第168話 密輸
俺はユイカとユキにウォーレス先生とジョアン先輩の事件のことを説明した。
「そんなことがあったんだ……あ、だからミシェルがツカサのそばにいるんだ」
「ウォーレス先生が急に辞職されたから変だと思ったが、そういうことか……なるほど、そういうことがあったのなら今回のこともそれに関連しているという発想に至れるな。トウコもツカサ君ほどじゃないが、群を抜いた魔力を持っている」
2人が納得する。
「そういうわけで手伝ってくれ」
「それはもちろんするけど、どうするの?」
「私達はパリに行っても動けんしな」
ユイカとユキが顔を見合わせて、首を捻った。
「そっちはラ・フォルジュの家がやる。俺達はアストラルの方だ。ミシェルさん、どうしましょうか?」
「そうね。もし、今回のトウコさんの失踪が例の事件と関係する場合、トウコさんは他所の町に連れていかれる。その場合のルートは2つ。地球のどこかのゲートから他所の町に行くルート。もしくは、この町から他所の町に行くルートね」
ゲートの場合は捜索が厳しそうだな。
便利と思っていたゲートだが、悪用されるとこんなに面倒とは……
「この町から他所の町に行くルートってのは?」
「1つしかないわ。魔導列車よ」
魔導列車……
そういうものがあるということは最初にフランクとセドリックから聞いたな。
「駅があるんですっけ?」
「ええ。ここからは移動しながら説明するわ」
ミシェルさんがそう言って立ち上がったので俺達も立ち上がった。
そして、会計を済ませると、転移の魔法陣がある建物目指して歩いていく。
「俺、駅に行ったこともないし、魔導列車とやらを見たこともないですよ」
「私もない」
「私もだね」
ユイカとユキもないらしい。
「普通はないわ。ツカサ君が知らないだろうから説明するけど、魔導列車っていうのは他所の町と行き来できる魔法技術が詰まった魔力で動く列車のことよ」
まあ、それは名前で想像できる。
「なんかすごそうですね」
「まあ、実際、すごいんでしょうね。ただ、人の行き来自体はあまりないわ」
「え? なんでです?」
ありそうなもんだが……
俺も他所の町に行ってみたいなという思いはある。
「この町を見ればわかるけど、アストラルの町って観光名所がないのよ。それは当然のことで、アストラル自体がそういうことを目的として作られた町じゃないから。だからどの町も構造はほぼ一緒なの。それが他所の町に行く目的がない理由。それでも知り合いに会いに行くとかで移動するケースもあるけど、それもゲートの存在がある。町と町を繋ぐゲートや転移の魔法陣はないけど、地球を経由すれば時間をかけられずに行ける。わざわざ時間のかかる魔導列車を使う人は少ないのよ」
なるほど……
確かにそうだ。
「じゃあ、なんで魔導列車なんてものがあるんですか?」
「人じゃなくて物資よ。交流自体は少なくても物資は積極的に流通しているし、そういう貿易会社もある。そういった大量の物を運ぶために魔導列車があるの。地球に魔道具を持ち込むことは基本的には禁止しているからね」
すぐに暗部が飛んでくるってシャルが言ってたな……
「それを使ってトウコを他所の町に運ぶ可能性があると?」
「むしろ、それが本命ね。ゲートはセンサーの魔法がかかっているから人だろうが物だろうが密輸が難しいのよ。実際、ウォーレスとジョアンの計画ではあなたを魔導列車で他所の町に連れていく計画だったみたいね」
そうなんだ……
「じゃあ、駅に行けばトウコがいる可能性も高いわけですね?」
もう出発してたらヤバいけど。
「そういうこと。でも、ツカサ君、トウコさん以上に狙われているのはあなたよ。一応聞くけど、本当に行く? 危ないから待機しててもいいわ。私とユイカでトウコさんを捜索するし……」
何言ってんだ?
「妹がピンチかもしれないのに待機しろと? そういうのは俺より強くなってから言え」
その程度の魔力でほざくな。
「だから一応って言ってたのに……」
「まあまあ。私もついているよ」
「どこの雑魚か知らんが、誘拐犯なんか処分してやろう」
バーサーカー2人が威勢の良いことを言う。
「あれ? この中で一番魔力が低いのは私? というか、これ、飛んで火にいる夏の虫状態じゃない?」
ユイカもユキも魔力が高い。
その2人には及ばないが、ミシェルさんも高い。
敵が魔力の高い魔法使い狙いなら全員、誘拐対象だ。
「大丈夫。敵は首ちょんぱ」
「ふふふ、対人戦闘に特化した白川家の当主たる私に挑むとは……」
挑んではなくね?
狩りにいってるじゃん。
「お前ら、トウコの救出が先だぞ。皆殺しはその後だ」
こいつら、大丈夫か?
ちゃんと趣旨をわかってる?
「任せて。最速で斬る」
「何人いるかな? 最低でも2、30人は欲しいね。もっとも、100人来ても相手にならんがね」
なんか怖いな、こいつら……
「穏やかさからかけ離れている3人だ……シャルリーヌさんが欲しい……」
シャルはパリだよ。
「俺は穏やかだよ。ミシェルさん、こっちが本命って言ってましたけど、パリから他所の町に行けないってことでいいですか?」
「これもどうせ知らないでしょうから説明すると、各国にはゲート場っていう施設がある。そこから各町に行けるのよ。ただ、そこは警備が厳重だから密輸なんてできない。当然、誘拐なんてもってのほか」
空港みたいなもんかな?
「それ以外は?」
「それこそ私達が使っているゲートを使うことね。この個人のゲートは運営委員会が許可した者のみが使える。といっても、許可自体はすぐに下りるわ。でも、誰がどの町にいけるゲートを持っているかも把握しているし、センサーがある。誘拐なんてしたら足が付くし、大問題になるからこれを使うのは考えにくいのよ」
なるほど……
だから足がつかない方法か。
「魔導列車に検問とかないんです?」
「あるけど、ゲートほど厳重じゃない。単純に人手不足ね」
ゲートと列車ではなー……
規模が全然違うか。
でも……
「いや、強化してよ……」
「そうね……検問を強化するって話は出ているんだけど、ちょっと急ぐように上にかけあうわ」
「お願いします」
俺達は転移の魔法陣がある建物に着いたので中に入った。
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