第137話 ぼろくそ
午前中の勉強が終わって1階に降りると、何故かクロエとミシェルさんがテーブルでチェスをしていた。
クロエは姿勢よくいつものニコニコ顔だが、ミシェルさんは頭を抱えながらチェス盤を見て、悩んでいる。
「何してるのよ?」
シャルが声をかけた。
「これはお嬢様……すぐに準備を致します。ミシェル」
「待って! もう少しだから!」
「後です。優先すべきはお嬢様とツカサ様の祝勝会です。あなた、教師でしょう」
クロエにそう言われたミシェルは渋々、チェス盤を持って、棚の上に置く。
そして、クロエがキッチンとテーブルを行き来し、昼食の準備を始めた。
「ミシェルさん、来てたんですね」
「ええ。外で待機してたらクロエに呼ばれたのよ。それで暇だったからチェスをしてたの」
「苦戦してそうね。悪いことは言わないからクロエに勝負を挑むのはやめるべきよ」
おそらく、クロエに勝てなかったであろうシャルが珍しくミシェルさんに声をかけた。
「あと少しで勝てそうなのよ」
よくわからないが、ギャンブルで負けてそうな人の発言だ。
「ミシェル、手伝いなさい。お嬢様とツカサ様はどうぞ、お座りください」
クロエが勧めてきたのでシャルと一緒に席につく。
「疲れたわー」
「まあねー……そういえばだけど、ノエルってどんな感じ?」
ん?
珍しいことを聞いてくるな……
でもまあ、イヴェール派だから変なことでないだろう。
実際、魔法大会の時も声をかけてたし。
「どんなって言われてもいつも通りだと思うぞ。ニコニコしてる」
ノエルはいつも笑顔だ。
「そう……うーん……」
シャルが首を傾げながら悩む。
「どうかしたのか?」
「いや、この前、寮ですれ違った時に『負けませんから!』って言われた」
あー……
「何ですか!? 何ですか!? 宣戦布告ですか!? ライバルの登場ですか!?」
クロエがキッチンから急いで出てきた。
「準備しなさいよ」
シャルが呆れる。
「それどころではありません! 大事なことです!」
「そ、そう? でも、ノエルがライバルってどういうこと? あの子、争うような子じゃないわよ」
何よりイヴェール派だしな。
「小学生は黙ってましょう」
「しょ、小学生っ!? 何が!?」
シャルはどう見ても小学生ではないと思う。
俺もトウコも絶対に年上って思ってるし。
「ツカサ様、何があったんです?」
クロエが前のめりで聞いてくる。
「いや、俺がシャルに勉強を教わっているのと同じようにユイカもノエルに勉強を教わっているんだよ。そのことだと思う。魔法大会では俺達が勝ったし、テストでは負けないってユイカが気合入れてた」
「あ、そうですか……頑張ってください」
クロエが完全に興味をなくした顔でキッチンに戻っていった。
「クロエは一体何なのかしら? いやまあ、あの子のことを考えても意味ないわ。しかし、ノエルがねー……なんか負けられない気分になってくるわね」
やっぱり家庭教師の方が燃えている……
「はいはーい。準備ができましたよー」
「あなたって料理が上手なのねー。さすがメイドさん」
クロエが料理を並べて終えると、ミシェルさんが俺の両肩に手を置いた。
「何?」
「あなたはあっち。祝勝会なんでしょ」
ミシェルさんがシャルの隣を指差す。
「そんなもんか……」
席を立つと、シャルの隣に行く。
すると、対面にクロエとミシェルさんが座った。
「では、ミシェル先生、一言どうぞ」
クロエがミシェルさんにしゃべるように勧める。
「えー、では……2人共、優勝おめでとう。対戦した3チームは皆、強敵であり、特に最後のトウコさんとユイカははっきり言えば、総合的にあなた達より実力は勝っていました。ですが、あなた達はきちんと対策を立てて挑み、連携も実に見事でした。まあ、向こうがひどかったですけどね。それでもこの勝利は実に大きく、実質的な優勝と思ってます。はい、おめでとう」
「一言って言ったじゃないですか。長いです。お嬢様、ツカサ様、あなた達は一人ではありません。たとえ、何かが不得手でも補い合えばいいのです。これからも頑張ってください。では、料理が冷める前にいただきましょうか」
クロエがそう言うので皆でご飯を食べ始めた。
「クロエ、私達とトウコさん達の戦いを見て、どう思ったの?」
シャルがクロエに聞く。
「おおむね、ミシェルが言った通りです。お嬢様とツカサ様は明確な弱点がありましたが、上手く連携し、それを補っていました。一方でトウコさんとユイカさんには弱点が少ないと思われていましたが、防御が下手くそというか、まったく考えていないという弱点がありました。そして、それらを補うということもまったくしませんでしたね。それが勝敗を分けました」
「攻撃を得意としている人間にありがちなことよね。攻撃される前に倒してしまえってやつ。あの2人は典型的なそれ。双子の兄の方はじっくり腰を据えた戦い方なのに妹はホント……」
クロエもミシェルさんもあのトウコにはさすがに思うところがあるようだ。
「トウコさんってひどかったの? めちゃくちゃ強かったけど」
「はい。あれはかなりひどかったです。多分、リベンジに燃えていたからでしょうが、あまりにもお粗末でした。一番マズいのは性格と戦闘スタイルが合ってないことですね。遠距離魔法を得意とし、カウンター狙いの武術が主なのに勝ち気すぎます。本来ならユイカさんの援護をしながら戦える才能を十分に持っているのに周りがあまりにも見えていませんでした。あの白川ユキさんと同じことをすれば、ユイカさんの戦闘能力と合わさって、学園どころか全魔法使いの中でもトップクラスになれますよ」
「というか、本来ならツカサ君がトウコさんと組めばいいのよね。お兄さんがトウコさんを守ってトウコさんが攻撃する。それが最強よ。あのトウコさんの戦闘スタイルはお兄さんにおんぶに抱っこだったからでしょ。明らかにピースが足りない気がしたもの」
2人で1人って言うな。
「今度はトウコさんと組むの?」
シャルが聞いてくる。
「ないない。それにあいつはすでにユイカと組んでリベンジするって燃えてる」
「それは良かったわ。あなたとトウコさんが組んだら勝てるビジョンがまったく見えないもの」
いや、多分、その場合は裏切るから3対1でトウコをボコることになるな。
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