第134話 バカはおらんのか?
俺達3人は転移の魔法陣に乗り、工業区へやってきた。
そして、クラウスの工房に向かう。
「クラウスー、来たぞー」
扉をノックしながら声をかけた。
すると、扉が開き、クラウスが顔を出す。
「よう! んー? 初めて見る顔がいるな」
クラウスがユキを見て、首を傾げた。
「あ、この子は白川ユキっていう同級生」
「白川家の当主、ユキです。お初にお目にかかる」
ユキが丁寧にお辞儀する。
「当主ねー……なるほど。同郷か。俺はクラウスだ。敬語はいらんぞ。嫌いなんだ」
「ほう……職人気質……さぞ腕のある鍛冶職人と見た」
なんで敬語がいらないと腕があるんだろう?
「さすがは当主だな。わかっている」
俺と首を傾げているユイカは当主になれないらしい。
「お前ら、何言ってんの?」
「まあ、外で話すのもなんだし、入れや」
クラウスが中に招き入れてくれたので中に入った。
「ふむ。中は事務室みたいだな」
ユキが部屋を見渡す。
目を閉じてるけど。
「最近は近代化が進んでいるからな。しかし、お前さん、なんで目を閉じているんだ?」
さすがのクラウスも聞いてきたな。
「修行だ。目だけに頼ると大事なものを見失う」
「ほーん……わからん」
俺もわからん。
「じゃあ、キャラ付けとでも思ってくれ。中学はそれで通した」
こいつ、中学でも目を閉じていたらしい。
先生に怒られなかったんだろうか?
「そうか…………それよりもツカサ。お前はまた女連れだな。今回はヘンゼルトの嬢ちゃんじゃなくて、同郷の当主様だけど」
ヘンゼルト……あ、イルメラだ。
「来る途中で会ったんだけど、ワニの料金をもらう話をしたらあんたを紹介してほしいって頼まれたんだ」
「俺を? 何だ? 獲物を買ってくれか?」
そう思うわな。
「いや、獲物を売る伝手はこちらにもある。そうじゃなくて、本業だな。これを見てほしい」
ユキはそう言うと、どこからともなく鞘に入った刀を取り出して、クラウスに渡した。
「刀か……まあ、日本だったら日本刀だわな。どれ……」
クラウスは刀を抜き、刃を見る。
「どうだ?」
「良い刀だな。手入れもしているようだ……しかし、これは嬢ちゃんの刀か? 嬢ちゃんはとてもではないが、剣士に見えんぞ」
俺も最初はそう思った。
「そいつは目を開けると人斬りに変わるタイプのやつだ」
「宙に大量の剣を作って飛ばしてくるし、殺意100パーセントだね」
俺とユイカがうんうんと頷きながら説明する。
「君らに言われたくないがな」
「よーわからんが、お前らが全員、戦闘タイプの魔法使いなのはわかった。嬢ちゃん、これを直せばいいのか? 魔力を流した影響で少し、歪みが出ている」
歪み?
「そうだ。それを頼みたい。私は魔力が高いからすぐに歪むんだ。この前は魔法大会があったからな」
「なるほどな。こっちが本業だし、当然、仕事は受ける。5万マナってところだ」
何のことかわからないが、結構するな。
「もちろん払う」
「じゃあ、この刀は預かるぞ。明日は休みだし、明後日に取りに来い。それまでに調整しておく」
「わかった。よろしく頼む」
「書類を書いてくれるか? こっちだ」
クラウスはそう言って、ユキと共にデスクに向かう。
そして、ユキが何かの書類を書き始めた。
「なあ、歪みって何だ?」
待ってる間にユイカに聞いてみる。
「私達は武器に魔力を流すんだよ。えーっとね……」
ユイカが双剣を取り出した。
「かっこいいなー」
「でしょ? 私で言えば、この双剣に魔力を流し、切れ味を増している。でも、そんなことをすると、傷むんだよ」
「まずそこからわからんのだが、魔力を流すって何だ?」
どうやるの?
「ツカサは素手だし、私以上に放出魔法が下手くそだからわからないか……私達が使う武器は特殊な金属が混ざっていて、魔力に反応するんだよ。それで攻撃力が上がると思っていい。でも、そんなことをすると、普通の鉄とのバランスが崩れる。それが歪みと呼ばれている。これを放っておくと、もろくなって折れたり、壊れちゃうんだ。私の双剣もユキの刀も安くないから壊れないように鍛冶職人に調整してもらうんだよ」
へー……
ユイカが珍しく、長文をしゃべっているなという感想しか出てこない。
「杖もか?」
「あれは違う。私達の双剣や刀、あとはフランクの剣やイルメラの槍とかだけ」
そうなのか……
俺もトウコも武器を使わんからな。
「お前のかっちょいい双剣も調整してんの?」
「毎日、実家の使用人に渡している。ウチには専属の職人がいるから朝起きたら調整した双剣が置かれている」
へー……
多分、ユキも本来ならそれだったんだろうな。
「ラ・フォルジュや長瀬の家にはそんなのいないなー」
「武術と研究職の家でしょ? いなくて当然だと思う」
それもそうか。
シャルの家にはいるのかね?
シャルに武家のイメージがなさすぎていまいちわからないんだよなー。
「何の話だい?」
書類を書き終えたユキが戻ってくる。
「歪みとやらの説明を聞いてただけ。そういえば、ユキはテストとか大丈夫なん?」
「ん? 大丈夫とは?」
あ、この反応だけでわかった。
「なんでもない」
「ツカサ、私達以外は皆、優等生だよ……」
俺とユイカが暗くなる。
「えーっと? テストは日頃やってきた勉強を試すだけだろ?」
あなたはシャルリーヌ先生と同じ人種ですね。
「しゃべんな、優等生。いじめで訴えるぞ」
「よく考えたらこの人は当主様だから人間が違う……」
これが格差か……
「よくわからないけど、勉強しなよ。勉学は自分という個を形成するうえでとても大事なことだよ」
くっ、ツッコミまで優等生っ……!
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