コード“螺”9
作戦決行の時間となり無線用のインカムを渡され翔達は装着し指揮官から軽い説明を受ける。
「今回の作戦の成否は今後の戦局に大きく左右する、敵の数は少ないと予測されるが油断しないように!また何かあればこちらで指示しすぐに作戦を中止して撤退出来るように!」
自衛隊達はサッと敬礼して持ち場に移動を始める。
黒鴉が残った面々に追加の指示をする。
「私達は中央にあると思われる敵の本体を叩く、正直何があるか分からないわ、無闇に特攻しないで頂戴」
アキトがサッと手を上げると面倒臭そうに黒鴉が質問を許可する。
「何?質問?早くして」
「敵はゾンビだけとは限らない、地面、頭上、背後…警戒怠るなよ?」
「…ム、あーハイハイ、講釈ありがとう。聞いたわね?」
黒鴉は聞き流したがアキトは困り顔でタメ息をつく。
「結構真面目な話なんだがな…ドローンも樹上ギリギリ飛ばずに余裕もって上空から行ってくれ」
アキトは空撮チームにお願いをして黒姫が不安そうに聞き返す。
「何かあるんですか?」
「忘れたのか?アレは人だけを変異させる訳じゃない、ましてや山林だ…木や鳥、それに虫や獣が変異してても何らおかしくない」
「あ…そうですね、あれ?それって市街地より危険では…?」
黒姫の言葉にその場の全員が凍り付く。
「当たり前だ、ピクニック気分はやめろ…こっからは死地だぞ」
「あー、アキトさん?皆ビビってますけど…う、すみません」
翔が和ませようと茶化そうとするがアキトに睨まれ謝る。
「初回の任務だより慎重になれ」
全員がビシッと姿勢を正し返事をする中で黒鴉が顔をそらして文句を言う。
「私よりリーダーしちゃって…ぐぬぬ」
「まぁまぁ、落ち着けって」
翔と黒鴉の二人は他の面々を置いて取っ組み合いを始めそうになる。
「それ煽ってる?アイツもアンタでしょうが!」
「だーっ、もう!アキトさんの代わりに謝るから!取り敢えず醜態を晒すなって」
嫉妬し怒る黒鴉を翔が必死に宥めてその場を収めて出撃する。
霧の手前の定位置で予定時刻を待つ翔達の耳にヘリコプターの飛行音が聞こえてきて時間を合わせてヨウ化銀を空中からばら蒔いて霧が晴れていく。
「浜松!ストップウォッチ」
「あいよ!」
黒鴉の指示で携帯のストップウォッチを起動する。
「霧が晴れている間に事を済ませるわよ!」
「足元に気を付けろ、藪から何が出るか分からんぞ」
アキトが刀で道を切り開きながら伝えると黒鴉は気の抜けた二つ返事でバハムートを呼び出して直進するルートを圧倒的な水流で切り開き得意気な顔をする。
「…ド派手ぇ」
翔もアキトも呆気に取られ環境破壊の様を眺めていた。
黒姫から通信が入り中央の様子が伝えられる。
『聞こえますか?中央の様子が分かりました。大きな黒い箱のようなものが…あ!』
翔達の向かう正面から何か大きな物が羽ばたく音がして銃撃音が響き始める。
『先発のドローン何機かやられちゃったねぇ…思ったよりヤバそうだよぉ!』
ツムギの緊張した声に黒鴉は余裕な様子で伝える。
「高々魔物と似た雑魚よ!」
先行する黒鴉を追うように走りながら翔は周囲を確認して焰鬼と雷怨を呼び出す。
「おいおい山火事は勘弁しろよ!?」
アキトが黒鴉に続いて本気を出すのかと不安そうに言う。
「無鉄砲なお嬢様のサポートだよ」
雷怨を黒鴉に向かわせて翔はアキトにぼこぼこになった地面を指差す。
「木が変異させられたと思う、奇襲に注意」
インカムで他のメンバーに伝え応答を確認するが返事がなく嫌な予感がする。
「他人よりまずは自分だ!居るぞ!」
アキトの言葉にハッとして咄嗟にジャンプして波打つ木の根を避ける。
「お出でなすった!焰鬼!燃やせ!」
鬼の拳が変異した木を大きく凹ませ火をつけ動かなくなるまで拳を連打する。
倒したのを確認し翔は道の先を見ていない黒鴉についてアキトに尋ねる。
「突っ走ってった、雷怨に股がってな…」
「はぁ!?不用意に解除できない…早く追わないと!」
しかし翔達の前に体が歪に変化した熊や肥大化した野犬が立ち塞がる。
「思った以上に多種多様だな?!…一匹足りとも逃がすなよ?殲滅するぞ!」
「急いでるってのに!」
刀を引き抜いて構え精霊の力を解放して挑むのだった。




