第150話 楽しみ方はそれぞれ ★
「クロエ、なんでメイド服なん?」
スタイルの良いシャルも気になったが、どうしてもそっちが気になる。
「メイドなんで」
「泳がないの?」
「皆さんに危険がないか見てないといけませんから。このままでも泳げますので救助の際はご安心を」
そりゃすごいけど……
「うーん……気になるなー」
「気にしないでください。もしかして、私の水着が見たかったですか? いけませんよー。ツカサ様はお嬢様を見ないと!」
いや、そこじゃないんだが……
「暑くないの?」
「いえいえ。全然です」
確かにクロエは汗一つかいてない。
「どうなってんだろ?」
「気になります? では、ちょっと触ってみてください」
クロエがそう言って、首を差し出してきたので手を伸ばしてみる。
「ん? ん? 冷たい?」
クロエの首に触れるちょっと前から指先が微妙に冷たい。
「どうぞ、触れてみてください」
そう言われたので首を触ってみる
「冷たっ! 雪女だ!」
「ん? 呼んだかい?」
ユキが反応した。
「お前じゃねーよ」
ユキってところどころでボケてくるな……
「どうです? 素晴らしいでしょう? これが冷却魔法です。サウナに入っても汗をかきません」
「へー……」
便利だな。
「私も触ってみていい?」
トウコがそう言って、クロエに近づく。
「どうぞ」
許可を得たトウコがクロエに触れた。
「冷たっ! 雪女だ! すげー!」
「でしょう?」
「教えて、教えて!」
氷姫を取り戻したいか、暴力姫?
「あとで教えてあげましょう。それよりも今は海を楽しんできてください」
「そうだ! 海だー!」
「海だー」
「おー、海だー」
クロエに促されたバーサーカー3人衆は海に向かって走っていった。
「元気だねー」
そう言いながらいつの間にかテントの下で膝を抱えているシャルの隣に座る。
「ツカサは行かないの?」
「シャチ君で疲れたからもうちょっと休んでから行く」
あと、シャルをここに残すと絶対にここから動かないと思ったから。
「そう……」
「泳がないのか?」
「泳げない」
知ってる。
「教えてやろうか?」
「いい。泳ぐの嫌い」
それも知ってる。
「例の魔法の練習は? 海の上を歩くとやら……あんな感じ」
そう言って海の方を指差す。
海ではトウコが海の上に立って、天に向かって両手を掲げてた。
女神要素は皆無であり、非常にバカっぽい。
「後でね……」
後……
「お嬢様、とりあえず、その服を脱いだらどうです?」
ミシェルさんとチェスを始めたクロエが進言する。
「も、もう少ししたら……」
あー……恥ずかしいのか。
俺、いない方がいいかね?
そう思って、少しだけ腰を浮かしたらクロエとミシェルさんが俺をガン見してきた。
そして、ゆっくりと同じ動きで首を横に振る。
「よし、とりあえず、浜辺に行ってみよう」
そう言って、日傘を取り、広げた。
「え? 今から?」
「なんか錬金術のヒントになるとかどうちゃらこうちゃら言ってたじゃん」
「まあ……錬金術は発想力が大事だから色んなところでヒントが見つかるからね。今回の海で見つかったのは日焼け止めの薬」
錬金術の話になると、途端に上機嫌になるな……
「じゃあ、行こう」
「わ、わかったわよ」
シャルは頬を染めながらもパーカーを脱ぐ。
そして、パーカーを畳んで敷物に置いた。
シャルはさすがのスタイルだし、綺麗だ。
うーん……浜辺が色づいたなー……
でも、シャルの後ろにいるクロエのドヤ顔とミシェルさんのにやけ面がちょっとむかつく。
「行くか」
「そ、そうね」
俺とシャルは立ち上がると、海の方に行く。
なお、シャルは母さんからもらった日傘をさしている。
「あの子達、すごいわね……」
バーサーカー3人衆は結構、遠くまで泳いでいた。
「泳げるって言ったし、この辺は波が穏やかっぽいしな」
ちょっと危ない気もするが、最悪はトウコが飛べるし、スーパーメイドがいるからどうとでもなるだろう。
「うえー……海だ」
水際まで来ると、シャルの足が小さな波で濡れる。
「そんなに嫌か?」
「私はね、運動神経が良くないのよ」
うん。
「ちょっとね」
「そんな私が海に来たら溺れるイメージしかわかないわけよ」
「もういっそ溺れない道具を作れば?」
「浮き輪ね」
その辺で売ってるわ。
「シャチ君を回収してこようか?」
シャチ君は女子3人と泳いでいる。
「あれ、浮き輪としての機能は微妙よ」
「まあな。じゃあ、海の上を歩く魔法だ。やってみせてよ。俺、なんだかんだで見たことない」
「そうねー……ちょっと預かってて」
シャルが日傘を畳んで渡してきたので受け取る。
すると、シャルが海の中に入っていった。
いや、海の中ではなく、海の上を歩いているようだ。
「できてるじゃん」
「浅瀬ならね」
シャルはそのまま歩いていくが、徐々に不安定になり、体が揺れている。
「シャル、バランスを取れよ」
「と、取ってるけど?」
取れてない……
体幹がずれまくっている。
これ、必要なのは魔力のコントロールじゃなくて、バランス感覚だわ。
そりゃシャルができないわけだ。
「倒れるぞ」
「だ、大丈夫よっ! あっ……」
シャルが完全に体勢を崩し、頭から海の中に突っ込んだ。
慌てて、海に入り、シャルを起こす。
「ゴホッ、ゴホッ! ま、まあ、こんな感じよ……」
「うん……とりあえず、しゃがむところからやろうか」
まあ、これも武術の訓練か……
◆◇◆
私はチェスをしながら生徒達を見る。
「すごいわね。ナチュラルに遊び組とカップル組に分かれた」
遠くの海では女子3人が遊んでおり、浅瀬ではツカサ君とシャルリーヌさんが何かしてる。
ツカサ君はわざとだろうか?
いや、そんな子ではないか。
単純に海を嫌がるシャルリーヌさんに気を遣っただけだろう。
「良いことです。せっかく水着を選んだんですから」
「あなたが選んだのね。シャルリーヌさんにしては大胆だと思った」
あの子の性格上、ビキニは着ないと思っていた。
「大変でしたよ……でも、ちゃんと着ましたし、絶対に脱がないと言っていた上着も脱ぎました」
あっさりとね。
「北風と太陽どころじゃなかったわね。ツカサ君が誘ったらあっさり」
正直、『早っ!』て思った。
あんなに恥ずかしがってたのに……
「ツカサ様に迫られたらあっさり脱ぐ女になっちゃいましたね、へへっ」
「やめなさい」
下ネタ好きだなー、この子。
「お嬢様が外に出られ、知見を広げてくださって感動ですよ」
「それそれ、そのスタンス」
「でも、あれ、どう思います?」
クロエがチェス盤を見ながら聞いてくる。
でも、何のことを言ってるのかわかる。
「遠目に見ると、バカップルにしか見えない」
浅瀬ではよくわからないが、シャルリーヌさんがへっぴり腰でツカサ君の腕に抱きついている。
「それにしか見えませんねー……」
「いや、何あれ?」
「多分、水の上を歩く練習でしょう。お嬢様、運動神経皆無でバランス感覚もないですから」
なるほど……
「真面目な2人だこと」
「良いことでしょう。一方であちらはすごいですね」
遠くの方ではシャチにまたがったトウコさんが空を飛び、海に突っ込んでいた。
ここまで笑い声が聞こえてきそうだ。
「どちらも青春ねー……」
「そうですねー……ちょっと昼食を用意してきます」
「え? チェスは?」
そう言うと、クロエがナイトを動かした。
「では、10分ほど空けます」
「あ、うん……」
おー……
おー……?
あれれ?
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