第157話 ラ・フォルジュ
建物に入ると、中は中世ヨーロッパ風の雰囲気であり、ラ・フォルジュの実家とどこか似ていた。
「一緒じゃん」
「同じ建築家の人が建てたってお父様が言ってたよ」
リディが教えてくれる。
「へー……ゲートは?」
「そこの部屋だよ」
リディは近くの扉を指差すと、引っ張っていく。
そして、扉を開けると、家具なんかは一切ないが、黒い扉が壁に設置されていた。
もちろん、俺の部屋にもあるゲートだ。
「トウコ、手土産は持ったな?」
「うん、ひよこのまんじゅう」
よしよし。
「じゃあ、行くかね」
俺達がゲートの前まで行くと、ヨハンさんが一歩前に立ち、扉を開けてくれたのでゲートをくぐる。
すると、見たことある部屋に1人のニコニコと笑う若い女性がいた。
その女性は長い金髪を1本に結び、身体の右前に垂らしている。
「久しぶり、ツカサ君、トウコちゃん」
女性はニコニコ顔のまま近づいてくると、俺とトウコを順番に抱きしめた。
「久しぶりだね、セレスちゃん」
「おひさー、セレスちゃん、またおっきくなったねー」
セレスちゃんはセレスティーナという名前が本名だが、長いのでセレスちゃんと呼んでいる。
エリク君とリディの姉であり、俺とトウコの従姉だ。
「そこは突っ込まないで」
セレスちゃんが笑顔で苦言を呈する。
セレスちゃんは体の一部が大きいのだ。
だから抱きしめられた時にちょっとドキッとした。
「セレスちゃん、婆ちゃんと伯母さんは?」
「お母様はすぐに帰ってくると思うけど、婦人会に出ているわ。お婆様は書斎。着いていきなりだけど、お婆様の部屋に行ってちょうだい」
まあ、挨拶せんとな。
「わかったー」
「では、私はこれで」
ヨハンさんが一礼する。
「ヨハンさん、ありがとうございました」
セレスちゃんがニッコリと笑うと、ヨハンさんも笑い、先に部屋を退室していった。
「じゃあ、俺達も行くか」
「そだね。リディとセレスちゃんは?」
「私が案内するわ。リディは自分の部屋で待ってなさい」
「はーい」
リディは素直に頷くと部屋から出ていった。
「じゃあ、行きましょうか」
俺達も部屋から出ると、廊下を歩いていく。
「懐かしいなー」
「ねー。相変わらず、広いし」
ウチとは大違いだ。
「エリクとリディはそっちに泊まったんでしょ? 私も行きたかったわ」
「来てもいいけど、狭いよ」
「お兄ちゃんはエリク君やリディよりもセレスちゃんが良いよねー」
まあね。
最初に見た時は子供心にこんな綺麗な人がいるのかと思った。
「懐かしき初恋の思い出」
「淡いねー」
「お前はエリク君にせんかったか?」
「エリク君弱いもん」
強い方が良かったか。
「ふふっ、懐かしいね。あんなに小さかった2人が高校生だもんね」
セレスちゃんが笑う。
「あんまり変わらないでしょ」
「そうそう。えーっと、24歳だから8つ上……あれ?」
離れてるね。
「年齢の話はやめましょうか」
セレスちゃんの笑顔に陰りが見える。
「「う、うん、ごめんね。はんせー」」
「そうやって誤魔化すよね……」
バレてる!?
笑うところだよ!?
「ほら、着いたよ」
「お婆ちゃん、元気かなー?」
「まったく……ハァ」
セレスちゃんは一つため息をつくと、扉をノックする。
「お婆様、ツカサ君とトウコちゃんがいらっしゃいました」
『入りなさい』
中から婆ちゃんの声が聞こえてくると、セレスちゃんが扉を開けたので俺とトウコが中に入る。
部屋は婆ちゃんの書斎であり、デスクにつく白髪交じりの金髪の婆ちゃんがいた。
「婆ちゃん、やっほー。元気ー?」
「白髪が増えてるねー」
確かに前に見た時より、増えてるわ。
「苦労が多いんだよ。孫達が面倒ばかりかけるからね」
いや、年だろ。
「セレスちゃんもエリク君もリディも真面目じゃん」
「不良になったの?」
不良には見えないなー。
「あんたらだよ……ハァ……相変わらず、元気な双子だね」
婆ちゃんがため息をついた。
「夏休みだもん」
「超元気」
「ジゼルは大人しい子だったんだけどねー……マコトさんに似たのかね?」
俺らって父さんに似てるか?
あんまり似てないような気がするが……
「別に何でもいいじゃん」
「そうそう。元気なのは良いことだよ。それよりお婆ちゃんは? 足を悪くしたとか言ってたけど、大丈夫?」
「優しい孫達なんだけどねー……足は仕方がないよ。こればっかりは年だからね」
年相応か。
爺ちゃんはどうかねー?
「あ、トウコ。みやげ、みやげ」
「そうだった。お婆ちゃん、これあげる。ひよこさんが可愛いよ」
トウコがひよこのまんじゅうを婆ちゃんに渡す。
「ありがとうね。皆で頂くよ」
婆ちゃんがにっこりと笑った。
「あ、あと、これもあげる」
「俺もあげるわー」
トウコがテストを渡したので俺も渡す。
「トウコは相変わらず、優秀だねー……ツカサはどうしたんだい? 90点なんてありえな……すごいじゃないか」
ありえないって言おうとしたな?
グレるぞ。
「お婆ちゃんの喜ぶ顔が見たくて頑張った!」
「それだけがモチベーションだったな」
嘘だけど。
「お小遣いが欲しいんだね。わかりやすい子達だよ。あとでお爺ちゃんにもらいな」
「お爺ちゃん用には別の答案用紙があるんだよ」
「俺も86点のテストがある」
ちゃんと持ってきてる。
「ハァ……図太い孫だよ。マナがいいかい? それともユーロかい?」
「「円に決まってんじゃん」」
ユーロなんかいらんわい。
「ほら」
婆ちゃんがポチ袋を2つ取り出し、デスクに置いた。
どうやら用意してくれていたようだ。
「お婆ちゃん、ありがとー」
「愛してるー」
良い婆ちゃんだわ。
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