第161話 時差うぜー
俺達は朝からひたすらお茶会という名のおしゃべりをした。
リディはこの前会ったばかりだが、セレスちゃんと会うのは久しぶりだし、4人で話をしていれば話が尽きることはない。
とはいえ、時間は経つものなので夕方となり、使用人の人が呼びにきた。
やはりラ・フォルジュの家にもメイドがいたようだし、呼び方はメイドでもいいのだが、俺の中のメイドさんはクロエなので使用人と呼ぶことにした。
なお、そのクロエからはいつものようにメッセージが届いている。
『パリでーす』、『暇でーす』というメッセージと共に凱旋門なんかの観光名所で撮ったであろう自撮り写真が送られてきていた。
『外に出ていいの?』って返したら『不法入国なんで黙っててください』って返ってきた。
あの人は一体、何をしているんだろうか?
俺達は使用人に案内され、食堂に通される。
食堂では爺ちゃん、婆ちゃんに加え、伯母さんと伯父さん、そして、いつの間にか帰ってきたエリク君がいた。
「伯父さん、久しぶりー」
「元気ー?」
俺とトウコはまだ挨拶をしていない伯父さんのところに行き、声をかける。
「2人共、久しぶりだな。私は元気だよ。お前達も元気そうで何よりだ」
伯父さんが微笑みながら頷く。
実にダンディだ。
「伯父さん、これあげる」
「好きでしょ」
伯父さんにポテトチップスを渡す。
「おー、ありがとうな。まあ、座りたまえ。夕食にしよう」
伯父さんはポテチを受け取ると、座るように勧めてきた。
俺とトウコは空いている席に並んで座る。
「神様にお祈りかな?」
「したことあったか?」
ないような気がする。
「せんよ。まあ、歓迎の言葉くらいは言うべきかもしれんな。何かありますか?」
伯父さんが婆ちゃんに確認する。
もぐもぐ……
「バカ孫共はもう食べてるよ。挨拶はいいから食べよう」
婆ちゃんが呆れながら食べだすと、皆も食べだした。
「これ何かな?」
トウコが聞いてくる。
「フォアグラだろ」
「すげー!」
「テリーヌです」
伯母さんが訂正してきた。
「テリーヌだって」
「何それ?」
「きっとフォアグラみたいなもんだな」
食べたことないから知らんがな。
「これがフォアグラかー……うん、美味しい!」
「美味いなー」
これが世界三大珍味か。
「……フォアグラになったな」
「本当に人の話を一切、聞かないわよね」
「美味しかったら何でもいいんでしょ」
従兄姉妹達が呆れる。
「お兄ちゃん、これは何かな?」
「スープだな」
それはさすがにわかるだろ。
俺達はその後も話をしながら久しぶりの実家での食事を楽しんだ。
食事を終えると、使用人の人が俺とトウコを客室に案内してくれたので風呂に入ることにする。
トウコ、俺の順番で風呂に入り、まったりと過ごしていると、エリク君がやってきた。
「やあ、昼は出迎えられなくて悪いね」
「いや、そこはいいよ。仕事でしょ」
「そうそう。それよりもこの前、さっさと帰ってしまったことだよ。がーんだよ」
トウコがむくれる。
「悪い、悪い。徐々にやる仕事が増えてきてね。お婆様は早く引退したいって言ってるんだ」
「そうなん?」
「ああ。最近は穏やかになったしねー」
確かにそうかもしれない。
「さっきの晩飯の時も説教がなかったな。いつもならトウコに静かに食べろとか言うのに」
「お兄ちゃんもでしょ」
ほぼお前だよ。
「君らも高校生になったし、もう文句を言うのをやめたんだってさ。そもそも聞きやしないし、そういう子達だろうって」
気付くの遅くない?
「食事は楽しく食べるもんだろ」
「そうそう」
「確かにね。君らの家に行った時もずっと話してたし、そっちの方が楽しかったよ。学生時代の寮生活を思い出す」
寮の食事は楽しそうだよなー。
「ラ・フォルジュは厳しいからねー」
「これが普通なんだけどね。叔母さんだってここで育ったんだよ?」
「母さん、テレビをガン見しながら飯食ってるぞ」
「納豆かき混ぜてね」
行儀悪い。
「変わったんだろうね。お婆様が昔、ジゼルはどういう教育をしているんだって愚痴ってたけど、教育も何もそういう家なんだろう」
「そうそう」
庶民はこれが普通よ。
「ツカサ、トウコ、明日はちょっと演習を見せてもらえないか?」
「ん? 演習って?」
「魔法の演習だよ。お婆様が見たいって言っている」
えー……
「妹の首を絞めるとは何事かって説教してたのに?」
「そういうガチの喧嘩っぽいのじゃなくて、演習ね」
いや、魔法大会も演習だったんだが……
「どうする?」
「私はいいよ。試合形式のスパーに近いものでいいでしょ。でも、どこでやんの? 学園の演習場は嫌だよ。誰かいるかもしれないし」
確かに。
「どうすんの?」
「ウチの地下に演習場があるからそこでやってくれ」
は?
「地下?」
「うん、地下」
地下って……
「トウコ、知ってた?」
「知らない。何? シェルター?」
金持ちだからありえる……
「魔法使いはその辺で魔法を放てないだろ? だからそういう場所があるんだよ。ウチくらいの規模の家ならどこも似たようなものを確保している。中には山を丸ごと演習場にしている家もある」
へー……
「あ、ユイカの別荘」
「そうだね。あそこはそういう場所なんだろうね。人がまったくいなかったし、あそこなら魔法の練習もできる」
シャルが打ち上げ花火を上げてたしな。
「あー、海に行くって言ってたやつね。行けなくてごめん」
「いいの、いいの」
代わりにシャルが来たし。
浜辺が色づいたし。
「エリク君、その地下なら魔法を使ってもいいの?」
トウコが聞く。
「いいよ。学園の演習場と同じ魔法がかけられているから怪我をしても大丈夫。ただ、そこまで広くないし、お婆様の心臓に悪いから大きい魔法や殺傷能力の高い魔法はなしね」
チョークスリーパーぐらいで文句を言う婆さんだからなー……
いや、孫の殺し合いなんて見たくないか。
「トウコ、婆ちゃんの年齢を考えよう」
「そだね。やっぱり軽い練習試合にしよ」
俺とトウコが頷き合った。
「頼むよ。時間は朝の9時でもいいかな?」
「昼前がいい。11時!」
「9時なんて起きてるわけないじゃん。言っとくけど、私らはすでに18時間以上は起きてるからね。そして、これから従兄姉妹会をするの」
もうすぐでリディとセレスちゃんも来るだろう。
夜は長いのだ。
「時差があったね……じゃあ、その時間にしよう」
「そうしてー」
「私の華麗なる魔法を見せてあげるよ」
華麗(笑)。
『ツカサくーん、トウコちゃーん、いるー?』
部屋の外からリディの声が聞こえてくる。
「いるよー。入ってこーい」
そう答えると、扉が開き、リディとセレスちゃんが部屋に入ってきた。
「あ、お兄様もいたんだ」
「まあね」
「ツカサ君、デートしようよー」
リディが俺のところに来て、腕を掴む。
「もう風呂に入ったわ」
「えー……じゃあ、明日デートしよ」
「いいけど、夜からになるぞ。アストラルとパリは時差がかなりあるだろ」
「明日の夜の11時に2人でこっそりと抜け出そ? お母様もいいって言ってる」
それ、こっそりじゃなくね?
「エリク君どう思う?」
次期当主に確認する。
「リディも中学生だし、良いんじゃない? でも、町の外はダメだよ」
「わかってるよ。商業区だな」
町の外は嫌って言われたし。
「じゃあ、良いよ。リディ、楽しんできな」
「やったー」
まあ、夜更かしは慣れてるからいいか。
でも、俺の体内時計がぐちゃぐちゃになりそうだな。
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