第163話 腕は不安に思おう!
トウコとの演習が終わり、部屋に戻ると誰もいなかったのでセレスちゃんの部屋に向かった。
「セレスちゃーん、いるー?」
『いるよー。ちょっと手が離せないから勝手に入ってー』
セレスちゃんが許可をくれたので扉を開け、中に入る。
セレスちゃんは何かの書き物をしており、セレスちゃん以外には誰もいない。
「あれ? トウコは?」
「来てないよ。リディのところじゃない?」
そっちだったか……
「何してんのー?」
デスクについているセレスちゃんのところに向かいながら聞く。
「んー? ちょっとした書類だよ。エリクだけじゃ辛いだろうから手伝い」
セレスちゃんは偉いなー。
「セレスちゃんはこれからどうするの?」
「これから? 将来のこと?」
「そうそう」
「あんまり考えてはないね。多分、誰かと結婚するんだろうけど、結婚してもラ・フォルジュを手伝うことになると思う」
セレスちゃんも結婚するのかー。
まあ、セレスちゃんはしようと思えばいつでもできるわな。
「そっかー」
「ふふっ、お姉ちゃんと結婚したかった?」
子供の頃にそんなことを言った記憶がある。
「うーん、8歳上か……」
「おい……」
すぐ陰るなー。
「ごめん、ごめん」
「ツカサ君にアドバイスするけど、年上の女性に年齢のことでからかったらダメだよ」
「はーい」
はんせー。
「でも、急にどうしたの?」
「さっき婆ちゃんにエリク君を頼むって頼まれちゃった」
「あー、その話ね。そんなに重く考えなくてもいいよ。エリクが困ったら助けてあげてっていう程度だから」
まあ、困ってたら助けるけども。
「俺、就職に困ったら逆に助けてほしいんだけど」
「それはエリクも助けるでしょ。でも、自分のやりたいことをした方が良いよ。まだ1年だし、これから見つければいい。ツカサ君は成績も上がっているようだし、未来は明るいと思うな」
セレスちゃんは優しいなー。
『セレスちゃーん、お兄ちゃんいるー?』
トウコの声だ。
「いるよー」
セレスちゃんが答えると、扉が開き、トウコとリディが部屋に入ってくる。
「やっぱりセレスちゃんのところにいるし」
「ツカサ君、お姉様のことを好きすぎるでしょ」
リディがむくれている。
「リディとはデートがあるからなるべく会わないようにしようと思っただけだ。待ち合わせデートっぽいだろ」
「すんげー嘘」
トウコは黙ろう。
「セレスちゃんに相談事があったんだよ」
「ふーん……」
「何だよ」
「いえいえー。お兄ちゃんさー、可愛い系の服とエロかっこいい系の服だとどっちが良い?」
何だ、それ?
あ、リディか……
「可愛い系」
「ほら、お兄ちゃんもこう言ってるよ」
トウコがリディに言う。
やっぱりデートで着る服だ。
どう考えてもリディは可愛い系だろう。
「うーん、もう一回考えてみる。トウコちゃん、来て」
リディはトウコの腕を引っ張り部屋から出ていった。
「ツカサ君、絶対にリディの服を褒めるんだよ」
「わかってるよ」
さすがにわかる。
俺でもわかる。
俺はその後もセレスちゃんと話をしながら過ごしていく。
そして、夕方になると、夕食を食べ、部屋で過ごした。
トウコは風呂に入ったが、俺は入らずに待つ。
すると、時刻は11時になり、お出かけ用に服を着たリディがセレスちゃんと共にやってきた。
「お待たせー。ツカサ君、行こ!」
リディが俺の腕を引っ張ってくる。
「わかった、わかった。じゃあ、行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
「こっちはもう夜中だからあまり遅くならないようにね」
俺とリディは部屋を出ると、ゲートがある部屋に向かう。
そして、ゲートをくぐると、屋敷についたので外に出た。
「明るいなー」
本当に体内時計がバグりそうだわ。
「商業区に行こー」
リディがそう言って、手を握ってきた。
「そうだなー。リディ、似合ってるぞ」
リディは可愛らしいワンピースの服を着ており、髪も結んでおしゃれをしている。
「ありがとー。ツカサ君もかっこいいよ」
普段の格好だけどな。
いや、普段からかっこいいってことか。
可愛い子だわ。
「何か見たいものでもあるか?」
転移の魔法陣がある建物を目指しながら聞いてみる。
「あのね、魔道具が売ってる店に行きたいんだ」
魔道具……
俺が最初に行ったあのデパートのことだろう。
間違ってもシャルが好きな怪しい市場ではない。
「行ったことないのか?」
「アストラルは子供を連れてこないって暗黙の了解があるんだよ。理由は昨日言ったやつ」
子供はべらべらしゃべるからか。
「じゃあ、アストラル自体にあまり来たことがないのか」
「最初に来たのは今年の3月だね。ウチがギスギスしてた時」
ギスギス?
「ケンカでもしてたのか?」
「ツカサ君をどうするかで揉めてた」
……ごめんね。
「ウチも暗かったなー。あの合格発表の時の夕食の空気はマジでヤバかった」
あのトウコが一切、顔を上げずに黙って食べてたくらい。
「魔法学園に通えるようになって良かったね」
「そうだなー」
最初は腕の不安や授業の難しさにどうしようかと思ったが、今は何も思わなくなったし、楽しいと思う。
シャルのおかげだろう。
うんうん。
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