コード“竜”1
その日、殲滅作戦の実行に誰もがピリピリしていた。
翔も近場の変異体の処理のバックアップとして前線にカスパーと共に出ていた。
移動する車内で二人は話をする。
「なんで戦闘能力ない俺なんだ…」
射撃も格闘も、それどころか戦闘経験すらないカスパーは気落ちしながら翔に訴えるように呟く。
「モニタリングに参加すればいいんじゃないか?面倒事は俺がやるさ」
「Kは怖くないのか?」
「怖い…か、正直言えば怖いよ、でもさ?誰かがやらなきゃ誰かが死ぬんだ…それが赤の他人だろうが知人だろうが」
翔の意見を聞いてカスパーほ目を丸くする。
「達観してるな、俺には無理だ…」
身を挺して神華を庇った時の光景を思い出してカスパーは体を震わせる。
「適材適所、今回は諦めて後ろから指示してくれ」
「ああ、そうさせて貰うよ」
苦笑いするカスパーは続けて質問してくる。
「Kはあの日…えっとこっちに俺が来た日のことどう思ってる?」
「どう…とは?」
質問の意図を考えながら聞き返す。
「情報漏らしてるヤツがいるかどうか」
「発想が飛躍してるなー、俺はどうとも、小馬鹿にし過ぎてキレただけだろ?露骨過ぎるんだよ」
翔は呆れ気味に答えるとカスパーは何故か謝ってくる。
「下手くそだったか…いや、反省点はいくらでもあったが…」
「まぁ嘘つきがいるのは分かっているけど…証拠無きゃ俺は疑わないさ」
嘘つきと聞いてカスパーは翔を睨むように見て尋ねる。
「真っ黒以外は白と言うのか君は…?」
「疑心暗鬼になっても仕方ないだろ」
「分かった、これ以上聞くのはよそう」
ユラユラと揺れながら目的地に到着し翔は他の作戦地にいる黒鴉と連絡を取る。
「もしもし、到着したぞ」
『オーケー、何が出るかわからないからね覚悟しなさい』
「デカい鳥だったり知能ある人形だったり…突飛だからな…筋肉ムキムキのゴリラでも出そうだ」
翔は話を茶化しながら市街地に広がる霧の様子を窺う。
「元凶は中央で間違いないよな?」
『建物や街路樹が邪魔ね…絨毯爆撃しようかしら』
黒鴉が言うと冗談に聞こえない話に翔は焦り注意する。
『はいはい、冗談よ、気張りなさいよ』
通話が切れて翔はため息をついて霧から離れる。
カスパーは霧を遠目から眺めて青ざめる。
「この中にゾンビやら何やらがいるんだろう?」
「だろうな、そっちの処理は自衛隊がするさ」
「守護者的なボスが出たらKの出番か…俺必要だった?」
カスパーは身震いして自身の存在意義を疑う。
「まぁレポート作るのに必要なんだろう」
「君が作ってくれよ…苦手なんだよ、ホラーなの」
「俺もホラーなら幽霊は苦手だよ、ま、ゾンビは倒せるからマシだ」
二人は笑いあって再び霧を睨むように見つめる。
別の場所で戦いに備えていた黒鴉は付き添いに神姫を連れていた。
「正直心細いわー」
「ワタシもいますよ?」
黒鴉がチラッと神姫を見て深くため息をする。
「はぁー、だから不安なのよ」
「うぅ、酷いです…」
「どっちでもいいけど、アンタって扱いどっちがいいの?妹?神?」
黒鴉の質問に神姫は答えづらそうに苦笑いで誤魔化す。
「そういえばこの組み合わせ誰が決めたんですか?」
「神威よ、どうせ適当でしょ」
名前を聞いて神姫が納得したように「あー」と鳴く。
黒鴉は時計を確認して神姫の準備を確認する。
「燃料はどのくらい?全力いけそう?」
手をグーパーして気合いを入れて答える。
「え?はい!大丈夫です!…回復に回りましょうか?」
「何ぃ!回復!?芸が細かいわね…羨ましいわ」
黒鴉の羨望の眼差しに少し自慢げに胸を張る神姫、すぐに小声で付け加える。
「魔力のタンクとしての回復です…あはは、怪我は治せません」
「…それはそれでいいわね、全身全霊!全力全開!で行けるわね」
黒鴉は気合いを込めてストレッチを始めてニコニコする。
「お父様もさっさと帰って来れるように日常を取り戻すわよー」




