第158話 婆ちゃん
俺とトウコは婆ちゃんからもらった小遣いをポケットに入れた。
「トウコ、学校はどうだい?」
婆ちゃんがトウコに聞く。
「朝が辛い! ラ・フォルジュの力で日本に合わせるように圧力をかけてよ」
俺は慣れたから別にいいな。
もっとも、夏休み明けがきついだろうけど。
「無茶言うな。そんなに辛いなら寮から通えばいいじゃないか」
「お母さんが絶対にダメだって」
「ジゼルは寂しいんだろうね。子離れができない母親だよ」
父さんがおるやんけ。
2人で仲良く……いや、この歳で弟か妹は欲しくないな。
「お母さんも寮生だったんでしょ?」
「そうだね。あの子は甘やかして育ててしまった箱入りだったから寮で自立してほしかったんだよ。もっとも、すぐに男を見つけてべったりだったけどね。男子寮のあんたらのお父さんの部屋に寝泊まりしてて、何度も停学を食らってたよ」
世界で一番聞きたくない話……
「お婆ちゃん、それを私達に聞かせてどうしてほしいの? グレそうだけど……」
「うぜー」
マジできつい。
「それは悪かったね。ジゼルは基本的にわがままな子なんだ。だからまだあんたらの親でいたいんだろうよ」
親はいつまで経っても親だろうに。
「不良だ」
「婆ちゃん、娘の教育はちゃんとした方が良いぞ」
「今は孫達だよ。もっとも、あんたらもお母さんに似て、人の話をまったく聞かないけどね。トウコ、研究成果のレポートは?」
婆ちゃんがトウコを睨む。
「今最後のチェックをしてるところー。できたらメールする」
絶対に嘘だな。
「ハァ……あんたはラ・フォルジュの中でも群を抜いて優秀なのになんでそんなにダメなのかねー?」
「それも個性。昨今は個性を大事にすることが重要であり、それは魔法使いにおいても同じこと。時代に遅れた者は容赦なく潰れるのが世の常。私はラ・フォルジュに一石を投じるのだ」
トウコがなんか賢そうなことを言っている。
でも、言い訳なことはわかる。
「言うことだけは一人前だ……魔法大会でイヴェールに負けたそうだね?」
「チッ」
トウコが事前に打ち合わせた通りに舌打ちをした。
「負ける相手だったのかい?」
「どうでもいいでしょ。文句があるならかかってこい。私に勝てる者だけが石を投げてこい」
石を投げてばっかりだな。
「別に責めているわけじゃないよ。イヴェールの娘はそんなに強かったのかい?」
「別に。お兄ちゃんにいじめられただけ」
いじめてないわい。
「ツカサ、よくイヴェールと組んだね?」
婆ちゃんが今度は俺を睨む。
「知らねーわ。俺は何も聞いてないし、何も知らない。そもそも何かを言われる筋合いもない」
「ふーん……まあいい。3勝したそうだね? それは見事だよ。だけど、妹の首を絞めるのはいただけない。いや、トウコもだね。なんで兄妹で争うんだい? 組めばいいじゃないか」
エリク君がチクったな。
「いや、なんで兄妹で組むんだよ」
「そうだよ。皆はすぐに双子をセットにするけど、別に仲良くないからね」
そうそう。
「いや、仲良いじゃないか」
「「良くない」」
「ハァ……ジゼルの子だねー」
ジゼルの子だよ。
「前にも電話で言ったけど、同じクラスにするように圧力をかけるのとかやめてよ。なんで高校生にもなって妹と同じクラスにならんといけないんだ。むしろ、避けるだろ」
「そうだ、そうだ。おかげでめんどくさいよー」
俺とトウコがクレームを言う。
「なんで兄妹であることを隠すんだい? そんなに同じ顔をしててさ」
「笑われるじゃん」
「トウコちゃんってお兄さんとリアクションが同じだよねって笑われるんだよー」
俺もお前って妹と同じこと言うよなって言われる。
「それも個性だろ。時代に遅れないようにしな」
おい、返し技されてんぞ!
「何言ってんの? 個性、個性だけじゃダメなんだよ! 人間は知性があり、他人と協力することができる! それが大事なんだよ!」
「あんたの言葉ほど、心に響かないものはないよ」
それはそう。
「婆ちゃん、トウコに中身がないのはその通りだけど、別に問題ない。俺もトウコも普通に学園に通っているし、成績だってその通り。何も問題ないだろ」
「そうだね……普通が一番だよ。贅沢なんて言っちゃいけない。普通に学校に行ってくれるだけでね……」
婆ちゃんがハンカチを取り出し、目元を拭う。
「お兄ちゃんのせいだー」
それはそう。
「個性だよ、個性」
「悲しい個性……」
「うっさい」
俺だって、俺なりに頑張ってるんだよ。
「まあいいよ。とにかく、2人共、学園で色んなことを学び、楽しみな。トウコ、セレスティーヌは行っていいよ。ツカサは残りな。ちょっと話がある」
話、ね。
「じゃあ、ツカサ君、話が終わったらリディの部屋に来て、待ってるから」
「お茶会、お茶会。パリジェンヌ」
カヌレでも食うのかね?
「わかった」
頷くと、セレスちゃんとトウコが部屋を出ていった。
「ツカサ、こっちに来な」
婆ちゃんと2人きりになると、婆ちゃんが手招きしてきたのでデスクを回って婆ちゃんのそばに行く。
「何ー?」
「腕を」
そう言われたので左腕を差し出す。
すると、婆ちゃんが腕を取り、腕輪をじーっと見始めた。
「どう?」
「確かに渇望の腕輪だね。昔、見たことがあるよ。色は金だったけどね」
マジックで塗ったからな。
しかし、すごいのは海に行った時も当然、着けていたのだが、誰もツッコんでこなかったこと。
ダサいと思わないのかね?
「取れる?」
「いや、私には無理だね。そもそもジゼルで無理だったなら無理だ。ラ・フォルジュにジゼル以上の解呪の使い手はいない」
母さんってすごかったんだな。
ちょっと見直したぞ。
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