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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第3章

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第129話 兄妹喧嘩?


 シャルは自爆をし、ユイカもろとも客席に行ってしまった。


「おのれ、自爆とは卑怯な!」

「卑怯もクソもあるか」


 勝った方が正義なのだ。


「ふっ、いいだろう……どちらにせよ、ここでお兄ちゃんを仕留めればいいのだから」


 トウコは杖をしまうと、構える。


「お前なんぞにやられんわ」


 俺も腰を落とし、構えた。


「………………」

「………………」


 俺とトウコの間に緊張が走る。


「「死ねぇぇい! ボケがぁ!」」


 俺とトウコは同時に駆けだした。

 俺がトウコの顔の前に手を掲げると、トウコがぐっと体勢を下げ、潜り抜けてくる。

 そして、掌底を腹部に当ててきた。


「ッ!」


 腹部にものすごい衝撃が走ったが、想定内のことなので耐える。


「アホが!」


 動きが止まったトウコの頭にエルボーを振り下ろした。


「いだっ! 殴ったー!」


 トウコが頭を押さえながら後ずさる。

 そんなトウコに蹴りを放った。

 しかし、トウコは片手で俺の足を掴んで飛び上がると、そのまま顔面に水平蹴りを放ってくる。


「っ!」


 トウコの蹴りを左腕を立てて防いだ。

 すると、トウコが一気に接近してきて、掌底で腹部に当ててくる。

 またもや腹部に衝撃が走ったが、今度は頭突きで返した。


「いだっ! 頭ばっかりやめてよ! バカになるじゃん!」


 トウコが下がって頭をさする。


「大丈夫。もう手遅れだ」

「それはお前だー!」


 トウコは飛び上がって蹴りを放ってきた。

 アホだなと思い、横に躱したのだが、トウコがそのまま浮かび上がり、俺の肩を掴む。


「飛べるのだー」


 トウコは宙に浮いたまま俺の後ろに回り、抱きついてきた。

 見た感じはおんぶのような形だが、トウコの腕がしっかり俺の首に入っている。


「このまま落ちろっ!」


 トウコがものすごい力で首を圧迫してきた。

 だが、俺はトウコの腕を掴むと、思いっきり握る。


「いだだっ!」


 トウコの力が若干、緩んだのでそのまま後ろに倒れ、トウコを地面に押しつぶした。


「ぐえっ!」


 すぐに立ち上がると、いまだに倒れているトウコの顔面に蹴りを放つ。

 しかし、トウコは転がりながら躱し、その勢いで立ち上がった。


「DVだ、DV。さいてー」

「首絞めるよりマシだ」

「ぐぬぬ……勝てない」


 トウコは悔しそうだ。


「魔力が俺の方が大きいし、武術も俺の方が上だ」

「おのれー……魔力しか能のないバカ兄貴めー! スーパーエリートウコ様の魔法を食らうがいい!」


 トウコはその場で浮かび上がった。


「泥棒魔法か」

「言い方に気を付けろ! 気にしてんだから! 食らえ! アイスエッジ!」


 上空に逃げたトウコが複数の氷の刃を飛ばしてきたので躱していく。


「ふはは! そっちは何もできまい!」


 アホのトウコが上空で笑っているので小石を拾い、投げる。


「痛っ!」


 投げた石はトウコの足に当たった。


「空中では動けないのを知ってるだろ。お前、本当にバカだな」


 自分でシャルを攻撃してたじゃん。


「ぐっ! アイスエッジ!」


 トウコはまたもや複数の氷の刃を飛ばしてくる。

 そして、それと同時に空中から殴りかかってきた。


「すぐ逆上する……」


 氷の刃を躱し、飛んでくるトウコに狙いを定める。

 そして、小石を拾った際に握った砂を向かってくるトウコに投げた。

 すると、砂がぶわっと広がり、トウコの顔面に直撃する。


「えっ!? ぶっ! 汚いっ! ぺっ、ぺっ!」


 トウコが宙に浮いたまま顔を抑えたのでジャンプしてトウコのさらに上に飛んだ。


「え? 重いっ!? 何!?」


 トウコの上に乗っかると、そのまま地面に落としていく。


「ぐえっ」


 トウコが地面に落ちたので左腕を掴み、関節をキメた。

 そして、首にも腕を回し、締める。


「ぐえっ……ぐるじっ!」


 トウコが足をじたばたとさせ、脱出しようとしているが、完璧にキマッているので逃れることができない。


「ぐっ……! や、やめ……」

「大丈夫。死んでも観客席に行くだけだ」

「ひえっ……ギブ、ギブ……」

「ジェニー先生は聞こえないようだ」


 トウコは首を絞められているので先生にまで声が届かない。

 というか、卑怯者のこいつはわざと声量を落としている。

 間違いなく、力を緩めたら何食わぬ顔で襲ってくるだろう。

 こいつはそういう奴だ。


「ぐるっ……ギブ……」

「嘘つけ。このまま落ちろ」

「ぜんぜー、レイプです、これはレイプです」


 何を言っているんだ、お前は?


「ちょ、ちょっと、長瀬君!」


 ジェニー先生が走って、俺とトウコに近づいてくる。


「先生、こいつがギブって言ってます」

「だずけてー」


 トウコがようやく腕をタップした。


「わかりましたから離してください! ラ・フォルジュさんの顔が青いです!」


 先生にそう言われたのでトウコから腕を離し、立ち上がる。


「――ゲホッ、ゲホッ」


 トウコは四つん這いのまませき込んだ。

 ジェニー先生がそんなトウコの背中をさする。


「大丈夫ですか?」

「一緒に生まれてきた兄に殺されかけました、ゴホッ……窒息死って大丈夫なんですかね?」

「多分……」


 多分って……


「体に異変は?」

「ないです……ゴホッ! ゴホッ!」


 大丈夫か?


「ノエル!」


 イルメラと共に出入口付近で見学していたノエルを呼ぶ。

 すると、ノエルが走ってこちらにやってきた。


「ど、どうしたんです?」

「寝技で首を締めた」

「えー……ト、トウコさん、大丈夫ですか!?」


 ノエルはすぐに四つん這いのトウコに回復魔法をかけた。

 すると、トウコの顔色がみるみる戻っていく。


「あー……楽になった。ありがとう……」


 トウコはそう言って立ち上がった。


「すぐに医務室に行きなさい」

「あーい……」


 先生に指示されたトウコはノエルと一緒にとぼとぼと出入口の方に歩いていく。


「勝者はシャルリーヌ、ツカサチーム!」


 先生が俺達の勝ちを宣言すると、事態がよくわかっていない観客達は首を傾げながらも一斉に拍手をしてきた。

 俺はトウコとノエルが向かった方向とは逆の出入口に向かう。

 すると、イルメラが出迎えてくれた。


「トウコ、どうしたの?」

「首を絞めて落ちそうになっただけだ」

「えぐっ……でもまあ、仕方がないわね! それにしてもよくやったわ! おかげで大儲けよ!」


 イルメラが背中をバシバシと叩いてくる。


「良かったな」

「ええ! やっぱり大穴よね! あ、私もトウコを見てくるわ」


 イルメラがそう言って、演習場内に入り、走っていった。


「よくそこを通れるな……」


 演習場内を走っていくイルメラにちょっと呆れながらも通路を歩いていく。

 すると、シャルがこちらに走ってくるのが見えた。


「おー、シャル、生きてたか」

「そりゃそうでしょ。いや、退場したけどね。それより、何があったの?」

「トウコが落ちかけただけだ。完璧にキマりすぎたな」


 見事すぎたわ。


「え……大丈夫なの、それ」

「大丈夫、大丈夫。武術をやっていればそういうこともある。それにノエルが回復魔法をかけたから問題ないだろ」

「そ、そうなの? いや、大丈夫ならいいけど……」


 シャルが若干、引いている。


「それより勝てたぞ。見事3勝だ」

「そ、そうね。最後は魔法関係ないじゃんって思わないでもなかったけど、良かったわ」


 寝技だからな。


「まあな。俺もシャルの自爆魔法はどうかと思ったが、勝てて良かったわ」


 そう言って手を上げると、シャルが意図を汲んでハイタッチしてきた。


「……そこは抱き合うところですよー」


 いつの間にかいたクロエがぼそっとつぶやいた。


「いたのか……」

「もちろんですよ。お嬢様、ツカサ様、お見事でした」

「どうも。あいつらがアホで良かったわ」


 特にトウコ。


「それもまた実力です。また後日、祝勝会でも開くとよろしいかと」

「いいな、それ」

「それもそうね」


 トウコも招いてやろうかな?

 あいつの悔しがる顔でコーラを飲んだらおもろい気がする。


「はい。では、今日は家に帰ってお休みください」

「閉会のやつは?」


 すべての試合が終わったので30分後に閉会式みたいなのがあるはずだ。


「どうせ校長先生の長話です。サボタージュでよろしいかと」


 それもそうか……


「帰るか」

「そうね。帰りましょう」


 俺達は演習場をあとにすると、寮に戻ることにし、途中の男子寮と女子寮の分岐点で別れる。

 そして、男子寮に戻った俺は家に帰り、シャワーを浴びると、ベッドに倒れ込んだ。


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