第138話 何でも予定を立てている時が一番楽しい
「また冬に考えるけど、組むとしてもシャルかなー? 他に知り合いおらんし、別の奴と組むとあの2人がうるさそう」
勝ち逃げするなーって叫びそう。
「私はツカサが組んでくれないと先生に選んでもらうことになるから助かるわ。でも、トウコさんの戦い方がマズいのはわかったけど、今度は修正してくるかしら?」
「こればっかりはなー……あいつが気付くかどうかにかかっている。気付いたら修正してくるだろうな」
昔から防御をどうにかしろって言ってるが、直さない。
あれは何が悪いかをわかっていないんだろう。
「それについてはごめんなさい。私は立場上、トウコさんに教えないといけないのよ」
ミシェルさんが裏切った。
「あんたはイヴェール派だろ」
「なんでよ……ラ・フォルジュ派です。最初は兄の方の味方をしたから次は妹さんね。不公平だし、可哀想じゃないの」
あいつを可哀想と思う感性があるのか……
死ねを連呼してたのに。
完全な悪役だろ。
「まあいいわ。俺にはまだ生牡蠣作戦が残っている」
「それはやめなさいっての……」
えー……
「まあ、次の魔法大会のことは先のことだからいいでしょう。それよりも直近のテストはどう? 一応、教師だし、そこが気になるわ」
ミシェルさんが笑顔で聞いてくる。
「うん……」
「90点はいけるわよね?」
え?
「あ、はい。頑張ります……」
90って……
見たことねーわ。
でも、シャルリーヌ先生のプレッシャーが……
「が、頑張ってね」
うん……
「ツカサ様はテストが終わったらどうされるんです? 夏休みですけど……」
今度はクロエが聞いてくる。
「2週間しかないんでしょ? 海に行くくらいかなー?」
「おー! 海ですか。良いですね。御家族と? 御友人と?」
「両方。トウコとユイカとユキ」
「へー……」
クロエがチラッとシャルを見た。
「あ、シャル、海に行かない?」
一応、声はかけておこう。
「海? 行かない。夏はね、エアコンの利いた部屋で錬金術をするものなのよ」
シャルがドヤ顔で想像通りのことを言ってきた。
「うん、知ってた。まあ、エリク君も来るし、来ない方が良いと思う」
シャルが浜辺を色づかせることは一生ないんだろうな。
せっかく水の上を歩く魔法とやらを覚えたのに。
「絶対に行かないわね。それにしてもユイカさんはトウコさんが誘ったんでしょうけど、ユキさんも行くのね?」
「同じ日本だからな。ユイカが誘ってた。殺し合いの約束をして仲良くなったらしい」
「怖いわー。あなた達って、絶対に前世は肉食動物よね」
シャルは草食動物だろうな……
「俺は違うけどな」
「妹をぶん殴って吹き飛ばしてたし、首を絞めてたじゃない。あれが自分に来ると思ったら怖すぎよ」
「いや、シャルを殴るわけないじゃん。無理無理」
トウコだからやれるんだよ。
ユイカにだって投げ技とボディへの掌底が主だ。
蹴ったけど……
「お嬢様とツカサ様が敵対することなんてありえませんよ。ツカサ様はちゃんと勉強を教えてもらい、お嬢様はツカサ様に武術を習って少しでもマシになってください」
「はーい……」
「わ、わかってるわよ」
ちなみに、昨日も武術の訓練はした。
いつも通りのシャルだった。
「それでツカサ様、海というのは5人で行かれるんですか?」
「あ、いや、正確にはもう1人いる」
そう言って、ミシェルさんを指差す。
「え? 私? あ、護衛か……」
「別に護衛的な意味ではバーサーカー娘3人衆が揃ってるから来なくてもいいけど、行きましょうよ。エリク君の同世代がいなくて可哀想でしょ」
「完全な引率の先生ポジになるわね……」
確かに……
「楽しいと思うよ。ユキが世界で一番上手なスイカ割りを見せてくれるらしい」
「いや、そりゃ上手でしょ」
「目を閉じて生活してる子だしね」
「さぞお上手なんでしょうね」
さすがに3人共、ツッコんできた。
気持ちはわかる。
俺もツッコんだもん。
「ユイカが自分のところのプライベートビーチを貸してくれるって言ってるし」
トウコ経由で聞いた。
「そんなものまであるのね……まあ、行くわよ。護衛だもの。でも、シャルリーヌさんはいいの?」
ミシェルさんがシャルを見る。
「いや、行かないってば。行くわけないでしょう。エリク・ラ・フォルジュがいる時点で行けないし、いなかったとしても海なんか絶対に行かない。泳げないし、肌が焼けるわ、べとつくわで良いことないじゃないの」
母さんと同じことを言っているし……
シャル、気が合いそうだな。
きっと、将来、子供ができて海に行っても車から出てこんな。
「いや、そういう意味じゃないんだけど……まあ、いいって言うならいいか」
ミシェルさんがチラッとクロエを見るが、クロエはニコニコと笑っているだけだ。
「シャルは夏休みどうするんだ? ずっと錬金術?」
「うーん、まあ、そうかなー? あ、でも、さすがに実家には顔を出さないとマズいわね」
「飛行機? 大変だな」
「いや、アストラルの住居区に屋敷があるのよ。そこからゲートを通って帰る。どうせ家から出ないし」
引きこもりもここまで来るとすげーわ。
実家のパリに戻っても家から一歩も出ない気らしい。
「それでいいん?」
「2週間しかない休みなのに飛行機はねー……時間がかかるし、何よりも時差がきついのよ」
それはわかる。
俺も何度も経験したことだ。
「じゃあ、勉強会と武術も休み?」
「いや、それはやる。継続が大事だもの。あ、そうだ。また錬金術を見る? 魔法大会とかがあって時間が取れなかったけど、そろそろジンジャエールと紅茶のポーションができそうなのよ」
そうか……それがあったな……
そして、今回は結構な時間がかかっている理由がわかった。
シャルは魔法大会とかと言って濁しているが、時間が取れなかったのは例の参考書のせいだ。
だって基礎学だけじゃなく、『ツカサくんには難しいけど、頑張ろう呪学♪』という本が本棚に置いてあったのが見えたし……
「そうだな……見たいなー」
「でしょう? 特別に私が研究中の体内の魔力を活性化させ、少ない魔力で魔法を撃てるようになるという素晴らしいポーションを見せてあげるわ」
世界で一番俺の役に立たないポーションでウケるわ。
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