コード“螺”5
翌朝まで待機と言われ自室で何かやれることはないかとパソコンを操作する翔だったが混乱でどこも役立つ情報が見つからず頭を掻いて何も出来ない自分に苛々する。
(どういう基準で発生して変異するのか…まだ対策がない訳じゃないはず)
混迷を極めるSNSや掲示板で何人かの意見に注目する。
(やはり霧…これに何らかの仕掛けがあるはず)
ゾンビだけでなく魔物的なものも湧いているという話もあった。
(魔物か…多分変異した生物や物体だろうな、そういえばアキトさんは魔族を何体も相手して何か知ってるか?)
翔は連絡を取るつもりで携帯を取り出すと部屋に扉をノックする音が響く。
返事をして扉を開くと黒姫が立っていて話がある様子でもじもじする。
「あー、立ち話もあれだし入るか?」
「し、失礼します」
竜司からの忠告を思い出して苦笑いしながら翔は椅子の背もたれに腕を乗せ、黒姫をベッドに座らせる。
「どうかしたのか?」
「あ、はい。敵の件で思い出した事がありまして」
重要そうな話に翔は真剣な表情になる。
「詳しく頼む」
「えっと、怪物化させる能力って煙だったの覚えてます?」
翔は必死に過去を振り返り森での一戦を思い出してうろ覚えで頷く。
「確かそうだった…はず、木の化物だった」
「霧に偽装して広めていると思ったのですが」
「成る程、完全に忘れていた…無策で霧に踏み込むのは危険すぎるな」
黒姫の説を聞いて自分も危なかったと悟った翔はその話について確認する。
「…それ俺以外に伝えてるか?結構大事だぞ」
「確信がなくて…でも意見が一致しましたし、伝えてきます」
黒姫は立ち上がりバタバタと部屋を出ていく。
慌ただしい様子に翔は間に合ってくれと祈りながらまたパソコンに向かって情報を適当に拡散しようとするが掲示板に書き込もうとするとまたノックの音が転がり込む。
(…次は誰だ?)
書き込みを行いパソコンを閉じてから扉を開けるとジト目の黒鴉が立っていた。
「黒鴉…何の用だ?」
「周防と連絡が…じゃなくて!黒姫が部屋から出てくるのが見えたから」
相方の心配をしつつ誤魔化しているのを見て翔は自然と笑みがこぼれる。
「何よ!?」
「な、なんでもない、ほら携帯貸すから」
翔は友人達の連絡先をまとめた画面を開いて黒鴉に渡すとぶつぶつと何か呟きながら受け取って使い始める。
「…廊下でやらせる気?」
翔を押し退けて部屋に入ってくるのを見て慌てて翔は黒鴉を呼び止めようとするが当の本人は通話を始めてシッと指を口に当てる。
仕方なく扉を閉めて通話が終わるのを待つ。
「うん、良かった…そっちは大丈夫そうね、でも避難はちゃんとしなさいよ?」
既に大体の話が終わったようで黒鴉は安心した様子でニコニコしていたがすぐに表情が変わる。
「はぁ!?違うわよ!仕事用の携帯事務所に置きっぱなしで仕方なく借りたのよ!」
どうやら翔の携帯を使ったことを笑われているようだった。
通話を切った後も苛々した様子で翔に携帯を投げ返してじっとりと睨まれた後に部屋をずかずかと出ていく。
携帯を確認して河内と八坂にも連絡すべきかと思案していると今度は神鳴と玉藻前がノック無しに入ってくる。
「…俺の部屋を皆自由に出入りしやがってプライバシーとか無いのか!」
「呼んだの翔達でしょ!」
(でも呼んだのは神楽先生とアキトさんなんだが…)
神鳴と玉藻前の機嫌が悪化しないように心の中で答えながら仕方なく二人の相手をする。
「父さんと母さんは?」
「来とらんで」
「なんでだよ!?」
状況が状況なだけに不安が増していくが二人の話でまだ実家近所は大丈夫と言われなんとか理解して我慢する翔だった。




