第135話 勉強は大事……?
「こっちの用件は済んだし、ワニの金を渡すぞ」
ユキの刀の調整の話が終わると、クラウスが本題に入った。
「それそれ。いくらなん?」
「50万マナだ」
ご、ごじゅう……
「そんなに?」
「質が良かったからな。カードを寄こせ。振り込んでおく」
そう言われたのでカードをクラウスに渡す。
「トライデント買える?」
「無理。あれは無駄に高い」
クラウスはそう言って、パソコンの前に行き、何かの作業をし始めた。
「50万だって!」
すごくね!?
「時代はワニか」
「トカゲよりそっちで儲けた方が良いかもしれんな。ロナルドに提案しよう」
ロナルドも大変だな。
「そういやロナルドは一緒じゃないん?」
「いや、別にいつも一緒じゃないぞ。君だって暴力姫と一緒じゃないだろ」
氷姫が完全に消えてる……
「まあ、それもそうか」
「でも、なんだかんだでツカサとトウコは仲良いよね」
ユイカがアホなことを言ってきた。
「どこが?」
「一緒に海に行くんでしょ? なんかトウコに誘われたけど、あんまり兄妹で海に行かなくない? 私も兄がいるけど、嫌だよ」
誘うって言ってたけど、もう誘ったんか……
「海に行きたいけど、1人は嫌だっただけだよ。トウコ抜きでもいいわ」
「私と2人で行くの? ジュリエットが怖いから嫌だよ」
いい加減、シャルのことを名前で呼んでやれよ。
「シャルは絶対に海に行かん。というか、前から気になっていたけど、お前の家ってどこだ?」
「一応、都内」
一応か……
「ふーん、海行くん?」
「暇だしね」
「双剣を振り回すなよ」
「するわけないじゃん。ユキも行く?」
ユイカがユキを誘う。
「ほう……! 世界で一番スイカ割りが上手いと評判の私を誘うか」
そりゃ上手いだろうな。
いっつも目を閉じている剣士さんなんだから。
「え? 来るの? お前の家はどこよ?」
「都内だよ。一応ね」
ユキも一応か……
「ユイカ、トウコに確認しろよ」
誘われた側が勝手に増やすのはどうなんだ?
「ツカサがすればいいじゃん」
「お前、兄貴と一緒に海に行くことになって、兄貴が別の女子を誘ったって報告してきたらどう思う?」
「…………うん、嫌な気持ちになった。しかも、本命じゃない女子……きっつい」
本命って何だよ。
「お前が言え。な?」
「わかった」
ユイカが頷く。
「ふむ……海か。懐かしいな。でも、ツカサ君、本当にジュリエットを誘わなくてもいいのかい?」
こいつもジュリエット呼びだし。
ジュリエットって何した人なの?
「誘ってもいいけど、絶対に来ないな」
「そうか……いや、さすがにフランスからは来ないか」
あ、そうか。
こいつらはシャルが日本にいることは知らないんだ。
言うか?
いや、事情がありそうだし、言いふらすことでもないか。
「あ、実はそれが気になってたんだけど、ツカサはどこでジュリエットの家庭教師を受けてるの?」
ユイカが変なところに気が付いた。
「秘密」
言えないもん。
「ね? ロミジュリ」
「妄想をかきたてられるな」
「きっと夜な夜な……」
「ひゃー」
ユキが両目を手で押さえる。
「目を閉じてるんだから意味ねーだろ」
そうツッコむと、ユキが目を開けた。
「キャラ付けはどうした?」
「いや、それは言い訳で修業がメインだよ。トウコはジュリエットのことを知っているのかい?」
シャルがジュリエットで定着しそうだ。
「トウコのことはマリーと呼ぶといいぞ」
「マリー? 誰?」
「マリーアントワネット。なんか憧れてた」
確か、パリジェンヌがどうちゃらこうちゃらって。
「憧れるの? ギロチンで処刑だよ?」
そうだっけ?
知らね。
「そういう年頃なんだろ」
「へー……じゃあ、そのマリーはジュリエットのことを知ってるの?」
「仲良しだぞ。魔法を交換してたし」
奪った疑惑はまだ消えてないけど。
「君達の家、なんか複雑だね」
「別に普通だよ」
「そうか……いや、一緒に海に行くのは良いんだけど、どこまでしゃべっていいのか気になってね。誰にだって触れられたくないことはあるだろうし、君達の家は特に複雑そうだから」
お前の家が一番触れにくいよ……
「ラ・フォルジュとイヴェールか?」
「それもあるけど、兄妹なことを隠してるだろ? 知ってる側からしたらめんどくさい」
「うん。めんどくさい。気を遣う」
そりゃ悪かったな。
「引き続き、頼む」
「ねえ、別に兄妹ってわかってもよくない? もう高校生だし、皆、空気を読んでくれるよ?」
ユイカに大人な意見を言われる。
「ユイカ、目を閉じてみ?」
そう言うと、ユイカとユキが目を閉じる。
いや、ユキは元に戻っただけだ。
「何?」
「想像してみろ。お前にそっくりな双子の妹が同じクラスにいる」
「かわいい子だね」
「目を閉じてるな……」
ユキも想像しているらしい。
「そいつは自分よりはるかに賢く、さらには魔法の天才と呼ばれる奴だ」
「嫌な気持ちになった」
「わからないでもないような……?」
ユキは優等生だから微妙だな。
「な? 隠したいだろ?」
あとは死ぬほど聞いた『よく見たら同じ顔ー』、『リアクションも同じー』だ。
「うーん……まあ、わからないでもないけど、苗字を変えてまでする?」
ユイカが首を傾げる。
「そこはわざとじゃない。トウコだって本名は長瀬トウコだが、ラ・フォルジュの魔法使いだからラ・フォルジュを名乗っているだけだ」
「なるほど……そうか。トウコが変えているのか……確かに長瀬トウコがしっくりくる」
俺もそっちがしっくりくる。
3月まではそうだったんだもん。
「どう見ても日本人だもんな。ユキ・ラ・フォルジュやユイカ・ラ・フォルジュみたいなもんだ」
似合わんなー。
「すんごい違和感。トウコはよく名乗れるね」
婆ちゃんが5万もらったらかっこよく見えてきたって言ってたな……
ホント、バカ。
「マリーさんだからな」
「まあ、トウコって頭が良いバカだもんね」
「私はあの口の悪さをどうにかした方が良いと思う。試合を見ていたが、暴言がすぎる。仮にも名門ならもっと上品にしないと」
そう思って学園では物静かなお嬢様キャラでいってたんだけどな。
所詮はメッキのお嬢様だわ。
もう氷姫でなくて暴力姫。
「そういうのをトウコに教えてやってくれ」
「ふむふむ。同じ名門としてアドバイスでもするか……」
まあ、お前はお前でバーサーカーなんだけどな。
笑いながら刀を振ってたし。
「ユキ、水着持ってる?」
「ふむ……サイズが怪しいから買うか」
「サイズ……いきなりディスってきた」
自分で寸胴って言ってたもんな。
チビだし。
「そんなつもりはない。去年は色々あって海やプールに行けなかっただけだ。遊ぶ余裕がなかったからな」
この子、地雷がちょっと……
「……一緒に買いに行く?」
「そうだなー」
行け、行け。
そして、勉強すんな。
「お前ら、どうでもいいけど、まずは目の前のテストに集中しろよ。そういうのは終わった後にしろ」
元教師が現実に戻してきた。
「いやいや、クラウス、これは大事なことなんだ。そっちに集中すべきだぞ」
「お前は何を言ってるんだ?」
クラウスが呆れる。
「この男、やはり勉強する気だ……噓つきの顔」
「まあ、嘘つきだね……」
「だよね。やはり勉強しないと……!」
くっ、逆効果でやる気を起こしてしまった……!
しかし、俺達は勉強したくないのに勉強したいというよくわからないことになってるな。
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