第151話 差
シャルと浅瀬で練習をしていると、クロエが呼んできたので昼食となった。
遠くにいたバーサーカー3人衆も戻ってきたので皆でクロエが用意してくれた弁当を食べる。
そして、昼食を食べ終えると、クロエがスイカを取り出した。
「ふっふっふ、諸君、夏のイベントとは何だと思う?」
ユキが立ち上がって不敵な笑みを浮かべる。
「「「スイカ割り」」」
他にねーだろ。
「その通り。世界で一番上手と評判な私が皆にデザートを振舞おうではないか」
はいはい……
「どうすんだ?」
「まずは目隠しをしないと……」
ユキは白いハチマキを取り出し、目を隠すように巻く。
「意味ねー……」
「だから目を閉じてるじゃないの……」
「ユキ、泳いでいる時も閉じてたよね」
「ギャグじゃない?」
そんな気がしてきた。
こいつ、結構ボケるし。
「いや、これが大事なんだ。よく実は薄目を開けているんじゃないかって言われた」
中学の時か……
「それでどうするんだよ?」
「今から私の秘技をお見せしよう」
ユキはそう言うと、敷物の上に置いてあるスイカを持って、抱える。
正直、この時点で見えてるじゃんと思ったが、野暮なので言わない。
「スイカ割りってスイカを地面に置かないっけ?」
「それは普通のやつだ。秘技だと言っただろう。さてと……」
ユキはどこからともなく、刀を取り出した。
「銃刀法違反だ」
いーけないんだ、いけないんだ。
「固いことを言うな。私の秘技には2種類あって、危なくてよく止められるやつとそうじゃないやつがあるが、どっちがいい?」
「危ないのって?」
「ウィリアムテル方式だな」
は?
「何それ?」
「知らんか? 息子の頭の上にリンゴを置き、それを弓矢で打ち抜いたスイスの英雄だ」
意味わからんが?
それのどこが英雄なんだ?
「え? その方式だとスイカをどうするんだ?」
「頭に置く。誰か立候補はいないか?」
ユキが聞いてくるが、誰も手を上げない。
「つまらんな」
やっぱり見えてるし……
「いや、そりゃそうだろ」
頭にスイカを乗せ、斬るんだろ?
スイカの汁か血かわかんねーよ。
「じゃあ、安全な方にするか……刮目せよ!」
ユキがそう言ってスイカを片手で持ち、構える。
「お前が刮目しろよ」
「お兄ちゃん、しっ!」
トウコに諫められたので黙ってユキを見る。
すると、ユキがスイカを宙に放り投げた。
「ほー……」
俺達は追うようにスイカを見上げる。
スイカは高く上がったが、最高到達点に達すると、当然のように落ちてくる。
すると、ユキが居合切りの構えになった。
「秘剣! 燕返しっ!」
ユキはものすごいスピードで飛び上がると、数メートルは飛び、刀を振り抜く。
そして、スイカと共に落ちてくると、刀を消し、着地と同時に真っ二つに割れたスイカを両手でキャッチした。
「「「おー!」」」
さすがにこれには全員で拍手する。
「ふっ、どうかな?」
「すげー!」
「やばいね!」
俺とユイカは拍手をし続けるが、トウコとシャルは微妙な顔をしていた。
「どうしたん?」
「あれ、魔法大会で私達が空を飛んだら使ってたやつでしょ。あんなスピードでジャンプされたら上空で躱せるわけないじゃない」
「多分、千剣と組み合わせて使うんだろうね」
あ、そういうことか。
「ロナルドの風魔法で動きを止めれば一撃必殺だぞ。誤算は誰も飛ばなかったことだが……」
こいつら、シャルが飛行魔法を使えることを知って、ちゃんと対策を立ててきてたんだ。
「まあまあ。その辺は冬に考えてください。ユキさん、スイカをもらえますか?」
「あ、どうぞ」
ユキがクロエにスイカを渡すと、クロエがさらに包丁で切り分けていった。
そして、切り分けたスイカを皆で食べる
「夏だね」
「そうだなー」
冷えてて美味しいわ。
俺達はスイカを食べ終えると、午後からも海を満喫した。
引き続き、シャルの魔法の練習もしたし、泳いだりもした。
なお、シャルの泳ぎの練習も10秒だけやった。
そうやって、楽しんでいると、夕方になったので海から上がり、別荘に戻る。
「お兄ちゃん、先にシャワーを浴びていいよ。私は時間がかかるし」
「悪いな。そうするわ」
俺は先に部屋にある風呂場に行くと、シャワーを浴びた。
そして、トウコが待っているのでさっさと上がると、トウコに風呂に入らせ、外のテラスに向かう。
テラスにはクロエがおり、炭をコンロに並べていた。
「クロエ、俺がやっておくからクロエもシャワーを浴びてきなよ」
「いえいえ、私の仕事です」
「いや、クロエも海に入っていないとはいえ、潮風でべたついたでしょ。俺は経験があるから火を起こすくらいはできるよ」
「そうですか? では、お願いします」
クロエはそう言って団扇を渡してくると、炭に向かって指を向ける。
すると、炭に火が付いた。
「魔法だなー……」
「魔法です。軽くシャワーを浴びたら食材を準備しますので火の方をお願いします」
「わかったー」
クロエが別荘に入っていったので一人で火を育てていく。
すると、ユイカ、シャル、トウコ、ユキの順番でシャワーを浴びた女性陣が次々とやってきて、それぞれの席についた。
「こんなもん、火魔法でどーんでいいんじゃないの?」
シャルが炭を見ながら聞いてくる。
「消し炭になるわ。じっくりやるんだよ。あと風情を楽しめ」
とても大事。
「ふーん……あなた、こういうのが得意なの?」
「別に得意じゃないけど、子供の頃とかキャンプに行ったしな」
「キャンプ……」
シャルは絶対に行かないだろうな。
「虫よけでも作ってくれよ」
「それいいわね。夏は蚊がうざい」
「ほら、来て良かっただろ。アイディアがいっぱい」
「そうね。二度と泳ぎの練習はしないけど」
あっという間に沈んでいってたもんな。
「ほらー、シャルが好きな火だぞ」
「好きなのはアルコールランプの落ち着いた火よ」
つくづくインドアだな。
「ポーション作る時のあれね」
「あ、飲む? 疲れたでしょ?」
「持ってきてんの?」
「うん。あなたが好きなコーラとソーダ味があるけど、どれにする? あ、ちゃんと冷蔵庫に入れてたやつよ」
準備してたのか。
「じゃあ、コーラくれ」
「はい」
シャルがポーションをくれたので飲む。
すると、すーっと疲れが取れていくような気がした。
「いやー、すごいわ」
「でしょー? あ、あなた達も飲む…………何よ?」
シャルが訝し気な表情でバーサーカー3人衆を見る。
「いや、仲良いなって思って」
「うん、良いことだよ」
「ね? この差だよ。私達には仏頂面なのにお兄ちゃんにだけは笑顔を振りまいている」
どうでもいいけど、お前らも団扇で仰いでくれね?
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