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バカと呪いと魔法学園 ~魔法を知らない最優の劣等生~   作者: 出雲大吉
第1章

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第011話 むずい……


 俺が笑いを堪えていると、教室の扉が開き、眼鏡をかけた女性が入ってくる。

 女性は茶色の髪をしており、黒いローブを纏っていた。

 さすがに俺達よりかは上だが、まだ若く見える。

 そんな女性は教壇までやってくると、俺達の方を向いた。


「皆さん、おはようございます。初めての方もいらっしゃるようなので自己紹介をします。私はこのクラスの担任であるジェニーです」


 どうやら担任の先生らしい。


「おはようございまーす」


 さすがに挨拶をした。


「はい、元気でよろしいですね。皆さん、今日からこのクラスに入った長瀬ツカサ君です」


 先生がそう言うと、全員が振り向き、俺を見てくる。


「どうもー」


 挨拶をしたのに反応がない……

 皆、何かを見定める目をしている。


「拍手とかないの?」


 そう聞くと、トウコ以外の皆がパチパチと拍手をしてくれた。

 なお、トウコはめちゃくちゃ睨んでいる。


「僕、拍手を要求してきた新入生を初めて見たよ」

「俺も」


 いや、普通は自発的に拍手するだろ。

 こいつら、大丈夫か? 常識ないんか?

 新たなるクラスメイトを迎え入れようとは思わんのか?


「はい、よろしくお願いします。では、授業を始めます」


 先生が締めると、何事もなく授業が始まった。

 俺はノートは後でコピーしようと思い、先生の基礎学の授業を真面目に聞く。

 ノートを取らないのは字が汚くて読めないのとあまり複数のことを同時にするのは得意ではないからである。

 ノートを取ることに集中してしまい、話をまったく聞いていなかったというのよくあることなのだ。


「えー、魔法というのは昔はイメージで作られると言われていましたが、近年の研究により、一定の法則すなわち、術式と呼ばれる数式により、設計されるということがわかりました。これは皆さんもご存じでしょうね」


 ううん。


「これにより、魔法は数多くの属性に分かれることがわかり、魔法の種類も各段に増えました。火、水、風、土、雷……この5種類は皆さんも馴染みがあると思いますが、現在では100をも超える魔法の属性があり、現在も日々、増加しています」


 うん……

 どうしよう?

 何を言っているのかまったくわかんねー……


 その後も先生の授業は続くが、ほぼ何を言っているかわからなかった。


「では、20分の休憩後、演習場で実技をします。遅れないように」


 授業が始まって2時間後、先生はそう言うと、教室から出ていってしまった。

 すると、トウコをはじめとする数人の生徒達も教室を出ていく。


「ふぅ……」


 なんとなく一つ息を吐いた。


「初めての授業はどうだったかい?」


 セドリックが聞いてくる。


「むずい」

「そうかい? 多分、新入生の君のために基礎中の基礎をやってたと思うけど」


 先生、ありがと。

 でも、不出来でごめんなさい。


「何を言ってるかさっぱりわからん」

「お前、マジか……よく入学試験に受かったな。あの辺は入学試験に出る問題だぞ」


 裏口入学だから……


「勉強苦手……」

「まあ、誰にでも得意不得意はあると思うが……」

「実技は大丈夫だろ。魔力も高そうだし」


 いやー……微妙。


「実技って何をするんだ?」

「魔力のコントロールとかそういうの」

「実際に魔法を使ったりするね」


 あかん。

 一番苦手だ。


「相手をぶっ飛ばせば勝ちとかある?」


 それならワンチャン。


「なんで基礎学の授業で戦うんだよ」

「実技ってそういうのじゃないぞ」


 ダメかー……


「ねえ、そいつ、大丈夫? 言ってることがユイカと同じなんだけど……」


 前の方から呆れた感じでイルメラがやってくる。

 もちろん、ノエルも一緒だ。


「そのユイカは授業を聞いて、どうしてた?」


 参考までに聞いてみよう。


「だから寝てる」


 ダメじゃん。


「そうか……気は合いそうだな」

「ダメだこりゃ……」


 イルメラがさらに呆れた。


「一応、ユイカさんは寮で復習もしてますよ」


 優しそうなノエルが困ったような顔でフォローする。


「あんたに泣きついてきたしね」

「まあ……」


 俺も泣きつきてー……

 親愛なる氷姫に泣きつくか?


「ちなみに聞くんだけど、お前らは今日の授業わかったん?」

「そりゃそうでしょ」

「まあ……」


 この学校、俺とユイカとやら以外優等生しかおらんのか?

 このままだと日本人がバカと思われるぞ。


「そうか……場違い感がヤバいな……先に言っておくが、俺、魔法を使えんぞ」

「…………なんでこの学園に来たの?」


 呪いを解くため……とは言えんな。


「イルメラ、言って良いことと悪いことがあるぞ」

「そうだよ。バカが可哀想だ」


 フランクとセドリックがイルメラを注意した。

 セドリックはちょっと違うけど……


「ごめん……」


 イルメラがばつの悪そうな顔で謝ってくる。


「いいんだ……普通の高校の受験に失敗して中卒ニートになった親不孝の俺が悪いんだから」


 ちゃんと名前は書いたのに……


「いや、マジもんのバカかい……滑り止めとか受けなかったの?」

「その滑り止めを落ちたんだが?」

「そう……頑張んなさい。別に何年かかっても良いと思うわよ。まともに3年で卒業する人なんてそんなにいないし」


 時間をかけると、左腕がなくなっちゃうんだなー、これが。


「あの、そろそろ演習場に行きませんか? もう皆、行っちゃいましたよ?」


 ノエルが言うようにこの教室に残っているのは俺達だけだった。


「あ、それもそうね。行きましょう」


 俺達は教室を出ると、校舎を出て、演習場に向かう。

 俺達は5人で歩いているんだが、ふと気になることがあった。


「お前ら、カバンとか持ってないのか?」


 皆、手ぶらだ。


「空間魔法があるんでしょ……って、魔法が使えないんだっけ? そんなに難しい魔法じゃないからさっさと覚えた方が良いわよ」


 そういや昨日、シャルも使ってたな。


「どうやんの?」

「どうって……えーっと、こう」


 イルメラがそう言って、何もないところからノートを取り出した。


「お前は将来、教師にだけはならないことをお勧めするわ」

「そこは同感だな……ツカサ、後で教えてやるよ」


 フランクが教えてくれるらしい。


「頼む」


 イルメラはダメだ。


「私、教師に向いてない? 別になる気はないんだけどさ」


 イルメラがノエルに聞く。


「多分……相手の能力に合わせて丁寧に説明する必要があると思います」


 悪気はなさそうだが、微妙にバカにされている気になるな。

 まあ、事実なんだけど……


「なるほど……だからユイカも一度勉強を見てあげてからは私のところには来ず、ノエルのところに行くのか……」


 俺もユイカとやらだったらノエルのところに行くわ。


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