第140話 従妹
なんかよくわからないけど、従妹のリディがウチに来た。
「で? リディは泊まってくの?」
「うん! 叔母様も叔父様もいいよって。ツカサ君とトウコちゃんがテスト前だから2日ほどだけど」
2日か。
まあ、そんなに長居は伯父さんと伯母さんが許さんか。
ってか、ウチにそんな部屋があったっけ?
「トウコの部屋か?」
「ツカサ君の部屋でもいいよ」
うーん、リディももう中学生だしなー。
兄であるエリク君と一緒の部屋は嫌かもしれない。
「トウコでいいだろ」
「まあ、私かな……」
よしよし、トウコの勉強の邪魔をするといいぞ。
「でも、アストラル経由ってことは外に出られんだろ。せっかく日本に来たのに観光もできないな」
「観光はまたの機会でいいよ。それよりも2人に会いに来たの」
可愛い子だねー……
この子とトウコは血が繋がってるんだぜ?
信じられん。
「会いにねー……武術でも教えてやろうか?」
「嫌。ねえねえ、ツカサ君も魔法学園に通ってるんでしょ。どんな感じ?」
リディは即答で拒否すると、ベッドで寝ている俺のもとにやってきて、体を揺らしてくる。
「魔法大会とやらでトウコを倒した」
「テストは私の方が優秀」
スーパーエリートウコ様(笑)
「すぐケンカするー」
リディが俺とトウコの服を掴んでむくれた。
「別にケンカなんかしてねーよ。ウチはそっちの家と違って、フレンドリーなだけ」
「そうそう。堅苦しくないだけ」
「あれ? 今度は結託してウチを批判してきた……相変わらず、めんどくさい双子だなぁ……」
リディが微妙な顔をする。
「めんどくさがるな。それよりも、リディも魔法学園に通うのか? 気になっているようだけど」
「うん。高校になったら通う予定だけど、今からでも通おうかな……3年後はツカサ君もトウコちゃんも卒業しているだろうし」
3歳離れてるからなー。
ちょうど被らない。
「私はみっちりやるから3年で終わらないと思うし、お兄ちゃんも違う意味で終わらないと思うな」
2人には言えないが、俺の目的は解呪だからそれができるようになるまでは卒業できない。
もっとも、校長先生の見立てでは猶予が5年らしいけど。
「でも、同じクラスがいいなー……ツカサ君と一緒に学校に通うのが夢なの」
マウントが取れるからか?
「え? 私は?」
「あ、トウコちゃんも」
「取ってつけられた……」
スーパーエリートウコ様が嫌なんじゃないか?
「通えるとは思うけど、中学校に通いながらだろ? きついぞー。学校行って、その後にまた学校だ」
そう思うと、シャルって本当にすげーな。
錬金術の過程をすべて終わらせたらしいし。
「そこは別に大丈夫だけど……」
えー……
魔法使いって頭がおかしいんじゃないだろうか?
「リディ、魔法は上手になったのか?」
リディはあまり得意ではなかった。
魔力もそんなに高くないし。
「そこそこ。でも、魔法は楽しいよ」
「そうか、そうか。それは良かったな」
リディの頭を撫でる。
「私が教えてあげようか?」
「トウコちゃん、感覚派だからやだ。何を言ってるかわからないもん」
天才さんだもんな。
「ちゃんと理論に基づいてやってるのに……」
お風呂場で思いついた水の上を歩く女神ごっこ魔法はどういう理論なんだろう?
「あ、そうだ。お婆様が課題の研究成果を提出しろって言ってたよ。トウコちゃん、電話で報告したでしょ? それでお婆様がレポートって言った瞬間に切って、電源を落としたでしょ。お婆様、『あのガキ……!』って怒ってたよ」
やっぱり問題児2号だわ。
1号はぶっちぎりで長瀬さんちのニート問題を起こした俺……
「知らない、知らない。そのうち提出するって言っておいて」
せんな。
「いや、しなよ……」
「私、自分の頭に詰め込むのは得意だし、好きなんだけど、それをアウトプットするのはちょー嫌いなんだよね。ましてや、お婆ちゃん、赤ばっかり書くし」
感覚派が書いたレポートとかひどそうだしな。
シャルとは正反対だわ。
「お前、そんなことしてんだな。俺、そんなこと言われたことないぞ。この前も婆ちゃんに電話したけど、終始優しかった」
学校は楽しい?
そう、良かった……
いつでも来てもいいからね。
学校嫌いの引きこもり説を否定するために電話したらこう言われた。
「お婆ちゃんもお兄ちゃんにそんなことを期待してないでしょ」
「お婆様は厳しい人だけど、できない人にできないことは頼まないしね」
さりげにすげーディスってんな。
「魔法使えんしな。武術の理論なら書いてやるぞ。婆ちゃんも健康のためにやるといい」
「魔法関係ないし、お婆様が死んじゃうよ……あ、それでね、お婆様が夏休みに帰ってこいって」
「えー……レポートの説教する気満々じゃん。それこそ血圧上がって死んじゃうよ」
孫共に死んじゃう、死んじゃう言われる婆ちゃんも可哀想だな。
「俺は小遣いもらえるからいいけど、どうやって行くんだ? 飛行機? それともアストラル経由?」
「どっちでもいいって。その辺は家族で相談してよ。私的には飛行機で来てほしいけどね。デートしようよ。エスコートして」
エスコートできるほどパリの町を知らんな。
小さい頃に連れていってもらったでっかい教会と塔と凱旋門は覚えている。
「どうする?」
トウコに聞いてみる。
「お父さんは仕事があるから無理でしょ。お母さんはどうだろ? いや、お父さんを残して行かないか」
そうなると、トウコと俺……
「2人で行けるか?」
「無理じゃない? 気付いたら別の国に行ってそう」
飛行機の乗り方なんて知らんしな。
ましてや外国なんかわからなさすぎ。
「アストラル経由が楽でいいか」
「うん。夏休みは2週間しかないし、有意義に使うべきだよ」
シャルもそう言ってたな。
「よし、そうしよう。リディ、家デートな。エスコートしてやる」
「えー……それ、今やってない? やだー。外が良い」
確かにやってるな。
「わかった、わかった。動物を見に行こう」
「動物? 動物園?」
「そうそう。似たようなもの。アストラルなら自由にデートできるぞ」
「アストラルに動物園なんてあったっけ?」
知らない。
「サファリパークに近いが、クマとかワニを見れるぞ」
「町の外じゃん!」
「大丈夫。全部一撃で仕留めた」
余裕、余裕。
「仕留めた!? 過去形!? ツカサ君、学園で何してんの!?」
「ちょっとした気分転換だよ。楽しいぞ」
「やだー! 手を繋いでショッピングが良い」
おませなガキだな。
中学生は背伸びしたい年頃なんかね?
「わかった、わかった。商業区にでも行くか。金はあるから奢ってやるぞ」
「やったー」
まあ、可愛いもんだな。
「あ、トウコ。お前もお兄ちゃんと手を繋いでデートするか?」
「うんって言ったらどうするの?」
「引く」
「それが答えだよ」
だろうな。
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