだろう。
「今度会ったらぶっとばしてやる」
「そうだな。お前、ちゃんとミシェルさんに師事しろ」
「わかってるよ……それとお母さんはどうする?」
それな……
「元々、一人では外に行くなと言われるんだよなー」
だから皆で行くから大丈夫は通じない。
「だよね。どうやったら外にいけると思う?」
「ミシェルさんと一緒に行くって言うかだな」
「それでいけるかねー?」
「わからん」
母さんがどこまでミシェルさんを信用しているかだろう。
「お兄ちゃんさ、そろそろ他人のふりは潮時かもね」
「婆ちゃんもなるべく一緒にいろって言ってたもんな」
そういうことだろう。
「ちょっと夏休み明けにノエルにでも相談してみるよ。あの子は笑わないだろうし」
優しさの塊だもんな。
色んな意味で包容力もあるし。
「頼むわ。トウコ、お前もこっちから帰れ」
男子寮と女子寮の分岐点まで来ると、トウコの腕を取る。
「男子寮から? あー……確かにここからが危ないか」
寮には誰もいない。
もし、まだ誘拐犯が別にいるのならば、俺達が別れることになるここが一番危ない。
「男子寮も誰もおらんし、見つからんで済むだろ」
とはいえ、俺が女子寮に行くのはヤバい。
「わかった。お兄ちゃんの部屋から帰ろう」
俺達は男子寮まで行き、階段を昇っていく。
「女子寮と一緒だねー」
「そうなん?」
「うん、構造はまったく一緒」
「そんなもんか……」
俺達は2階に上がり、俺の部屋の前まで来る。
そして、鍵を開けると、扉を開けた。
「すげー嫌なことを言ってもいい?」
トウコが聞いてくる。
「言わんでいい。同じことを思った」
母さんもこんな感じで父さんの部屋に来たんだろうなーって思った。
「ロクな親じゃないね」
「ホントだわ」
俺達は部屋に入ると、すぐにゲートをくぐった。
そして、俺の部屋を出ると、1階におり、リビングに向かう。
すると、リビングには父さんと母さんがテーブルについていた。
「「ただいまー」」
「トウコ!」
リビングに入り、声をかけると、母さんが立ち上がり、トウコを抱きしめた。
「何ー?」
「無事で良かった……」
母さんは泣いている。
「父さん、なんでいるの? 仕事は?」
今日は水曜日だ。
当然、休みではない。
「休んだ。トウコがいなくなったと聞いて、仕事なんかできんわ」
「それもそっかー」
確かに仕事なんかしてる場合じゃないわ。
「お母さん、放して。あと、お腹空いたからご飯」
「あ、俺も」
「あなた達、軽いですね……」
母さんがトウコを放して呆れる。
「別にいいじゃん。ご飯はー?」
「ちょっと待ってなさい」
母さんがキッチンに向かった。
「トウコ、怪我はないか?」
父さんがトウコに聞く。
「ないねー」
「そうか。さっきお婆ちゃんから電話があったんだが、トウコが無事で良かった」
婆ちゃん、電話したのね。
「ラ・フォルジュの派閥に裏切者だって。私はあの男を最初から怪しいと思ってたんだよね」
嘘つけ。
すげー興味なかっただろ。
「とにかく、無事ならそれでいい」
父さんが頷くと、母さんが戻ってきて皿をテーブルに置いた。
「食べなさい」
「あー、ピザだ! 出前取ったな!」
「子供達がいないからって自分達だけでピザか! ずるいぞ!」
絶対に昨日の残りもんだろ、これ。
「いいから黙って食べなさい」
俺とトウコはピザに手を伸ばし、食べ始める。
シーフードか。
肉が良かったな。
「ツカサ、トウコ。あなた達が狙われていることは理解してますね?」
「してる」
「俺に至ってはだいぶ前からしてる」
「ツカサの件を知らせなかったことについてはお母さんがお婆ちゃんにヒスっておきました」
ヒスんな。
「それでミシェルさんね。海にもついてきた」
「わかってます。ですが、ミシェルだけでは厳しい面もあります」
「一人だしな。派閥内に誘拐犯がいたことで増援も厳しそうだわ」
「そうなります。ミシェルは一族ですし、信用できます。ですが、四六時中、あなた達の護衛は無理です」
まあね。
どう考えても無理だ。
「別にいらん」
「いえ、いります」
「じゃあ、どうすんの? ずっと家に籠ってろと?」
「学園には引き続き、通ってください。ですが、それ以外の外出は制限します」
うぜー。
「無視無視」
「ホントだよね。毒だよ、毒。毒親だ」
「あなた達のためを思って言ってるんです」
本当か?
自分が心配だからじゃないか?
「そもそもさ、家がなんで安心なの? 母さんに何ができるん? 戦闘になっても足手まといなだけだぞ」
「だよねー。逆上がりもできないじゃん」
「あなた、言ってやってください」
母さんが父さんの腕を触る。
「ジゼル、家を出るなはやりすぎだ。子供達の成長の妨げになる」
父さんは反対のようだ。
「でも……」
「この子達は制限しても勝手に抜け出す。それにツカサは……」
「あー……シャルリーヌさん」
そうそう。
俺には勉強会があるのだ。
「ああ。それにこっちの世界で魔法を使うのは厳しいだろうし、こっちは安全だろう。それよりもアストラルだ。学園は大丈夫だろうが、それ以外がマズい」
「確かにそうですね」
あ、町の外に行けなくなるっぽい。
「そうですね……ツカサ、トウコ。学園から出ないように」
「「はーい」」
誰が聞くか。
「あなた、どうしましょう? 聞く耳を持っていません」
わかるらしい。
「だろうな。ツカサ、トウコ。別に出てもいいが、一緒に行動しなさい。お前達が揃えば敵はいない。それとできるだけミシェルさん、もしくは、友達でもいいから何人かで行動しろ。魔法使いは数が物を言うから複数人なら絶対に襲ってこん」
トウコと出かけたくないが、ここが妥協点だろうな。
父さんだって外に出てほしくないだろうが、俺達が勝手に行くと確信している。
だから妥協して、こう言っているのだ。
これを蹴ると、本格的に町の外に行けなくなる。
何しろ、町の外に行くには親の同意がいるのだ。
俺とトウコは顔を見合わせる。
「どうする?」
「もう他人のふりは無理でしょ。このまま他人のふりを続ける場合は最悪、恋人同士って思われるかもよ?」
それ、最悪。
「仕方がない。ノエルに言って、上手い具合にしてもらおう」
「そだね。ノエルに任せよう」
うん、ノエルなら何とかしてくれる。
その後、昼食を食べ終えると、2階に上がり、休むことにした。
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