第171話 無事
トウコを背負った俺はユイカとユキに付き添ってもらい、住居区に戻ってきた。
そして、ラ・フォルジュの屋敷に着くと、ゲートをくぐる。
「ツカサ!」
ゲートがある部屋には婆ちゃんが一人で待っていた。
「婆ちゃん、トウコは救出した」
「よくやった! そちらの2人は?」
婆ちゃんがユイカとユキを見る。
「同級生だ。たまたま会ったから手伝ってもらった」
「そうかい……2人共、ありがとうね」
婆ちゃんがユイカとユキに礼を言った。
「私は特に何もしてない」
「私もだね。もうちょっと敵が多かったら活躍できたのに……」
2人はちょっと不満そうだ。
「婆ちゃん、こいつらは戦いに人生を捧げた戦闘民族だから気にしないで」
日本の評判を悪くしていると思う。
「そうかい……とにかく、孫を救ってくれて助かったよ。ツカサ、トウコは?」
「寝てる。部屋に連れていくわ」
「頼むよ。私は他の連中に伝える」
「ん。ユイカ、ユキ、こっちだ」
2人を連れて、部屋を出ると、俺とトウコの部屋に向かう。
そして、部屋に着くと、トウコをベッドに寝かした。
「いやー、豪邸だね」
「さすがはラ・フォルジュだな。しかし、こう言ってはなんだが、私達は場違いだな」
人柄云々より和服と体操服だもんなー……
「一族の俺とトウコも場違いだよ。お前ら、ありがとうな。助かったわ」
「気にしないでいいよ。当然のこと」
「うむ。海に行って、肌を晒した仲間……いや、これはないか」
ないね。
ボケも考えたまえ。
「トウコちゃん!」
従兄姉妹の3人が部屋に入ってきて、寝ているトウコのもとに行く。
「おー……イケメンと美女……ってか、すごっ」
ユイカが従兄姉妹3人を見渡し、最後にセレスちゃんを凝視する。
「私は君もかっこいいと思うよ……」
ユキが俺の肩に手を置き、慰めてくれた。
普通って言ってたくせに。
「余計なお世話だ。俺は庶民的で分け隔てなく接するナイスガイで売ってるんだよ」
「うんうん。見事にジュリエットが買い占めたよ」
なんでシャル?
というか、お前ら、いい加減、シャルのことを名前で呼んでやれ。
「ツカサ、何があった?」
エリク君が聞いてくる。
「俺を狙った奴らだな。というか、ヨハンだった」
「ヨハン!?」
「詳しいことはミシェルさんに聞いて」
「わかった。2人共、トウコを救ってくれて感謝する。また、後日、正式に礼をさせてくれ」
エリク君も2人に礼を言った。
「礼を言われることではない。私は当然のことをしたまで」
「このセリフを言う時が来たか……友人を救うのに理由がいるのかい?」
ユキがドヤ顔をする。
「……うん。ありがとう」
エリク君が反応に困っている。
「スベったね」
「ふむ……そういうこともあるだろう。さて、ユイカ、帰ろう」
「そうだね。場違いだし、ユキがこれ以上、スベったらいけない」
2人は帰るらしい。
「送ろうか?」
「いらない」
「君は妹についているといい。セットだろ」
セットじゃねーよ。
「今度、ジュースを奢ってやるからな」
「カフェね」
「ケーキセットな」
2人はそう言うと、帰っていった。
「よし、寝る」
俺は自分のベッドに入る。
もう時刻は朝の5時なのだ。
「寝てないもんな。寝てていいよ」
「おやすみー」
俺は目を閉じると、緊張も取れ、あっという間に抗えることのない睡魔に襲われた。
◆◇◆
「お兄ちゃーん」
トウコの声と身体を揺すられる感覚で目が覚める。
「何だよー……」
めっちゃ眠い。
「いや、さすがに起きなよー。もう昼だよ」
「俺は5時に寝たの」
「そんな遅くまでデートしてたの?」
こいつ、寝てたから全然、状況をわかってないな……
「ハァ……婆ちゃんのところに行くぞ」
そう言って起き上がる。
「お婆ちゃん? 何かあるの?」
「あるな。お前、誘拐されたんだぞ」
「何言ってんの? 夢でも見た?」
夢だったら良かったわ。
「いいから行くぞ」
俺とトウコは部屋を出ると、婆ちゃんの書斎に向かった。
そして、婆ちゃんの部屋の前に来ると、扉をノックする。
「婆ちゃーん、トウコが起きたぞー」
「起きたのはお兄ちゃんでしょ。私は5分前に起きた」
こいつ、たった5分で偉そうに起こしてきたのかよ……
『入りな』
婆ちゃんの声が聞こえたので扉を開け、中に入った。
「トウコ、身体は大丈夫かい?」
デスクにつく婆ちゃんがトウコに聞く。
「何が? ちょっと寝すぎなくらいかな」
トウコが首を傾げると、婆ちゃんが俺を見てくる。
「こいつ、全然、わかってないっぽい」
「そうかい……トウコ、あんたは攫われかけたんだよ」
「だからそれは夢だよー……え?」
笑いながら俺の方を叩いたトウコだったが、すぐに婆ちゃんを凝視した。
「夢じゃないよ。あんたはヨハンに一服盛られて、他所の町に連れていかれそうになったんだ」
「一服!? 他所の町!? 何言ってんの!?」
叫ぶなよ。
こっちは寝起きだぞ。
「ハァ……あんたは魔力が高い。だから他所の町の人間はあんたが欲しいんだよ。正確にはあんたの血だね」
「血!? 蚊!? それとも吸血鬼!?」
「そういう意味じゃないよ。あんたは魔力が高いからあんたの子は高確率で優秀な魔法使いだ。それが欲しいんだよ」
「……ん? え? なんか言ってることヤバくない?」
ヤバいな。
俺はまだしもトウコの場合はかなりヤバい。
「そうだね」
婆ちゃんが神妙な顔で頷いた。
「お兄ちゃんでいいじゃん!」
「ツカサも以前、狙われたよ。だから護衛でミシェルをつけたんだ」
その人は俺ではなく、いつもチェス盤を見ているけどな。
「そうなの!?」
トウコが聞いてくる。
「というか、今回も俺狙いだったみたいだな。でも、無理そうだからポンコツのお前にチェンジしたみたい」
「ガーン! 取ってつけたオマケ感……」
オマケだよ。
「俺の方が魔力は高いからな」
「お兄ちゃんが他所の町に行って、子供を作りまくればいいじゃん! スケベ!」
「お前も作りまくれよ、スケベ」
「嫌に決まってんじゃん!」
まあ、そうだろうね。
「いや、あんたらが想像しているようなことじゃなくて、もうちょっと現代的だろうけどね」
クローンとかかな?
これ以上、同じ顔はいらんぞ。
「どっちみち、嫌だよ! どこの町なの!? 戦争だ! こっちから攻め込んで滅ぼそう!」
さすがはバーサーカー2号。
過激だ。
「その辺はこっちで考える。大事なのはツカサだけじゃなく、ラ・フォルジュを名乗るトウコまで狙われたこと。そして、ウチに裏切者がいたことだよ」
俺の時より大事っぽい。
「婆ちゃん、どうするんだ? トウコにも護衛をつけるか?」
「一族のミシェルに任せる。今は他の派閥の者も信用できない」
まあ、あの人は裏切者ではないだろう。
俺と共にイヴェールというかシャル派に寝返って、トウコを倒したけど。
「護衛なんかいらないよ! ぶっ潰してやる! スーパーエリートウコ様を舐めるな!」
「あんたはまずその短絡的なところを直した方がいいね」
うん、ホントにね。
「その辺もミシェルさんがどうにかするってさ。この前の魔法大会は俺についたけど、今度はトウコにつくらしい」
コウモリさん。
「わかった。ミシェルに任せる。それと外に出るなとは言わないけど、なるべく一人で出歩かないこと。あと、どこに裏切者がいるかわからないからなるべく一緒にいな。お互いが絶対に裏切らないだろ」
兄妹だもんな!
「裏切者……」
トウコがジト目で見てくる。
多分、シャルについたことだろうな。
「婆ちゃん、母さんには?」
「伝えてあるよ」
えー……
「町の外に出るなって言われそう……」
「絶対に言うでしょ。最悪……」
「ジゼルは過保護だからね。それでそのジゼルが今すぐ帰ってこいって言ってるからすぐに帰りな。ただし、ちゃんと2人で帰るんだよ」
まあ、この状況ではさすがに別々に帰るのは危ないか。
「エリク君達は?」
「あ、そうだね。挨拶をしないと」
「3人共、寝てるよ。さすがに寝てないし、緊張の糸がほぐれたんだろう」
あれからずっと起きてたわけか。
「じゃあ、謝っておいて」
「また会おうねーって伝えておいて」
「わかった、伝えておく」
婆ちゃんが頷いたので一度部屋に戻り、帰る準備をすると、ゲートをくぐった。
今週は土曜にも投稿します。
よろしくお願いします!




