第143話 終わり
1階に降りた俺達はその後も話をしたり、クロエVSミシェルさんのチェスを眺めながら過ごした。
そして、夕方になったので家に帰ると、2階に上がり、そのままトウコの部屋に向かう。
「トウコー?」
トウコの部屋の扉を開けると、トウコがベッドで何かの雑誌を読んでいた。
「んー? おかえりー。テスト終わったばかりなのに勉強会なんてすごいね」
「いや、今日はほぼ雑談で終わった」
そう言いながらトウコのベッドの下に腰を下ろす。
「イチャイチャかー」
「全然。テストの感触を確かめるのと海の話をしてきた」
「ん? 海? 会長に?」
「ちょっとその話があるんだよ。結論から言うと、シャルとメイドのクロエも来ることになった」
そう言うと、トウコが起き上がった。
「彼氏が泊まりがけで他の女と海に行くと聞いて、居ても立っても居られなくなったか……」
彼氏じゃねーよ。
「いやさ、エリク君がダメになったからミシェルさんに運転をお願いしたんだよ。でも、ミシェルさん、こっちの免許がないから運転できないんだと」
「え!? どうすんの!?」
「その話をしてたらクロエが自分が運転しましょうかって言ってくれたわけ。その流れでシャルも来ることになった」
まあ、紆余曲折あったが、大まかにはこんな感じだ。
「なるほどねー。それはありがたいけど、結構な大所帯になったね。お兄ちゃんハーレムの完成だ」
その中に君も入っているんですけど?
「しょうもないことを言うな。それでそのことをユイカとユキに伝えてくれない? その関係でユイカの番号をクロエに教えたことも伝えといて」
「わかったー。メイドさん付きなのは良いね」
「任せろって言ってたわ。スーパーメイドだぞ」
結局、ミシェルさんは勝てなかったし。
もう諦めるべきだと思う。
「あのメイドさん、有能そうだもんね」
有能すぎて下世話だがな。
「そういうわけで頼むわ」
「ほいほい。お兄ちゃん、女の子と海に行ったとかリディには言わないようにね」
「言うも何も帰っちゃったじゃん」
早く来てねーって言ってた。
「今度会った時だよ」
「わかった、わかった」
用件が済んだので立ち上がると、部屋に戻る。
この日と翌日の日曜日はゆっくりと過ごすと、月曜日となった。
この日から返ってくるテストを見ながらふんふんと頷く日々が続く。
そして、金曜日に最後のテストが返却され、授業が終わると、ユイカと答案用紙を交換する。
「お前、よく頑張ったなー」
「ツカサも偉いよ。お母さん、嬉しい」
俺とユイカがうんうんと頷き合う。
「こいつら、どうしたんだ?」
「争ってたけど、一体感が生まれたんじゃない?」
「というか、勉強しすぎて壊れたんでしょ」
黙れ、全教科80点超え共。
「ユイカさんもツカサさんも頑張りましたね。これはあなた達の努力の結果です」
ノエルが指で涙をぬぐう。
「あ、ここにも壊れちゃった人がいた。ノエルー、帰ってこーい」
「悲しいねぇ……」
「まあ、良い点が取れてよかっただろ」
そう、良い点が取れてよかった!
これならシャルも文句は言うまい。
「これで良い夏休みを送れる」
「だね。海だ、海」
おい……
「んー? ユイカ、海に行くの?」
イルメラが食いついてきた。
「あ……うん。行く。夏だしね」
ユイカも失言に気付いたようだが、もう遅かったようだ。
海に行くことは別に内緒ではない。
問題はトウコと行くことを言ってはいけないことだ。
トウコと行くとなると、トウコが日本在住なのがバレる。
そうなると、俺とトウコが兄妹なことがバレやすくなるのだ。
うん、めんどくさいね。
「へー……私はあまり夏休みは遊べそうにないわねー」
「俺もだな」
「僕も」
「私は遊びます!」
ノエル以外は忙しいらしい。
「お前らって忙しいのか?」
「親戚が集まるしねー」
「俺もだな」
「僕は色んな人に挨拶に行かないといけないんだよ。だから世界中を回るね」
皆、色々あるんだな。
「ノエルは? 遊んでいいの?」
ユイカがノエルに聞く。
「ウチは名門でもないですしね。普通です。会長の家に挨拶に行くくらいですね」
イヴェール派だからか。
「ツカサはどうするんだ?」
フランクが聞いてきた。
「実家に行ったりだなー。後は友達の家に遊びに行くくらいだな」
シャルの家ね。
錬金術を見に行く。
「普通だな」
「そりゃな。あ、でも、女の子とデートするわ」
「え!? 誰!? 会長!?」
男共に自慢しようと思ったのにノエルが食いついてきた。
「期待に沿えないで悪いが、中一の従妹」
「あ、そうですか……微笑ましくて良いですね」
あからさまにがっかりしたな……
「しょうもないオチだったな」
「いやー、中一女子は怖いよ」
「そうよ。中一は本気よ」
なんか白熱しだしたし……
従妹なんですけど……
「中一女子の話はいいからそろそろ帰ろうぜ」
「自分で振ってきたくせにね」
ユイカ、うっさい。
俺達は寮に戻ることにし、教室を出ると、丘を登り、男子寮と女子寮の分岐点まで来る。
「じゃあね。また2週間後」
「皆さん、楽しい夏休みを」
「ばいばい」
そう言ってくる女子達と別れると、男子寮の食堂に行き、3人で昼飯を食う。
「お前らとこうやって食べる飯も最後か」
「寂しくなるね」
なー?
「いや、たかが2週間だろ。あっという間だぞ」
フランクがツッコんでくる。
「あっという間とか言うな。本当にそうなんだろうけど、悲しくなるだろ」
「寂しいのか悲しいのかどっちだよ……」
どっちも!
「お前らは忙しいんだろ? 大変だな」
「普通に話をするだけだ」
「つまんないけどね。でもまあ、こればっかりは仕方がないよ」
セドリックが肩をすくめる。
「お前は特に大変そうだわ。世界中を回るんだろ?」
「そうだねぇ……どこのおみやげがほしい?」
「美味そうなもんがいいな」
「わかった! 選んできてあげる!」
すげー笑顔だ……
「変なもんを買ってくるのに1000マナ」
「賭けにならんな」
フランクもそう思うらしい。
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