第136話 勉強会と保護者会 ★
テストに向けたシャルとの勉強会が始まった。
いつも勉強をする際はファミレス、俺の家、シャルの家をローテーションしていたが、現在はウチにエリク君がいるのでファミレスかシャルの家の二択だった。
そして、日曜である今日も朝からシャルの家に来て、勉強をしていた。
「いい? 何度も言ってるけど、基礎学は基本的に暗記よ」
耳タコだよ。
「暗記苦手なんだよ」
「わかってるわよ。でも、共通する部分や法則性はちゃんとあるからそれを重点的に覚えなさい」
シャルはそう言って学園の教本を閉じると、机に置かれている手書きの『ツカサくんでもわかる基礎学♪』というバカにされてるんじゃないかという自作の本を開いた。
「何それ?」
「教本ってわかりづらいと思うのよ。だからわかりやすいようにまとめたの」
この人、参考書を作ってますけど……
「どれぐらいの時間がかかったんだ?」
「たいしたことないわよ……ひと月くらい? テストに向けて毎日コツコツと書いた」
何してんの?
魔法大会の時も入ってんじゃん。
「えー……やりすぎじゃない?」
「大事なことよ。普通の学校だったらその辺の本屋に参考書とか売ってるけど、アストラルの本屋には専門書しかないわ」
基礎学がわからない魔法使いなんてほぼいないからか。
「ありがとう……でも、このタイトルは何?」
「それはクロエが書いた」
あの人かい……
やっぱりふざけないと死んじゃう人なんだな。
「ふーん……バカや猿って書いてないだけマシか」
「そんなこと書くわけないじゃない。さあ、やるわよ」
「はーい」
絶対に悪い点を取れない理由が増えてしまった……
◆◇◆
私はシャルリーヌさんのお宅のリビングでコーヒーを飲んでいる。
「クロエー、やっぱり手伝おうかー?」
あまりにも暇なのでキッチンに向けて声をかけた。
「今、煮込み作業中に変わりましたので何もすることありませんよ」
クロエがそう言ってリビングに戻ってくる。
「あ、そう……暇ね」
「一応、仕事中でしょう」
「まあ、そうなんだけどさ……」
そう言って、天井を見上げた。
もちろん、そこには何もないが、件の2人は2階にいる。
今日は魔法大会の祝勝会も兼ねており、クロエが朝から準備をしているから2人は2階で勉強をしているのだ。
「テスト前ですからね。特にツカサ様は座学が苦手なようです」
「まあ、それは知ってるけどね。でも、お嬢様もよくやるわ。毎日じゃないの」
月曜からずっと放課後にここかファミレスで勉強をしている。
「お嬢様も真面目ですしねー。多分、最後まで面倒を見ると思います。お嬢様はお嬢様で武術を教えてもらってますし、トウコ様を倒すことができました。ウィンウィンです」
ウィンウィンねー……
「そんな利害で繋がった関係?」
「どうでしょうかねー? 私にはわかりません」
絶対にわかってるな……
「どうするの? あなたはイヴェールの護衛、私はラ・フォルジュの護衛。お互いにあの関係が良くないものだということは十分に理解しているでしょう?」
私には全員が不幸になる未来しか見えない。
「では、教えてあげましょう。現在、御二人はテストに向けて2階で勉強中です」
「知ってる」
「場所はお嬢様の研究室です」
「え……?」
研究室?
「魔法の?」
「はい。正確にはお嬢様の錬金術関係の工房も兼ねた研究室です」
はい?
「魔法使いが……その中でも秘匿しまくる錬金術師が他人を研究室に入れたの?」
ありえない。
絶対にありえない。
「そうですね。以前も錬金術を見せると言って一日中籠ってました」
「…………そんなの聞いたことないんですけど?」
「私もないです。魔法使い、特に錬金術師は他人どころか親や兄弟姉妹、そして、自分の子供すら研究室に入れることはありません。私も掃除を任せられましたが、すべての研究成果にロックの魔法がかかっていました」
魔法使いは発表する目的以外の研究成果を人に見せるのを嫌がる。
特に研究中のものは絶対に見せない。
その中でも錬金術師は特にその傾向が強い。
何故なら見えない魔法とは違い、物を作る錬金術は成果の流出が致命傷になるからだ。
「ラ・フォルジュの人間を入れてるわね……」
ツカサ君は本来、身内とは対極にいる関係の子だ。
「ツカサ様は研究成果を見てもわからないでしょうし、興味もないでしょうからね。お嬢様もそれを重々承知なのでしょう」
クロエがまったくそう思ってなさそうな笑顔でうんうんと頷いた。
「私も錬金術に興味ないけど、お嬢様は私が入ろうとしたら殺しにくるわよね?」
「その前に私が殺します」
差別だ……
いや、それが普通なんだけど……
「本当にどうするのよ……今、長瀬家にはエリクさんがいるし、怖いわ……」
そう言って、頭を抱えて机に突っ伏す。
「なるようにしかならないでしょう」
お気楽なメイドだな……
いや、クロエは昔からこんな感じか。
「ねえ……イヴェールが魔法大会に口出ししたって知ってる?」
「……死にたいですか?」
クロエが笑顔を消し、真顔になった。
これはマジの表情……
つまり本当にイヴェールが介入したってことだ。
しかも、これはクロエも知っていること……
「これだけ教えて。お嬢様は知ってるの?」
「いいえ。知りません」
クロエがきっぱりと告げ、もう質問してくるなっていう圧を出してきた。
「私はさ、ラ・フォルジュの派閥の人間だし、少なからずラ・フォルジュの血も入っている」
「知ってます。だからこそ、ラ・フォルジュの当主様は信頼できるあなたにツカサ様の子を産んでほしいのでしょうね。エリクさんではなく、ツカサ様の子供を……」
エリクさんは優秀な人だけど、魔力がそこまで高くない。
私より低いくらいだ。
「そうね。まあ、その辺は微妙なところなんだけど、とにかく、私はラ・フォルジュの人間だし、ツカサ君の味方なわけ。あの子がラ・フォルジュでどうなるのかは知らないけど、まあ、どういう形であれ、幸せに生きてほしいわけよ」
一応、生徒だし。
「よろしいと思います」
「あなたはどうなの?」
「もちろん、お嬢様に幸せになってほしいと思っております。それが私の仕事であり、使命です」
なんとなくわかってきたな……
「もういいわ……ツカサ君の勉強を見てあげるって言ったらお嬢様怒るかな?」
「殺しますよ?」
怒るんだ……
「ハァ……暇」
とはいえ、炎天下の外で待つよりかはマシだけど。
「チェスでもします?」
「嫌。あなたは絶対に強そうだもの」
「接待しますって」
なんで友人に接待されてまでチェスをやらないといけないのよ……
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