コード“螺”15
機材の運び出しも粗方片付いてドローンでの空撮のみを続けていた。
「鳥が厄介なだけで平和だねぇ、そろそろドカンとやっちゃおうよ」
ツムギがモニタを指差して黒鴉に伝え時計を確認する。
「そろそろね、爆撃範囲から離れて撮影してよね」
「わかってまーす」
遠くから戦闘機の飛来する音が聞こえてきて緊張が走る。
瞬間、ミサイルの発射音と着弾による爆音が広がっていく。
外で戦闘していたアキトはそれを聞いてため息をつく。
「やっとか、終わりだ終わり…あ、遺体の回収は…無理だよなぁ」
相手を倒す気もなくなり敵から距離を取り構えを崩して首と肩を回してリラックスする。
「終わり?どうして?」
人形は首を傾げて何が起きたのか理解していないようだった。
「…流石に壊れたろ?お前が守るべき箱……まさか!?」
アキトはちょっとたんまと急ぎ本部に向かう。
「おい!壊れたよな!?」
血相を変えてやって来たアキトに黒鴉はモニタを指差して答える。
「壊れたわよ、間違いなくね」
爆散して壊れた箱を見てアキトがホッとすると黒鴉は続ける。
「そっちは終わったのかしら?」
「え?…あー」
トドメを差さずに来た事を思い出し振り返ろうとすると人形が姿を表してモニタを見つめる。
「ちょっと倒してないじゃない!」
「?」
翔達はすぐに臨戦態勢になるがアキトが止めようとする。
「待て待て、大義名分無くなった今対話できる相手を殺す理由があるか?」
「情が沸いたのかしら?おとうさん?」
アキトは痛いところを突かれたのかぐうの音が出そうになる。
「馬鹿野郎!サンプルとして回収をだな」
「はいはい、どっちにしてもその子やる気よ?」
拳を構えて人形は呟く。
「勝つまでやる」
一触即発の状況にアキトが叫ぶ。
「負け!俺達の負けだから!終わり!」
「ボクの勝ち?」
「そう!終わり!やめやめ」
純粋に拳を掲げて勝ったと喜ぶ人形を見て黒鴉が呆れながら感心する。
「あー、いいわね、私もお父様にああやって無理な条件飲ませようかしら」
「姉さん!?」
父親の気苦労を知り男性は苦笑いするしかなかった。
作戦が終わり暫くして黒鴉は後処理の話をする。
「今日中に状況整理と残党の処理、明日までには一斉に破壊作戦を実行、軍備についてはそっち任せでいいわよね三佐」
「レポートさえ頂ければすぐにでも」
承諾の言葉に頷いて翔達を見て黒鴉がデータを渡す。
「じゃあ浜松達はデータ持ち帰ってレポート作成よろしく」
「黒鴉は?」
「残党処理、何?アンタもやる?」
翔はチラッと黒姫を振り返ってから苦笑いして遠慮する。
「あっそ、じゃあさっさとあの不気味な子と馬鹿を連れ帰って頂戴」
黒鴉は駄々をこねる人形とアワアワするアキトを指差してため息をつく。
「お父さん、名前ー、約束」
「帰ったら決めてもらおうな?もうちょっと我慢してくれ」
馬鹿力で暴れられたら困ると必死にあやすアキトを見て黒姫も笑ってしまう。
「すっかりお父さんやってますね」
「アレがもう一人の自分だと思うと俺もいつかああなるのかと不安になる」
装甲車の準備が整い翔達は乗り込み研究所に帰っていく。
夕刻、研究所に着いてアキトは集めたサンプルを半分残して人形を連れて異世界に帰っていく。
「んじゃあ俺は帰るから、まあ、暫くこっちには来れないな…いでで」
別れ方も人形に振り回され続けて全員から笑われていた。
異世界に戻り先に帰っていた神楽がアキトを父呼びする人形を見て自己紹介する。
「私は神楽、私がママよ!」
「違う、お母さんじゃない」
キッパリ言われて真っ白になる神楽、アキトは説明しようとするとシュメイラがやって来る。
「ひひ、お帰りアキト君、早速サンプルをだね…」
「お母さん!」
シュメイラを指差して人形は笑顔になる。
「…えーっと?どういう事かな?」
アキトら誤解を解くのに必死に状況の説明する。
「成る程ぉ、私がアキト君の為に作った人形達の一つがねぇ…しっかり覚えているものなんだねぇ」
「納得いくかぁ!私の…私の立場は!?」
神楽が泣きわめくがシュメイラは人形をナデナデして嬉しそうに引き笑いする。
「名前!」
「ああ、そうだ、名前付けてやらないと」
アキトは自分のセンスは悪いからと二人にお願いするがシュメイラも困ってしまう。
「ふひひ、名前かぁ…」
神楽が割って入り叫ぶ。
「私が決めてもいいでしょ!?仲間外れは無しよ!小夜!決まり決定」
強引に神楽は名付け親になろうとする。
「いいんじゃないか?俺が考えるよりマシだ」
「そうだね、よろしく小夜」
シュメイラが呼ぶと小夜は嬉しそうに拳を振り回して壁をつい破壊してしまう。
「ふひ!?」
「情操教育と力の加減を教えないとね…」
「そうだな…」




