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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第3章

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第124話 千剣


 シャルの上級魔法を防がれたので当初の作戦通り、俺が前に出て、ロナルドと対峙する。


「いやー、すごい魔法だったな。さすがはイヴェールの魔法使いだ」


 ロナルドが槍を構えながら笑った。


「よく躱せたもんだ」

「悪いけど、おたくらの情報は出回っているからな。特に生徒会長さんの火魔法は対処するさ」


 事前に用意していたわけだ。


「ずるいぞ」

「おたくらだってこっちの手札は見ただろ」


 まあね。


「俺に勝てると思ってる?」

「思っているからここにいる。来いっ!」


 ロナルドが重心を落とし、槍の切っ先を向けてくる。

 俺は左足に魔力を込め、突っ込んだ。

 すると、ロナルドも踏み込み、槍を突き出してくる。

 それを躱し、一気に接近すると、掌底を腹に放った。


 手に確かな感触が残ったものの目の前にはロナルドの膝がある。

 直後、腹部に衝撃が走った。


「チッ!」


 たいしたダメージはなかったが、一度下がる。


「舌打ちしたいのはこっちの気分だ」


 ロナルドがそう言ってお腹をさすった。


「ロナルド、ある程度距離を取れ。力の勝負では勝てんぞ」

「はいはい」


 ロナルドはユキの言葉を聞いて、少し下がる。

 直後、ユキの上空に無数の剣が出現した。


「千剣」


 無数の剣が発射されると同時にロナルドが突っ込んでくる。


「フレイムアロー!」


 シャルも迎撃用の魔法を放った。

 そして、ロナルドが踏み込み、槍を突きだしてきたのでそれを躱す。


 今度は逆にこちらが踏み込もうとしたが、それよりも速くロナルドが槍を引き、連続して突いてきた。


「速いな、おい……」


 槍をなんとか躱している間にも複数の白い剣が向かってくる。

 すると、矢みたいな炎が白い剣を落としていった。

 しかし、1本の剣は巧みに炎の矢を躱し、こちらに向かってくる。


「っ!」


 斜め前方から来た剣をバックステップで躱した。

 だが、剣は方向を変え、追跡するようにこちらに向かってくる。


「うぜー!」


 飛んでくる剣を飛び上がって蹴る。

 すると、剣が砕け、霧散した。


「もらった!」


 隙をロナルドが見逃すはずもなく、槍を突いてくる。


「もらってないわい」


 突き出された槍を掌底でずらし、躱した。

 とはいっても、腹部にはちょっと当たってしまったが、致命傷にはならなかったのですぐに着地する。


「ごめん!」


 後ろからシャルの謝罪の声が聞こえたので片手をあげてひらひらさせる。

 正直、最初から全部落とせるとは思っていなかった。

 トウコのように上級魔法を撃てば、全部撃墜できるだろうが、シャルには上級魔法を連続で撃てるほどの魔力がないのだ。

 数発撃って魔力が尽きてしまうのは目に見えており、それだけは避けたい。


「よくあの状況で躱せたな」

「当たったわ」

「そうか……」


 ロナルドがバックステップで距離を取る。


「どうしたー?」

「お前は随分と余裕だな? 本気を出してないように見える」

「そうでもないぞ」

「ふっ……俺の槍は空中で弾かれるほど弱くない」


 クロエが言うようにこいつは本当に冷静だし、ちゃんと見えている。


「本気って言うのは何も最初から全力を出すことじゃないぞ。突撃バカ2人とは違うんだ」


 突っ込んでカウンターをもらうのは猪のすることだ。


「様子見か……舐められたものだ」

「だから違うってのに……まあいいや。お前の力はよくわかった」


 うん、強い。

 攻守のバランスも抜群だし、フェイントには引っかからないだろう。

 そして何より、ユキの千剣との連携が素晴らしい。


「ほう? それで?」

「一撃で潰してやるよ」


 そう言って全身に魔力を巡らせていく。


「来るかっ!」


 ロナルドが重心を落とすと同時に背後のユキの上空に無数の白い剣が現れる。


「千剣っ!」


 ユキが白い剣を発射させ、それと同時にロナルドが突っ込んできた。


「フレイムアロー!」


 当然、シャルも火魔法で迎撃する。


 上空ではユキの白い剣とシャルの炎の矢がぶつかり始め、こっちではロナルドが槍を突きだしてきた。

 それを躱すと、ロナルドが身を翻し、槍の柄で払ってくる。

 今度はしゃがんでそれを躱したのだが、ロナルドがバックステップで距離を取った。


「逃がさん」


 左足に力を込め、しゃがんだ姿勢から飛び出す。

 すると、斜め左からシャルが打ち漏らした白い剣が飛んできていた。

 そして、正面ではロナルドが槍を構え、狙っている。


「今度こそもらった!」


 斜め左の白い剣に少し遅れるようにロナルドが槍を突きだした。

 これは白い剣を俺がどうにかしてもロナルドの槍で追撃するためだ。


 この状況では躱せない。

 後ろに下がっても白い剣はさっきのように追撃してくるし、リーチのあるロナルドの槍を躱すこともできないだろう。

 だからこそ、止まってはいけないのだ。

 それこそ、猪のように。


「だからもらってないわい!」


 俺はそこからスピードを上げ、突っ込む。


「な!? 速っ――」


 そのまま突っ込みながら槍を躱したが、肩を槍が掠めた。

 それでも気にせずに突っ込み、ロナルドの懐に入る前に飛び上がる。

 すると、俺を追っていた白い剣がロナルドに向かって飛んでいった。


「くっ!」

「ロナルドッ!」


 ロナルドは槍を上げて白い剣を弾いた。

 上を向いたロナルドと一瞬だけ目が合う。

 だが、ロナルドはもう俺の顔は見えないだろう。

 何故なら、もうロナルドの目には俺のひざしか見えていないだろうからだ。


「ぐっ!」


 着地すると同時に俺の膝を顔面に食らったロナルドは1歩、2歩と後ずさったが、倒れることはしない。

 それどころか槍を構え、戦闘態勢に入ろうとしていた。

 だが、顔をやられたせいでこちらを正確に把握していないことは丸わかりだ。


「寝てろ」


 怯んでいるロナルドの懐に飛び込み、掌底であごをかち上げた。

 ロナルドの顔は空を向き、槍を落とす。

 そして、両膝をつき、前のめりで倒れると、消えた。


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