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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第4章

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第147話 お兄ちゃんが悪い


 車が走り出し、目的地の海に向かって出発した。

 車内は7人も乗れる車なので広く、前の運転席と助手席にクロエとミシェルさんが座っている。

 その後ろの2席には俺とシャルが座り、一番後ろの席にはトウコ、ユイカ、ユキが座ってわいわいと騒いでいた。


「夏休みは何してた?」


 ちょっと不機嫌っぽいシャルに聞いてみる。


「ひたすら錬金術。昨日もやってた」

「眠いって言ってたけど、何時まで?」

「3時? めちゃくちゃ眠い」


 遅っ!

 それでちょっと機嫌が悪いように見えるのか。


「海に行く前日によくやるな」

「気付いたら3時だったのよ。集中しちゃうとダメね……」


 これ、マジで夏休みは錬金術しかしてないな……


「いえーい、会長、夏を楽しんでるー?」


 うざい代表がシャルに絡んできた。


「あなたは楽しそうね……」

「海だよ、海!」

「何がそんなに楽しいのかしら?」


 頭が楽しいんだと思うな。


「会長、テンション低いというか、機嫌悪いね。そんなに海に行きたくないの?」

「寝てないんだと」


 シャルに代わって説明する。


「ドキドキ?」

「錬金術だってさ」

「会長は相変わらずだなー。眠いんだったら着くまで寝るといいよ。お兄ちゃんの肩と膝枕だとどっちがいい?」

「そこまで眠いわけじゃないわよ。単純に朝が辛いだけ。昨日までの私ならまだ寝ている時間なのよ」


 シャルも遅寝遅起き生活になっているようだ。


「メイドさーん、いいのー?」


 トウコがクロエに聞く。


「ダメですけど、聞かないんですよ。オタクはこれだから困りますよね」

「あははー」


 トウコが笑った。


「何が面白いのかしら?」

「こいつ、バカなんだ」

「そう……お母さんは大変ね」


 だと思うよ。

 人のことを言えないけど。


「トウコがなんで学校だと全然、しゃべらないかわかってきた。これはラ・フォルジュの名前に傷が付くね」

「クラス違うから普段のトウコを知らないが、イメージと違うな」


 ユイカとユキがそう言うと、トウコが姿勢を正した。


「パンがなければケーキを食べると良いですよ」

「マリーだ」

「アントワネットだ」


 ギロチンだ。


「トウコさん、キャラを作ってるから大変ねー」


 シャルが呆れながら後ろの席のトウコを見る。


「会長だって作ってんじゃん」

「どこが?」

「学園だとまったくしゃべらないし、仏頂面じゃん。家ではお兄ちゃんに笑顔を振りまいているくせに……」

「……別に振りまいてない」


 うーん……俺のシャルのイメージは笑顔かジト目だなー。


「……ツンデレだ。ツンデレジュリエットだ」

「……ツンデレか? バリバリのキャリアウーマンでも家では旦那に甘える感じだと思う」


 やめーや。


「そのジュリエットっていうのやめてくれない? そんなんじゃないし、そもそも死んじゃうじゃないの」


 ジュリエットって死ぬの?

 マリーアントワネットもギロチンだし、ひどいな。


「でも、ジュリエットだし……じゃあ、ジャンヌ。会長は戦う乙女って感じがする」


 ジャンヌ・ダルクだ!

 それは知ってる!


「それもラストは火刑よ」


 フランスの偉人ってロクな死に方してないな……


「他なんかいる?」

「本名で呼びなさいって言ってるの。というか、会長でいいわよ」


 皆、会長って呼ぶしな。


「シャ、シャル……リーヌ?」


 ユイカがユキを見ながらシャルの名前を呼ぶ。


「合ってるぞ。シャルリーヌ・イヴェールだな」


 ユキはさすがに覚えている。


「外国人ってなんでこんなに覚えにくいのかな?」

「向こうからしたら私達もだろ」


 多分、そうだと思う。


「ユイカさん、私の名前を覚えてないのね……」


 シャルがちょっとショックを受けている。


「いや、こいつ、クラスメイトの苗字も覚えてないと思う」

「覚えてるよ。イルメラ・ヘンゼルト」

「じゃあ、フランクは?」

「え? フランク? ……ヘンゼルト?」


 なんでイルメラと一緒なんだよ。


「ヘーゲリヒだよ。フランクが泣くぞ」


 あいつは泣かないと思うが。


「じゃあ、ツカサ。ノエルの苗字は?」


 え?


「ノエル……あいつ、苗字あったっけ?」

「ひどっ」

「アントワーヌよ……」


 シャルが呆れながら教えてくれたが、アントワーヌと聞いてもピンと来なかったりする。


「ツカサくーん、私の苗字を覚えてるー?」


 前の席のミシェルさんが聞いてきたのでシャルを見る。


「……アンヴィル」


 シャルが小声で教えてくれた。


「アンヴィル!」

「優しい彼女さんねー。せめて同じ派閥の苗字は覚えててねー。知らないと思うけど、血は繋がってるからー」


 そうなの?

 親戚なん?


「知ってた?」


 今度はトウコを見る。


「この前、聞いた。全然、ピンと来ないけど」

「来ないよなー」


 というか、最初に言えよ。


「ツカサ様、大変でしょうが、ラ・フォルジュ派とイヴェール派の代表的な家は覚えておいた方が良いですよ。敵と味方ははっきりした方がいいです」


 敵がアドバイスをくれた。


「ミュレルは敵でしょ」


 クロエの苗字は覚えている。

 何しろ、スマホにクロエ・ミュレル(メイドさん)で登録されているから。


「そうなりますねー」

「クロエも敵なん?」


 前の席に顔を出して聞く。


「何を言われますか。一緒に憎きラ・フォルジュを倒した仲ではありませんか」


 トウコね。


「そうだな……一緒に倒しましたよね?」


 そのまま助手席にいるミシェルさんを見る。


「そうね……次はトウコさんの味方をするけど」


 そう言ってたな。


「……すんごい面倒なことになってるね」

「……複雑すぎてよくわからなくなってきたな」


 ユイカとユキがヒソヒソと内緒話をしている。


「全然、複雑じゃないでしょ。ものすごく単純な話。ここが悪い」


 トウコが俺とシャルを交互に指差した。


「お前がシャルに突っかかるのが悪い」

「突っかかってなくね!? 決闘を申し込まれたのも実の兄に裏切られて投げられたのも私ですけど!? もっと言えば、その兄にチョークスリーパーをキメられて落ちそうになったのも私ですけど!?」


 ………………。


「あれ? トウコ、悪くない?」


 シャルを見た。


「そんな気がしてくるわね……」


 シャルも微妙な表情をしてくる。


「このロミジュリ、自分達の世界しか見てないわー……ユイカ、次はぶっ潰すよ」

「そだね。まずはジュリエットを集中して落とす作戦で行こう」

「それだ!」


 こいつら、本当に成長せんな。

 シャルが転移で逃げているうちに背後から落としてやるわ。


「ミシェル、頑張ってください」

「ハァ……大変そうだわ……」


 クロエに笑顔で言われたミシェルさんがため息をついた。


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