コード“竜”9
掃除を終えて晩御飯をどうしようかと話題を一旦変えて財布を確認していると玄関のチャイムが鳴り響く。
「ヤベェ黒鴉か?もう見つかったか…?」
「あぅ…ワタシ隠れてますね」
神姫は部屋の奥に隠れ翔は黒姫は顔を見合わせて玄関にゆっくり近づく。
覗き窓を使わずにそのままゆっくりと扉に手を掛ける。
「どちら様でしょうか?」
声を出しながら開けると白髪の自分そっくりな男が立っていた。
「…はい?」
状況に混乱して翔は声が出てしまい思考が停止する。
「よぉ、俺、久しぶりだな。神姫いるだろ?」
その声を聞いて神姫がひょっこり顔を出して答える。
「はい」
「迎えに来たが…まぁついでだ。話して行こうか、入るぞ」
困惑する翔だったが横に退いてもう一人の自分を受け入れる。
その後キョロキョロと外の様子を確認して玄関を閉じる。
「さてと、何から話そうか?」
「…なんでこっちに居るんだよ!どうやって…」
翔の疑問に懐から箱を取り出して見せてくる。
「神姫と同じさ、ボランティアとしてな」
「ええ、ワタシと一緒に…」
黒姫は首を傾げる。
「ずっと隠れてたのですか!?」
「まぁな…」
「どこに?」
黒姫の追及にもう一人の翔は苦笑いして答える。
「俺ん家」
翔と黒姫の二人は口をあんぐりと開いて呆気に取られる。
「神鳴も玉藻前も知ってたのか…」
「黙ってて貰ってた、まぁ親を守ってたからな、感謝して欲しい」
得意気に感謝しろと言うもう一人の翔に黒姫は頭を抱える。
「…もしかして神姫は隠れている所知ってました?連絡も?」
神姫が返答に困っていると代わりにもう一人の翔が答える。
「知ってるし連絡もあった…箱同士でも通信できるんだ。後は分かるな?」
「内通者はお前か!」
翔が叫ぶと神姫がアワアワとして庇う。
「ワタシ達にも目的があって…」
「…目的ですか?」
翔も黒姫も返答を待って動きが止まる。
「俺は三つ目の道を提示するつもりだ」
「三つ目の…道?」
「そう、神にも科学者共にも運命を握られない世界」
突飛な話に翔は実現方法を確認する。
「どうやって…いや、神にもって?」
「どっちの頭も取る」
「竜司さんも?」
名前を出すと黒姫は不安そうに二人の翔を交互に見る。
「ああ、世界をこの世界の人の手に戻す」
グッと拳を握り自信を露にする。
「神姫もそれに乗るのか?」
「はい…殺すのはどうかと思いますが」
穏やかではない言葉に笑うもう一人の翔。
「昔は神も異世界も…そんなもの無かったはずだ、忘れたとは言うまい?」
「…世界再編でそんな事考えなくなったよ」
「だろうな…まぁ理解しろとは言わないさ」
話を終えると立ち上がり神姫と二人は翔の制止を聞かずに家を出ていってしまう。
「ど、どうしましょう…三つ巴です」
「あっちもこっちも…話合いは無理か」
「元々無理そうですからねぇ」
二人は会話しながら二人が出ていった玄関を見つめていた。
「…神鳴知ってるんだよな?」
「ですかね…なんだかまた再編の戦いが始まるのでしょうか」
「もうできないはずだろう…?」
黒姫は頷きため息をつく。
しばらくそんな様子でボーッとしていると半開きのドアをガンッと開き黒鴉が息を切らして現れる。
「浜松ぅ!見つけたわよ!」
土足で入ってこようとした所を黒姫が怒る。
「靴脱いで!掃除したばかりなんです!」
「………分かったわよ」
不服そうに靴脱いで足音を立て一歩踏み出す。
「ここ二階です!静かに!」
「…わ、わかって…」
「分かってないです」
妹の剣幕にたじろぐ黒鴉、ソロリと足元に気を付けながら入って翔に近付いて部屋を見渡す。
「神姫は?」
「あー…いない」
事実を伝えられないよなと黒姫に目配せする。
「…っち、結局裏切り者か確認できないじゃない」
「まぁ話を聞いたが別にいるのは確認できたぞ」
黒鴉は目を見開いて翔を見て威圧するようなオーラを放つ。
「ほうほう、聞こうじゃない」
翔はもう一人の自分の事実を濁しながら説明すると黒鴉は大きなため息をつく。
「つまり第三勢力として…って結局裏切り者じゃない!」
「…あ、そっか、そうなるのか」
「そっかー、じゃない!…で?どこ行ったの」
流石に知らないと翔も黒姫も首を横に振る。
「…ほんとぉ?まぁいいわ、お母様が心配するから二人とも戻ってきなさい」
「母さんが…分かりました。翔君一旦戻りましょう」
黒姫の言葉に掃除したのにと考えながらも同意して二人は今一度研究所に戻ることにするのだった。




