コード“螺”1
夕刻、自宅待機の一般研究員を除いた一部の人員だけで各地のリサーチをしていると神威が伸びをしながらやってくる。
「慌ただしい一日が終わりゆったりしているな…ヨロズ、状況はどんな感じかな?」
「特に何も、被害は最低限らしく明日には日常が戻るんじゃないか?」
「まぁ、そんなものか」
退屈そうに神威が天気予報をしているテレビを見て呟く。
翔は朝気付いた事実を胸に秘めながら一人一人の動きを見ながら竜司のメールを思い出して物思いに耽る。
(聞くべきか否か…なんかの間違いで届いたのかも?…返信しとくんだったな)
タメ息をしていると黒姫が心配して聞いてくる。
「何かありましたか?」
「いや、親父さんから連絡あったのかどうか…ちょっと気になっちゃってさ」
黒姫は何か言いたげに言い淀むと苦笑いする。
「あー、えっと…大丈夫だと思いますよ?誰も言い出さないしきっと連絡あったんですよ」
「…つまりそっちには連絡あったのか」
鎌をかけると図星のような反応をして黒姫の反論前に翔はシッと指に手を当てる。
「あのタヌキ親父め…何考えて…」
翔の愚痴を黒姫が不思議そうに聞いていた。
空の星の輝きも控え目な静かな夜、濃い霧が立ち込めバイト帰りの猪尾が嫌な予感を感じ取っていた。
「なんでサービス業は休み無しなんだよ…」
独り言をぼやいていると目の前にヨロヨロと歩く人影が見えて身構えてしまう。
(おー、こわ…雰囲気出るわ…まるで…)
呻きながら手を前にしている様をゾンビみたいだと内心笑うがすぐに自分でツッコミ武器を身構える。
「んな訳ねぇよな!ヤベェ!」
斧を取り出して一応の警告をする。
「冗談じゃないなら下がりな!警告したぞ!ユピテル!」
バチっと雷撃を軽く放ち怯ませようとするが尚動くのを確認して斧を振りかぶる。
「魔物でありますように!」
祈るように振り首をはねる。
倒れた死体を見て消えない事に恐怖する。
「…魔物じゃねぇ!?モノホンのゾンビ!?」
震えが起きて周りを見渡す。
霧で良く見えないが他にもいる予感がして逃げるように走る。
(なんなんだよ畜生!翔っちに相談するしかねぇ!)
必死にアパートの一室に逃げ帰り、玄関を閉めて鍵をかけてから息を切らせて携帯を手に取り通話する。
『どうしたん?』
「ヤベェって、俺ゾンビに遭遇した!」
『…は?』
猪尾が必死に説明しようと思い付いた単語を喚く。
「霧、呻き声!んでゾンビ!」
『…魔物じゃなくて?』
「首チョンパしたのに消えねえんだよ!…あ、いやちゃんと霧で最後まで確認してないけど…」
翔が震える声で尋ねる。
『お前…それ殺人…』
「ハロウィーンじゃねぇんだぞ!?ゾンビの仮装して手を前に襲い掛かる奴いるか?ハロウィンでもねぇよ!」
『…わかった、そっちに行くから気を付けろよ?』
通話が切れて玄関の覗き窓を確認して何も無いのを視認してからゆっくり部屋に入る。
(あぁ!くそ!…早く来てくれ!ゾンビとかマジなら洒落にならねぇよ!…引っ掻かれてないよな?噛まれてないよな!?)
何事も無いのを確認してカーテンを閉めて隙間から外を覗き暗闇を見て冷や汗を流す。
(見えねぇ…大丈夫だよな…?)
暫く一人震える猪尾だった。




