第170話 救出
目の前にはヨハンさんが不敵な笑みを浮かべて、立っている。
「え? 誰?」
ミシェルさんは知らないようだ。
「なんかラ・フォルジュの家にいた…………えーっと、何ていう苗字でしたっけ?」
覚えてないわ。
「ランドローだよ。ヨハン・ランドロー」
ヨハンさんは律儀に教えてくれた
「ランドロー!? ウチの派閥じゃないの!? 何してるのよ!?」
「ミシェル・アンヴィルか……優秀と聞いていたが、そうでもないな。このガキ3人以下か……」
「何ぃ!? 気にしていることを!」
あ、気にしてたんだ……
「ミシェルさん、ちょっと黙っててくださいね。おい、お前、トウコはどこだ?」
「トウコさんならその列車の中だよ」
ヨハンさんが俺達が捜索しようとしていた列車を指差した。
「ユイカ、頼む」
「わかった」
指示を出すと、ユイカが列車の中に入っていく。
「なんでトウコを攫った?」
「本当は君を攫いたかったんだけど、難しいと判断した。一方でトウコさんは楽だったよ。警戒心がまったくない。天才、天才ともてはやされたバカな子供だな」
ぐぬぬっ、反論できない!
「お前、他所の町の魔法使いだな?」
「そうだね。ウォーレスとジョアンが失敗したから私に命が下った。もっとも、こちらも失敗したがね」
やっぱりそっち関係か。
「ちょ、ちょっと待って! なんでラ・フォルジュ派のあなたが他所の町なんかと繋がるのよ!」
ミシェルさんが前に出てきた。
「派閥か……イヴェールもラ・フォルジュも実に愚かだ。いつまでも対立し、時間を無駄にしている」
「何ぃ!?」
「ちょっと待ちなさい! ラ・フォルジュはともかく、イヴェールまで批判するんじゃないわよ!」
イヴェール派のメラニーさんまで前に出てくる。
「一緒だよ。イヴェールもラ・フォルジュも昔ならいざ知らず、現在では争う理由なんかない。だが、昔の恨みをいつまでも引きずっているだけだろう。実際、対立する派閥同士は裏でこっそり仲良くしているというのに……」
ヨハンさんがそう言うと、ミシェルさんとメラニーさんが気まずそうに顔を見合わせた。
どうやらこの2人も友達同士っぽい。
「イヴェールとラ・フォルジュの対立なんかどうでもいいわ。なんでラ・フォルジュを裏切ったかを聞いているんだよ」
そう聞きながらミシェルさんとメラニーさんの肩を掴んで下がらせる。
「魔法使いの未来のためかな」
「は? 何を言ってんだ、お前?」
未来のためになんで俺やトウコを誘拐するんだよ。
「ツカサ君、話なんかをしても無駄だよ。誘拐という選択肢を取る奴に会話なんて不要。ただ四肢を切断すればいい」
ユキがすげー物騒なことを言ってきた。
「白川の御令嬢か……父親の方は愚かだったが、娘の方もただの戦闘狂か」
「ふっ、つまらん挑発だ。私は乗らんぞ。たかが魔力値75程度の雑魚がいくらほざこうが心に響かん」
さっきから言ってる魔力値って何だろ?
「魔力で人を測らん方がいいぞ。足元をすくわれる」
「その魔力に価値を見出して双子を攫おうとしているバカが何を言ってる? それに魔力どころかそれ以上に私と貴様の実力差は明白だ。私は貴様のような暗殺向きの魔法使いには滅法強いんだよ」
「試してみるか?」
「試す? これまた滑稽な……状況がわからんのか?」
ユキの上にある白い剣の数が増える。
「傲慢な子供を躾けるのも仕事かな?」
ヨハンさんが構えた。
「くだらん時間稼ぎだ。尻尾を巻いて逃げている奴が何を言う? 傀儡だろう」
傀儡?
「チッ!」
ヨハンさんが背を向けて走り出す。
「千剣」
ユキの上にある白い剣が発射されると、一気にヨハンさんに襲い掛かった。
すると、ヨハンさんは千剣を魔法で撃ち落としていく。
俺はヨハンさんが最後の剣を撃ち落としたと同時に右足に力を込め、駆けだした。
そして、一気に肉薄すると、ヨハンさんの顎に掌底を入れる。
「チッ!」
ヨハンさんは舌打ちをすると、膝をつき、崩れ落ちた。
すると、ヨハンさんの身体が泥に変わっていく。
「ジョアン先輩の泥人形か……」
「つまらん魔法だ。ミシェルさん、メラニーさん、敵が逃げたぞ。包囲網でもなんで敷くといい。もう遅いだろうがな」
ユキがそう言うと、2人が顔を見合わせる。
「わ、私は暗部に連絡するからあなたは鉄道警備隊の上にかけあって!」
「わ、わかった!」
2人は走って階段を駆け上がっていった。
「ツカサ君。あの人達、大丈夫か?」
「大丈夫でしょ。それより、トウコだわ」
「それもそうだね」
俺達は列車の中に入っていく。
列車の中は暗いが、多くの木箱が積まれているのが見えた。
「ユイカー? いるかー?」
「こっちー」
列車の後ろの方から声が聞こえてきたのでユキと歩いていく。
すると、とある木箱の後ろに腰を下ろすユイカとそのユイカの前で寝ているトウコを見つけた。
「トウコは無事か?」
「うん、寝てる」
ユイカが頷いたので腰を下ろして、トウコを見る。
トウコはTシャツで短パンであり、いつもの寝間着姿だった。
「うーん……もうフォアグラは食べられないよぅ……」
「なんてベタな寝言を言う奴なんだ……」
リアルで初めて聞いたわ。
「とりあえず、連れて帰った方が良いね。ラ・フォルジュのお屋敷?」
ユイカが聞いてくる。
「そうだな。そこからパリだ」
「まだ敵がいる可能性がある。私達も付き合おう」
ユキがそう言って頷いてくれた。
「悪い。頼むわ」
俺はトウコの腕を取ると、背負って立ち上がる。
そして、列車から出ると、来た道を引き返していった。
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