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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第4章

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142/207

第142話 どうも


 テストが終わった翌日の土曜日は勉強会の日である。

 本来ならテストが終わったばかりだし、休みにしたいものだが、シャルの武術の訓練もあったし、シャルがまとめてくれた呪学の勉強をするという大事なこともあったのでシャルの家に向かう。

 とはいえ、さすがにそれだけだったので武術の訓練も呪学の勉強も午前中で終わった。


 昼になり、クロエが作った昼食をごちそうになると、午後からはシャルとお茶を飲みながらテストの感触なんかを話している。

 なお、今日もミシェルさんがおり、チェス盤を睨んでいた。


「勝てそうですかー?」

「………………」


 無視かい……


「ミシェル」

「……え? 何?」


 対戦相手のクロエが声をかけると、ミシェルさんが顔を上げる。


「ツカサ様を無視してはいけませんよ」

「あ、ごめん。何?」


 ミシェルさんが俺を見てきた。


「あ、いや、勝てそうです?」

「もう少しなのよ」


 前も言ってたな、それ……


「頑張ってください。それとエリク君が帰ったことは聞いてます?」

「聞いた、聞いた。あとはよろしくって電話があったわよ」

「急だったもんでびっくりしましたよ」

「まあ、忙しい方なのよ。現当主のお婆様が高齢だしね」


 婆ちゃんは60歳を超えている。

 高齢といえば高齢だ。


「ミシェルさんは夏休みに帰るんです?」

「別に帰らないわね。めんどくさいし、あなたの護衛もあるもの」


 社会人は大変だわ。


「それで海に行く件ですけど、エリク君がダメなんで車を出してもらえません?」

「……車? 私、こっちの免許を持ってないけど?」


 え?


「こっちの免許って?」

「いや、フランスの免許しかないし、国際免許も持ってない。だから日本で運転できないわね」


 えー……


「せんせー」

「そう言われてもね……電車とかで行ったら?」

「行くのはそんな都会じゃないです。電車もバスもないらしいです」

「どうするの?」


 俺が聞きたいわい。


「母さんは……運転できないな」


 父さんは仕事だし、あいつらの伝手でないかね?


「私が運転しましょうか?」


 クロエがニコニコ顔で提案してきた。


「クロエが? 免許持ってんの?」

「もちろん、持ってますよ。買い物とかもしないといけないですし、この家には駐車場がないので別のところで駐車場を借りていて、そこに車もあります。もっとも普通の車なので大人数はダメですけどね」


 へー……

 メイド服で買い物してるのかな?


「でも、いいの? シャルのお付きのメイドでしょ?」

「そうですねー……」


 クロエがシャルをじーっと見る。


「嫌! 行かない! 絶対に行かない!」


 シャルが胸の前に両腕でバツ印を作り、断固拒否した。


「お嬢様……」


 クロエが困った顔をする。


「いや、事情はわかるし、そういうことならあなたが運転して連れていってあげればいいと思うわ。うん、そうしなさい。でも、私は行かない!」

「私はお嬢様の護衛を兼ねた侍女です。お嬢様のそばを離れるわけにはいきません」

「いや、離れても良いわよ。私、その日は家から出ないし」


 すげーいやいや言ってる……


「お嬢様、もし、爆弾魔がウチに爆弾をしかけたらどうするんですか?」

「爆弾魔なんて日本にいないわよ! というか、そんなのがいたらあなたがいてもどうしようもないでしょ!」


 確かに。


「極論です。お嬢様は誉れ高きイヴェールの長子にして、次期当主です。どこの敵が命を狙うかわかりません」


 そんなに殺伐としてるの?

 というか、その場合、一番怪しいのはラ・フォルジュの俺とミシェルさんでは?


「いやいや、ないでしょ。それに1日くらい問題ないわ」


 これは行きそうにないな。


「ツカサ様、1日なんです?」

「正確には2日。ユイカが別荘みたいなところがあるって言ったらトウコがバーべーキューしたいって言ったらしい」


 なお、俺もしたい。


「泊まり!? 聞いてませんけど!?」

「私も聞いてない……」


 シャルが驚き、ミシェルさんが呆れた。


「いや、これから話そうと思ってたんだよ。俺も昨日の夜にトウコから聞いたもん」

「泊まりってそれ大丈夫なの?」


 シャルが聞いてくる。


「部屋を分けるから問題ないってさ」

「年頃の男女……というか、男子はあなた一人じゃないの」


 だから何だよ。


「妹と一緒なんだが?」

「それでも……うーん……」


 なんかシャルが悩みだした。


「それ、私も行くわけ?」


 ミシェルさんが聞いてくる。


「いや、それはご自由に。前に言ったけど、別にいなくても戦力的には問題ないですからね。行くならクロエがいるわけですし」


 問題はクロエが来てくれるかだけど。


「お任せを。私の目が黒いうちは刺客など夕食の材料にしてあげましょう」

「「やめて」」


 なんて恐ろしいことを言うメイドさんなんだ……

 くだらないこと言うことに定評があるが、ブラックジョークも言うとは……


「あ、でも、クロエが来てくれたらバーベキューの準備が楽だ。切るのが得意そうなのが2人いるけど、全員、料理ができないと思うし」


 俺とトウコはできないし、ユイカとユキにできるイメージがない。

 頼りはミシェルさん。


「このクロエにお任せください。必ずや楽しいバーベキューにしてみせましょう。問題は……」


 クロエがシャルを見たのでなんとなく俺とミシェルさんもシャルを見る。


「え? 行く空気になってる? 私が? 海に? 海って何するの?」

「泳ぐんじゃない? もしくは、女神ごっこでもすれば? せっかくトウコに交換で教えてもらったわけだし」


 俺は不平等トレードだと思ってる。


「泳げないし、そんなしょうもない遊びはしないわよ。そもそも波があるところで歩けるほど上手に使えないし」

「練習すれば? むしろ、それ目的で行けばいいんじゃない?」

「そうですよ、お嬢様。海の上を歩く魔法はそもそも豪華客船が沈んだ時用のものです。当然、海ですし、波もあります。ちゃんと習得しておかないとマズいです」


 やっぱり限定的すぎる気がするな……


「うーん……」


 それでもシャルが悩み始めた。

 もしかして、最近、例の映画を見たんだろうか?


「ねえ、そのよくわからない魔法は何?」


 ミシェルさんが聞いてきた。


「トウコとシャルが魔法のトレードをしたんですよ。空を飛ぶ魔法と水の上を歩く魔法」

「へー……仲良いのね」

「一緒に風呂に入ったらしいですよ」


 しかも、こっそりと。


「入ってないわよ!」


 シャルがツッコんでくる。


「お嬢様、行きましょうか。もしかしたら錬金術のヒントも得られるかもしれませんよ。どこでどういうヒントを得られるのかわからないって高説してたじゃないですか」

「なるほど……」


 え? そんなので意見が傾くの?


「ツカサ様もお嬢様に来てほしいですよね?」

「そうだな。花火でもしようぜ」


 夏だし。


「花火………ふっ、そうね! 私に任せておきなさい!」


 え? すげー行く気になってるんだけど……

 急にどうした?


「何するの?」

「秘密! 楽しみにしておきなさい!」


 マジで何すんだよ……


「ミシェルさんも行きますよね?」

「まあ、護衛だし、クロエも手伝いがいるでしょうから行くわよ」


 ミシェルさんがそう言って、会心の顔でチェスの駒を置いた。


「えーっと、7人か……クロエ、大丈夫?」


 俺、トウコ、ユイカ、ユキ、ミシェルさん、クロエ、シャル。


「問題ありません。すべての準備はこの私にお任せを。あ、ユイカさんの連絡先を教えてもらえません?」

「えーっと……」


 スマホを取り出す。


「すみません。ちょっと2階まで来てもらえますか? スマホが上です」


 クロエがそう言って、チェスの駒を置いて、立ち上がる。

 そして、俺とクロエはチェス盤を凝視しながら固まったミシェルさんを尻目にリビングを出て、2階に上がった。


「少々、お待ちを……」


 クロエはそう言って部屋に入ったが、すぐにスマホを持って戻ってくる。


「では、連絡先を……」

「えーっと、ユイカは……」


 クロエにユイカの連絡先を教えた。


「ありがとうございます」

「別に送ればよくない?」


 俺はかなり前からクロエとメッセージのやりとりをしているメル友だったりする。

 よくシャルの写真が送られてくるし……


「お嬢様の水着を見れるチャンスですよ! ちゃんといい感じの選んでおきますからね!」


 クロエがそう言ってサムズアップしてきた。

 どうやらそれを言うためだけに連れ出したようだ。


 ホントにしょうもないことを言うメイドだわ。


お読み頂き、ありがとうございます。

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