第169話 駅
「ミシェルさん、駅に行きたいって思えばいいんですか?」
「そうね。それで行ける。急ぎましょう」
俺達は転移の魔法陣に順番に乗っていく。
そして、視界が晴れると、目の前には下に降りる階段があった。
「地下鉄?」
「そうね。駅は地下にあるのよ」
荒野を走る列車を想像していたのだが、地下か……
「行きましょう」
「ええ」
階段を降りていくと、改札口のようなところに着く。
そして、その近くには部屋みたいなところがあり、ガラス越しに駅員さんみたいな人が見えた。
「あなた達はここで待ってて。確認してくるわ」
ミシェルさんがそう言って部屋に入ると、駅員さんと何かを話し始めた。
「お前らに事前に言っておくが、敵がいた場合、見た目で判断するなよ。ウォーレス先生は違法な強化薬で魔力を底上げしていた。気を付けろ」
ミシェルさんを待っている間に2人に忠告する。
「問題ないよ。魔力なんて1つの要素に過ぎない。ソースはジュリエットに自爆されて負けた私」
「うむ。殺し方なんて幾通りもある。任せておけ」
なんかさっきから特にユキが怖いなって思ってたが、いつの間にか目が開いているし……
「ユイカは知ってたけど、ユキの家もそんなんなのか?」
「そんなんとは?」
「こう……殺傷能力高めの家というか……」
物騒というか……
「君の家もだろ。武術や剣術を主としている家が殺傷能力低めの家なわけがない。狭い島国で血みどろの内戦を繰り返してきた日本だぞ」
日本って穏やかなイメージがあるんですけど……
ってか、長瀬の家も?
「そ、そっかー……ユキも暗部に入ったら?」
「私は当主だ。それに私の技は目立ちすぎるからこっそり動くことが主の暗部向きではないだろう」
確かにそうかもしれない。
千剣なんて目立ちすぎる。
俺達が話をしていると、ミシェルさんが戻ってきた。
「駅員に話を聞いたけど、ツカサ君が最後にトウコさんを見た時間から今まで出発した列車はないそうよ」
ひとまずは安心、か?
「次に出るのは?」
「30分後にDホームから出るらしい。こっちよ」
ミシェルさんが改札を抜けていったので俺達も続く。
そして、走って駅内を進んでいき、何回か階段を上り下りしていった。
すると、大きくDと書かれたホームに到着する。
「これが魔導列車か……」
目の前の線路には大きな列車があるが、日本の地下鉄にある電車ではなく、昔の蒸気機関車みたいな形をしていた。
「中を捜索しましょう」
ミシェルさんがそう言ったので列車の中に入ろうとする。
「――何をしているんですかっ!?」
遠くから大きな声が聞こえたので見てみると、ホームの先に警備服を着た黒髪の女性がこちらに向かって走ってきていた。
「チッ! 鉄道警備隊ね。面倒な……」
ミシェルさんが舌打ちをする。
「何すか、それ?」
「そのまんまよ。鉄道の警備をしている人。それにあれは……さらに面倒なことにイヴェール派のメラニー・ラプラスよ」
イヴェールかい……
「そりゃ面倒だわ」
俺達が待っていると、すぐに目を吊り上げたメラニーさんがやってくる。
「勝手に構内に……って、ミシェルじゃないの!? あなた、何してるの!?」
ん?
「知り合いですか?」
ミシェルに聞いてみる。
「同級生よ。この子はラプラスって武家の名門の子なんだけど、魔法大会で一回もクロエに勝てなかった可哀想な子」
出た、クロエ無双。
「あんたも勝てなかったでしょうが! いや! そんなことはどうでもいいわ! ミシェル、何してるのよ!? ここは立入禁止よ!」
「ウチのトウコさんが誘拐された可能性があるから捜索するのよ」
ミシェルさんはそう言って何かに手帳を取り出して、メラニーさんに見せた。
「暗部……あなた、暗部なんかに……いや、それはいいわ。誘拐って何? トウコさんってトウコ・ラ・フォルジュ? ラ・フォルジュなんか見てないし、警備はバッチリよ」
バッチリ?
あなた一人しか姿が見えませんが?
「悪いけど、あなたと話している時間はない。勝手に捜索するわよ」
「ま、待ちなさい! そんなに勝手が許されるわけないでしょう! 暗部だか何だか知らないけど、ここは鉄道警備隊の領分よ!」
各部署でシマがあるのかね?
「じゃあ、許可をちょうだい。トウコさんはラ・フォルジュの至宝よ。何かあったらどうするのよ?」
「許可なんて出せるわけないでしょ! 列車の中には輸送する物資がたくさん積まれているし、それこそ物資に何かあったらどうするの!?」
話にならんな。
「ミシェルさん、こいつを黙らせていいか? 今のセリフは敵のラ・フォルジュの子より荷物と言っていると取った。話にならんから強硬突破だ」
「おっ、やる?」
「魔力値65……そこまでの魔力ではないな……殺さなくて済むだろう」
ユイカとユキが双剣と刀を取り出した。
「え? 何、このテロリスト達……ミシェル、この子達、誰?」
メラニーさんが若干、引きながらミシェルさんに聞く。
「ツカサ君はトウコさんのお兄さん。あと2人はその友人。見ればわかるでしょうけど、話が通じない子達」
「そんなもんを連れてくんな! 完全に戦闘態勢に入っているじゃないの!」
おー、わかるのか。
さすがは武家の子。
「まだかな、まだかな……」
「落ち着け、ユイカ。私がやろう。秘技峰打ちを見せてやる」
ユキがユイカを止めながら腰の刀の柄を指で撫でた。
「そんなに殺気を出して何を言ってんの!? こいつら、ヤバくない!?」
「ヤバいって言ってるじゃないの。まあ、もっとヤバいのは殺気どころか完全に気配を消している……」
ミシェルさんが俺をチラッと見る。
「あと、10秒な。俺は上手だから気が付いたら医務室だ。安心しろ」
「ひょえ! 目の前にいるのに今気付いた! なんかバケモノみたいな魔力を持ったのがいる!?」
メラニーさんが俺に気付き、後ずさった。
「トウコさんのお兄さんだってば。早くしてちょうだい。ラ・フォルジュ派の私は立場上、止めない」
「わ、わかったから……でも、あまり荷物を荒らさないでね。本当に問題になるから……」
メラニーさんがそう言った瞬間、メラニーさんに飛びかかった。
「え?」
「千剣!」
俺がメラニーさんを押し倒すと、ユキが千剣を出し、俺達が降りてきた階段の方に飛ばす。
そして、千剣は誰もいない階段に突き刺さっていった。
「チッ! これを避けるか……」
ユキが舌打ちをする。
「え? 何? 何?」
「あれ」
俺の下にいるメラニーさんがパニックになっているので列車を指差す。
「え? はいっ!?」
列車には何かの傷が付いていた。
「メラニー、ツカサに感謝するといい。ツカサが庇わなかったら首が飛んでたよ」
ユイカが双剣を取り出しながらメラニーさんに告げる。
「え……どういうこと?」
メラニーさんがミシェルさんを見上げた。
「わかんない……」
ミシェルさん、大丈夫かよ……
「敵だ、敵。攻撃されたの。お前ら、そんなんだからクロエに勝てないんだよ」
そう言って立ち上がると、階段の方を見る。
そこには誰もない。
「一人か……」
「魔法かな? 姿を消しているようだけど」
「私には何の意味もないな。何のために普段から目を閉じていると思っている? ふっ、まあいい。千剣」
ユキの上に複数の白い剣が現れた。
「なるほど……日本は独自の進化を遂げた魔法使いが多いとは聞いていたが、本当にその通りのようだ」
男の声が聞こえたと思ったら階段の前に男の姿が現れる。
「あー……お前か」
なるほどね。
そりゃラ・フォルジュの家にも侵入できるわ。
というか、いたな……
「こんにちは、ツカサ君。いや、こんばんはかな?」
その男はラ・フォルジュの家にいたヨハンさんだった。
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