第133話 俺のアホ
基礎学が終わり、フランクとセドリックと昼食を食べた後、家に帰り、ベッドに寝ころぶ。
今日からシャルとテストに向けた勉強会をするが、シャルは午後からも授業がある。
一方で、俺は午後からの薬草学を取っていないので約束の時間まで暇なのだ。
午後の授業が終わるのは向こうの時間で5時だが、こっちは2時である。
そのため、2時半にシャルの家で勉強会をする約束となっており、それまでの間にやることはない。
トウコは授業だし、エリク君も仕事に行っているから家にいない。
「漫画でも読むか……」
当然、シャルと勉強会までの間に自主的に勉強をする気はないので漫画に手を伸ばした。
すると、スマホの着信音が聞こえてきたので手に取り、画面を見てみる。
「クラウス……あ、ワニ」
魔法大会前にワニを狩ったことを思い出し、慌てて電話に出た。
「もしもしー?」
『おう! 授業中かと思ったが、繋がったな』
このうるさい声は間違いなく、クラウスだ。
「月曜の午後は取ってないんだよ」
『ほーん。じゃあ、時期的にテスト勉強か。頑張れよ』
そう言われたのでなんとなく、漫画を置く。
「う、うん」
『遊んでたか……お前は強いからそっち方面で生きていけるんだろうが、目的があったから学園に通っているんだろ? しっかりやれよ』
せ、先生……
「夕方から勉強会をするんだよ」
『そりゃ良いことだ。頑張れ。それで電話の用件だが、この前のワニだ』
「どうだった?」
『とりあえず、買い取りの話はついた。いつでもいいから来い』
おー! やったぜ!
「勉強会まで時間があるし、今から行ってもいい?」
『今からか……こっちは深夜なんだが、まあいいか』
あ、ドイツか。
「いいの?」
『明日は休みだしな。30分後に来い』
「わかったー」
そう言って電話を切ると、準備をして、ゲートをくぐった。
そして、寮を出て、丘を降りていく。
すると、男子寮と女子寮の分岐点で見知った顔の女子が2人で話をしているのが見えた。
「よう」
分岐点まで行くと、2人の女子に声をかける。
「あ、ツカサ」
「やあ、ツカサ君。この前ぶり」
2人はユイカとユキの日本人コンビであり、何気にユキの制服姿を見るのは初めてだ。
「こんなところで何してんの? ユイカは午後の授業を取っていないのは知ってるけど、ユキは?」
「私も取ってないんだよ」
どうでもいいけど、また目を閉じてるな……
「へー……お前ら、仲良いの?」
「さっき友達になった」
「今度、演習をすることになったよ。魔法大会では不完全燃焼だったからね」
そういえば、ユキはユイカとやる前に降参してたな。
しかし、さすがはバーサーカー1号と3号だ。
死なない演習場とはいえ、殺し合いの約束をしたら友達になるらしい。
「そりゃ良かったな。同郷は仲良くするもんだぞ」
フランクとイルメラが言ってた。
「え? ツカサが言う?」
「君らのところはギスギスだろう。私でも知ってるくらいだ」
ラ・フォルジュとイヴェールね。
こいつらは俺とトウコが兄妹なことを知っているし、俺がラ・フォルジュの人間なことも当然、知ってるわな。
「俺はギスギスしてないし、仲良くやっている」
「ロミジュリだったね……」
「何それ?」
ユキがユイカに聞くと、ユイカが耳打ちをした。
「……ほら、魔法大会でも組ん……ロミオ……悲恋……しかも、ジュリ……彼女面……」
何を話してんだろ?
断片的にしか聞こえない。
「ほう……ほー……魔力高いし、ウチに嫁いでくれないかなと思ってたが、無理そうだな……ほー……へー……」
こいつはこいつで何を言ってるんだろう?
「お前ら、内緒話はやめろよ」
そう言うと、ユイカが離れた。
「こほん。仲が良いのは良いことだな。ところで、ツカサ君、君は何をしているんだい?」
ユキが咳払いをすると、聞いてくる。
「この前、ワニを獲っただろ? あれが売れたから金を受け取りに行くんだ」
ユキとロナルドも見ているから知っているはずだ。
「おー! あれか! 大きかったもんな。さぞかし高かろう」
「ワニってなーに?」
ユイカがユキに聞く。
「私が初めてツカサ君と会った時、ワニを狩ってたんだよ。しかも、素手で仕留めてた」
「ワニ……すごい。でも、ツカサは何してんの? クマの次はワニ? ハンターにでもなる?」
ハンターも面白そうだけどな。
「なんねーよ。そういうわけで俺は鍛冶屋のクラウスのところに行ってくる」
「鍛冶屋? ワニなのにかい?」
ユキが聞いてくる。
「フランクの伝手だよ。そこから色んなところに声をかけてもらっているんだ」
「ほうほう……すまんが、ついていってもいいか?」
ん?
「別にいいけど、金を受け取るだけだぞ」
「うむ。鍛冶屋を紹介してほしい。私の武器は刀なんだが、ちょっと調整がいるんだ。それをお願いしたい」
「刀を? クラウスはフランクやイルメラと同じドイツ人だぞ? というか、名門ならその伝手があるだろ」
「ツカサ」
ユイカが止めてきた。
それで俺も聞いてはいけないことだと気付いたが、全部言った後だ。
「伝手はもうないんだよ……全部一からさ。それだけ亡き父は失敗したんだ」
ユキが苦笑いを浮かべながら答える。
「悪い……」
俺のバカ。
今日ほど、自分をバカだと思ったことはない。
「いや、いいんだ。そういうわけで一緒に行ってもいいかい?」
断れるわけがない。
まあ、そもそも断る理由もないんだが。
「いいぞ。ユイカ、お前も来い」
「うん」
さすがのユイカも空気を読んだようだ。
この空気でユキと2人きりはきつい。
「じゃあ、行こうか? 工業区?」
「だな」
俺達は3人で丘を降り、転移の魔法陣がある建物を目指した。
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