第127話 決戦
俺達の最後の戦いは最終日である土曜の最後であり、その間まで時間があったため、シャルの特訓に付き合った。
とはいえ、俺は見てるだけなので頑張っていたのはシャルとクロエである。
そして、ついに土曜日となった。
俺達は午前中も特訓をしていたが、午後になると演習場に行き、他の試合を観戦することにした。
最終日の午後は俺達の他にもフランクとセドリックやイルメラとノエルの試合もある。
フランクとセドリックの試合を観客席から見ていたが、前にイルメラが言っていたように非常につまらない戦いだった。
だが、それは別にレベルが低いというわけだからではない。
単純に戦い方の問題だった。
フランクは完全に防御主体の戦い方をしており、堅実で無茶をしない。
そこにセドリックが嫌がらせのような魔法を放つという戦法で終始危なげく戦い、一人ずつを確実に倒していった。
周りを見てもそこまで盛り上がっているわけでもなく、玄人っぽいのが頷いているぐらいだった。
俺達はその後も試合を見ていたが、そろそろ時間になりそうだったので席を立つ。
「お嬢様、やるだけのことはやりました。あとは結果を気にせずに持っているものを出してください。それがこの魔法大会の趣旨です」
座ったままのクロエが最後の助言をくれる。
「ええ、わかってるわ。でも、やるからには勝つ」
「私はここで応援しています。ツカサ様、お嬢様をお願いします」
「頑張るわ」
俺とシャルは観客席をあとにすると、階段を降り、演習場内に続いている通路を歩いていった。
そして、出入口までやってくると、俺達の前の試合となるイルメラの戦いを見学する。
「イルメラさんは派手ねー」
イルメラはたった1人で2人の男子の剣士を相手にしていた。
相手も弱くはないが、イルメラの転移魔法に苦戦しているように見える。
さらにいえば、イルメラはよく動くし、隙だらけのように見えるが、防御が固く、2人がかりでも崩されていない。
「会場も盛り上がってるな。あいつは見せ方を知ってるわ。さすがはお姉様」
「何よ、それ」
「あいつ、後輩女子に人気そうじゃない?」
「わからないでもないわね……」
そのままシャルと試合を観戦していたが、終始イルメラが圧倒し、完勝した。
そして、本日の審判であるジェニー先生が勝者を告げると、ノエルがイルメラに抱きついた。
「ノエルは最後まで壁にべったりか」
観客どころか相手も審判である先生もノエルを見ていなかったと思う。
まあ、組む相手を選ぶのもこの魔法大会の一つの趣旨ではあるみたいだから間違ってはいない。
「仕方がないでしょう。本来なら私もそうしたいわ」
シャルは誰と組んでもそうはならなかっただろうな。
俺達がその場で待っていると、満面の笑みのイルメラとノエルがやってくる。
「3勝したな」
「おめでとう」
俺とシャルがイルメラに声をかけた。
「当たり前でしょ。相手にならないわ。あははー!」
「さすがはイルメラさんです!」
ノエルが上機嫌のイルメラに拍手をする。
「でしょー! あとはあんたらでラストね。まあ、相手が相手だけど、頑張りなさい。ちゃんとあんたらに賭けたから」
うん?
「ラ・フォルジュさんとユイカじゃないん?」
「オッズ的につまんないっぽいからやっぱり大穴に賭けた!」
「いくら?」
「この前の熊代! 特等席のここで見てるから勝ちなさい!」
バッカだなー……
アンディ先輩といい、大丈夫かよ、この学校……
「私は質素に5000マナを賭けましたね。ツカサさん、会長、頑張ってください。2万マナになるんです」
4倍か……
「儲けさせてやるよ」
「負けないわよ」
俺とシャルは同時に頷くと、演習場に出て、ジェニー先生のもとに向かう。
それと同時に向こうからもトウコとユイカが出てきて、観客席が沸いた。
「さっきより盛り上がっているわね」
「これが最後だからな。そんでもって、いわば決勝戦だ」
お互いに2勝で負けなし。
そして、ラ・フォルジュとイヴェールのリベンジマッチでもある。
ほとんどの人間が賭けているだろうし、盛り上がらないわけがない。
俺達4人は演習場中央のジェニー先生のもとに来ると、睨み合う。
「ふっ、よくぞ逃げずに来たな」
トウコが髪を払った。
「お前、最後まで悪役キャラでいくの?」
「悪役はそっち。裏切者め」
裏切者言うな。
「別に裏切ってないわ」
「この場にいると、決闘の時を思い出す……あの時は兄妹の力を合わせ、イヴェールを打ち破った……しかし今、お兄ちゃんは女を取り、完全に寝返ってしまった」
いつ、イヴェールを打ち破った?
お前、負けたじゃん。
「シャルから飛行魔法を奪った卑怯者が何を言う?」
「…………この前の決闘と同じだし、何か賭けようか?」
誤魔化しおった……
「俺が勝ったら『ごめんなさいお兄様』って言えよ」
「いいよ。勝ったら『ごめんなさいお姉様』ね」
そんなに姉になりたいか?
「両親からお兄ちゃんなんだから我慢しなさいと言われる理不尽ごと譲ってやるよ」
「それはいらない。ただ長瀬さんちのヒエラルキーが変わるだけ」
んなもん、ウチにねーよ。
「お前、本当にバカだな」
「ぺっ! バカはそっちだ、ボンクラニート。スーパーエリートウコ様の力を思い知るがいい」
絶対にこいつがバカだ。
「しょうもない双子のケンカはもういい? 聞いてらんないし、家でやって」
「言いたくないけど、同意ね」
ユイカとシャルが呆れた目で見てくる。
「……始めてもよろしいですか?」
同じく呆れているジェニー先生が聞いてきたので頷いた。
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