第155話 お義姉ちゃん!
夕方になり、リビングで固まっているミシェルさんを回収してシャルの家を出ると、家に向かって歩き出した。
「ツカサ君は明日からラ・フォルジュの家よね?」
ようやく再起動したミシェルさんが聞いてくる。
「そうですね。数日はいる予定です。ミシェルさんも来ます?」
「行かない。さすがに護衛もいらないでしょうし、家でゴロゴロしてるわ」
ラ・フォルジュの家に行っても不法入国だから家から出られないしな。
「じゃあ、ゆっくり休んでください。帰っても多分、家にいますしね」
「お嬢様の家にはもう行かないの?」
「シャルは明日から金曜まで実家らしいんですよ。だから土曜日ですね。武術の訓練があるんで」
「なるほど……あの子は次期当主だし、やることもあるんでしょう」
多分、そうだろう。
セドリックも忙しいって言ってたし。
「大変ですよね」
「あなたもだけどね。まあ、何かあったら連絡して」
「わかりました」
「じゃあ、この辺で。お婆様によろしく」
家の近くまで来ると、ミシェルさんがそう言いながら手を上げ、来た道を引き返していった。
ミシェルさんを見送ると、家に帰り、リビングに行く。
「ただいま」
テレビを見ている母さんに声をかける。
「おかえりなさい。今日もシャルリーヌさんのところですか?」
「うん。勉強じゃなくて、錬金術見学だけどな」
「へー……楽しくなかったでしょ」
皆、そう言うな……
「別にそんなことない。シャルが楽しそうだったし」
「そうですか……しかし、錬金術なんてよく見せてくれましたね。魔法使いは秘匿する人が多いですし、錬金術師は特にその傾向が強いですよ」
「普通に教えてくれたぞ。言っちゃダメとか言ってたけど、なんかすごいらしい薬を作ってた」
俺にはいらねーけど。
「そうですか……シャルリーヌさんの研究室です?」
「らしいね。本や器材がいっぱいあった」
「シャルリーヌさんはよほどあなたのことを信用しているんでしょうね。普通はありえません。流出したら絶望して自殺する人もいたくらいです」
自殺って……
「別に流出せんわ。何しろ、今日、シャルが言ってたことの1割も理解してないからな。何なら材料も聞いたけど、まったく覚えてない」
とにかく、すごいというのはわかった。
「自信満々に言わないでほしいですけどね」
事実なんだから仕方がないじゃん。
「それでさ、これ、母さんに」
母さんの前にポーションを2つ置く。
「何ですか、これ?」
「シャル特製の紅茶味のポーション。母さん、紅茶が好きじゃん。あ、感想を聞かせてだってさ。それも含めて研究らしい」
いつもティーパックだけど。
「シャルリーヌさんは本当に良い子ですねー……イヴェールじゃなかったら絶対に逃がさないのに……」
「しかも、美人なんだぜ」
スタイルも抜群なんだぞ。
「ハァ……ツカサ、トウコを呼んできなさい」
「トウコ? 上?」
「今日は家でゴロゴロしてます」
「ふーん、じゃあ、呼んでくる。あ、これを冷蔵庫に入れておいて。シャルにもらったジンジャエール味のポーションだから」
そう言って、ジンジャエール味のポーションを2つテーブルに置くと、リビングを出て、2階に上がる。
そして、トウコの部屋に行き、扉を開けた。
「トウコ、母さんが呼んでる」
ベッドで漫画を読んでいるトウコに声をかける。
「ノックー……お母さん? 何の用?」
「さあ? とにかく、来い」
「ほいほい」
トウコは漫画を置くと、起き上がった。
「家デートはどうだった?」
あれ、デートかね?
勉強会に近い気がする。
「早口で何かしゃべってた」
「……会長っていつもあんな感じなの? 海の時もべらべらとご機嫌に説明してたけど」
立ち上がったトウコが身体を伸ばす。
「ほぼそう」
「研究職の人ってそうなのかな? ノエルも薬草のことを聞いたら長々と説明しだしたし」
「好きなんだろ。それを聞いたら饒舌にもなる」
かなりの情熱を持っているみたいだし。
「そんなもんかねー? 私にはわかんないや」
「俺もわからん」
俺達は部屋を出ると、1階に降りた。
そして、リビングに入り、席につく。
「お母さん、なーにー? 明日の準備で忙しいんだけどー」
漫画読んでただろ。
「それです。あなた達は明日、お婆ちゃんの家に行きます。その前に話しておかないといけないことがあります」
「ご飯食べている時に屁をこくな?」
俺に言ってる?
「それは当たり前ですし、トウコも態度を悪くしないように」
「はいはい。それだけ?」
「いえ、大事なことがあります。お婆ちゃんは当然ですが、皆、あなた達の学園生活のことを聞いてくると思います」
まあ、親戚だしな。
中学の時も聞かれたわ。
「それがどうかしたの? 私の100点を見せつけてやる」
俺も90点を見せつけよ。
「言い方が非常に悪いですが、それは良いことです。問題なのはシャルリーヌさんのことです」
「あー、イヴェールね。言わない、言わない」
「魔法大会ではツカサとシャルリーヌさんが組んでトウコに勝ちました。このことも聞かれる可能性があります。事前に口裏合わせをしておきなさい」
そこまで必要かねー?
「簡単だよ。魔法大会の話になったら私がすかさず舌打ちをする。これで誰も聞いてこない」
負けてるもんな。
さすがに空気を読むだろう。
「……それでもいいですが、とにかく、絶対にツカサとシャルリーヌさんが良い感じなことはお婆ちゃんにバレないようにしてください」
良い感じとか言うな。
「別にバレたところでだから何だって話なんだけどね」
「そうそう。友人を奪う権利は親にも祖母にもないぞ」
「友人で済めばいいんですけどね。少なくとも、お婆ちゃんはそう思いません。ツカサを奪われると思います」
奪うって何だろ?
「まあ、めんどくさそうだから言わないけどさ」
「そうしてください。あ、ツカサ、シャルリーヌさんに紅茶のポーションが美味しかったとも伝えてください」
もう飲んだんか。
「わかった。今度会った時に伝えておく」
「何、何? 会長、ポーションを作ったの?」
トウコが聞いてくる。
「前に要望を出した紅茶味とジンジャエールだよ。今日作ってもらったんだ。ジンジャエールは今冷やし中だから後だな」
「おー! すげー! でも、今回はちょっと時間がかかったね」
「他にも色々やることがあったみたいなんだよ。主にテスト対策の基礎学の参考書作りだけど……」
あと、魔法大会。
「参考書って……作るもんじゃなくない?」
俺にとっては読むもんですらないけどな。
「おかげで90点だわ」
「お義姉ちゃん、ヤバいな……」
呪学もあるというね。
「そのお義姉ちゃんというのを絶対にお婆ちゃんの前で言わないようにしなさい」
「わかってるよ」
いや、婆ちゃんの前じゃなくても言うなっての。
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