第167話 きぐー
ミシェルさんに電話をかけると、数コールで呼び出し音が鳴りやむ。
『はーい? ツカサ君? どうしたのー?』
当然だが、ミシェルさんが出た。
「ミシェルさん、今から会えます?」
『はい? ツカサ君、ラ・フォルジュのお屋敷でしょ? というか、そっちって夜じゃない?』
「現在、夜というか、午前3時です」
ねみー。
昨日もさすがにこの時間までは起きていなかった。
『いや、寝なさいよ。この時間に会いたいって添い寝でもしてほしいの? お嬢様を誘いなさい』
クロエみたいなことを言うな……
というか、婆ちゃんが目の前にいるから下手なことを言えない。
「簡潔に言います。トウコがいなくなりました」
『は? どういうこと?』
「誘拐の可能性があるみたいです。これからアストラルで会えませんか?」
『わかった。すぐに行く。人が多いところで待ち合わせしましょう。商業区のカフェでいい? あなたが男友達とランチを食べていたところ』
さっき行ったカフェだな。
「わかりました。急ですみませんが、お願いします」
『いえ、大事よ。急ぐわ。じゃあ、カフェで』
ミシェルさんはそう言うと、電話を切った。
「婆ちゃん、ミシェルさんが来てくれるそうなんでアストラルに行ってくる」
「気を付けてな」
「ああ」
頷くと部屋を出て、ゲートのある部屋に向かった。
そして、ゲートをくぐり、屋敷を出ると、転移の魔法陣がある建物を目指して歩いていく。
歩きながら周囲を探ってみるが、人がそこそこいるものの、俺を見ている人もいないし、怪しい気配もない。
そのまま何も起こらずに歩き、転移の魔法陣に乗って商業区に来ると、さっきのカフェに向かった。
「ん?」
カフェに着き、扉を開けて中に入ろうとすると、テラスに見知った顔が見える。
「あ、ツカサだ」
「よく会うなー……」
そいつらはリディとのデート中にも会ったユイカとユキだった。
しかし、格好が変わっており、さっきは私服だったのに2人共、魔法大会の時に見た体操服と和服だった。
「お前ら、何してんだ?」
さすがに気になったので、テラスに行き、2人のテーブルについた。
「遊んでいる」
「だねー。君は? デートは終わったの?」
ユキが聞いてくる。
「あっちは今、午前3時だ。さすがに終わるわ」
「パリだったね。でも、デートが終わった後に別の女子と会うのか感心しないね」
「いや、ちょっとあってな……お前らは? 服装が変わってんじゃん」
というか、目立ちすぎでは?
「さっきまでユイカと演習をしていたんだよ」
「殺し合いから始まる友情」
ユイカがピースする。
「さすがはバーサーカーだな。でも、着替えろよ」
「もう帰るからいいかなって」
「ユイカの体操服はともかく、私は民族衣装だからセーフ」
刀を差してないだけマシか。
「どっちが勝ったん?」
「私」
「負けちゃった……」
どうやらユキが勝ったようだ。
「リベンジを果たしたか」
「まあね。君とジュリエット組との闘いを見ればユイカの弱点は丸わかりだったよ」
「最初は斬り合っていたのに徐々に後退されて、気付いたら背中に千剣が刺さってた」
攻撃に集中して、後ろが疎かになったわけね。
ユキの能力はわかっているだろうに……
本当に防御が下手くそだわ。
「それが終わって休憩か?」
「敗者は飲み物を献上」
「紅茶が美味しいよ」
賭けてたのね。
「お前ら、ケーキを奢ってやるからちょっと付き合え」
ちょうどいいわ。
人手が2人もいた。
「何? 何か用事?」
「まあ、何かあったんだろうね。午前3時にこっちに来ているんだから」
察しはつくか。
「ちょっと待ってろ。すぐにミシェルさんが来る」
「ミシェル? 何だろ?」
「さあね。まあ、ラ・フォルジュの問題事だろうけど……あ、ショートケーキください」
「私はモンブラン」
2人が店員さんにケーキを頼んだので俺も眠気覚ましのコーヒーを頼んだ。
そして、3人で飲み食いしていると、ミシェルさんがやってくる。
「ん? なんでユイカとユキさんがいるの?」
ミシェルさんが席につくと、聞いてくる。
「たまたま会ったから手数に加える。ユイカは一応、暗部だし、ユキはマイナー名門仲間だ」
「あれ? 暗部なことを知ってる?」
「仲間……海にも行ったしなー」
2人がそれぞれ反応する。
「いいの? ラ・フォルジュの問題よ?」
「問題ないでしょ。お前らもいいよなー?」
「いや、何のことかさっぱり」
「私は口が堅いから何も言わないよ」
いいみたいだ。
「実はな、トウコがいなくなったんだ」
「あれ? 無視?」
「それは聞いたけど、どういうことなの?」
「いなくなったって言われてもね。具体的な状況を教えてくれ」
ユキにそう言われたので経緯を追って説明することにした。
デートから戻るとトウコの姿がなかったこと、屋敷内にもいなかったこと、そして、ベッドのことと婆ちゃんが言っていた睡眠魔法薬のことも説明していく。
「誘拐……例の件が脳裏にチラつく……」
「例の件?」
「何それ?」
ユキはともかく、暗部のユイカも知らないようだ。
「説明しても?」
一応、ミシェルさんに確認する。
「どうぞ」
「実はな……ちょっと前だが、ウォーレス先生とジョアン先輩が……」
ミシェルさんから許可を得たのでこの前あった事件のことも2人に説明することにした。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




