コード“螺”6
朝、夜遅くまで神鳴達の話し相手をさせられ寝不足になった翔が欠伸をしながら作戦室に入る。
「おはようございます」
「ああ、おはよう…ふぁー」
翔が軽く挨拶するとリーダー役の神威も神楽も同じ寝不足な様子だった。
「下手に霧に近付けないのは困りモノだな…」
「でも調査するのは生身じゃ危険よ」
「ドローンもあの霧では役に立つか…」
二人の話は平行線で神藤姉妹が呆れ気味で翔に笑いかける。
「全く、霧に紛れて怪物化させる何かがあるなんて…アンタの友達助けに行ったのは危険で…何事も無かったのは運が良かったわね」
黒鴉がタメ息をつく。
「怒ってるか?」
「当たり前でしょ、覚えてないという言い訳も無しよ?」
翔の胸元をつついて鼻を鳴らす。
黒姫がフォローを入れる。
「結構前だから…覚えている方が難しいですよ」
「はぁ…ゾンビゾンビで神螺の神の字すら出てなかったし…まぁいいわ」
それよりと黒鴉が神威と神楽を怒鳴る。
「いい加減に何とか作戦を出しなさいよ!霧から出てくるゾンビを倒すだけで話進まないでしょ!」
「うーむ…神楽、何かないか?」
神威の眠気で思考放棄した質問に神楽も案なしで首を捻る。
「浜松、この無能達の代わりに何か案を出しなさいよ」
「なんで俺に振るんだよ!」
一応何か考える翔に全員の視線が集まり頭を抱える。
「ドローン飛ばせないの?空撮とかは?」
翔が神威に尋ねると幾つかの写真を見せる。
「一応早朝の日の出に合わせて撮ってもらった」
ドーム状に広がる霧を見て全員が同じ事を思う。
「これ中心点に何かあるだろ…」
当然の帰結に神威が欠伸をして「そうかも」と答える。
「浜松、コイツらマジで頭回ってないわ…ちょっと寝てきなさい!」
神威も神楽もまた大きな欠伸をしてとぼとぼと去っていき代わりにアキトが現れる。
「ん?作戦会議は終わりか?」
「役立たずの馬鹿二人には寝てもらったわ」
「…あー、それは参ったな」
歩きながらプロジェクターから映された先程の写真を見て唸る。
「成る程ね、ガスの隠蔽と視界の遮断か…確か霧を晴らす方法あるだろ?」
「まだ人が残ってるのに滅茶苦茶できる訳ないでしょ?!」
黒鴉が声をあげるとアキトは困り顔になる。
「霧なら氷結させるかまた水蒸気に戻すか…あとは雨にして落とせばいいだろ」
「だーかーら!そんなのを広範囲でやったら危ないって言ってるのよ!」
「人が居なければいい訳だな?」
言質を取ったような言いぶりに黒鴉が身構える。
「そうだけど…どうやって?」
全員の視線が今度はアキトに集まる。
「…先に聞くがどうやって残っている生存者を確認するつもりだ?」
「質問に質問で…!…確かに確認方法は無いけど…」
アキトは一枚の折り畳まれた紙を取り出して黒鴉に渡す。
「霧を晴らすのに使える道具についてだ、ヨウ化銀、人体には少量なら大丈夫だが範囲によるな…事前に屋内への退避を遠くから呼び掛けて一気に晴らす」
紙を確認して黒鴉が今度は困り顔になるが他に策は無さそうだと黒姫が後押しする。
「実行しないで時間が経つよりマシですよ!」
「わかった、準備を進めるわ…環境被害とかも考えないといけないのに…」
ぶつぶつと文句を言いながらもアキトの案を受けて黒鴉は神威の席から固定の内線を使い指示を始める。
アキトは翔に近付いて呆れた様子で質問する。
「霧の時点で晴らし方くらいさっさと調べとけ、こういう場合の人命被害なんて一日足らずで絶望的だぞ」
翔は正論を受けて黙ってしまう。
「やれやれ、身内の心配するのも大事だが問題の解決の為には一歩引いて冷静になることも大事だぞ」
「わ、わかってる…つもりだ」
アキトは縮こまった翔の肩をポンポンと叩いて作戦室から出ていってしまった。




