コード“華”3
黒鴉の帰りを待つ間にカスパーは翔に神華の近況を聞かれる。
「神華…彼女は今どうしている?」
「色々と苦労はしてるが元気にしてる…と思う」
「思う?」
歯切れの悪い言い方にカスパーは首を傾げ、翔は休暇で居ない事を伝える。
「そうか、今は居ないのか」
「最近までずっと動いてたからな、あんたを探して疲れてたし」
「俺を?…そうか」
少し嬉しそうに顔を綻ばせる。
「元気だといいんだが…」
「あんたの顔見たら喜んで疲れも吹っ飛ぶだろうさ」
神威が腕時計を確認してカスパーに尋ねる。
「そろそろ時間だが、黒鴉は戻らないな?どうする?」
「参ったな…会話が聞こえてるなら大丈夫だと思うんだが…」
不意に翔の携帯が鳴り響いて注目を浴びる。
「…出て良いんだよな?」
カスパーが黙った頷き画面を確認する。猪尾の文字に「何だよ」と悪態をつきながら通話に出る。
『おい!返事無かったから心配したぞ!ニュース見ろ!今すぐ!』
切羽詰まった感じの声に急かされて翔は黒姫にそのまま言われたことを伝える。
黒姫が驚きガタッと音を立てて席を立ち全員に音声を聞こえるようにする。
『突然武装した暴徒が街で略奪、破壊行為を行っています!これを御覧の皆さん!戸締まりをして決して外に出ないようお願いします!』
カスパーが顔面蒼白になり叫ぶ。
「馬鹿な!…っクソ!」
神威がスッと立ち上がり全員に指示を出す。
「全員各地の覚醒者の状態を確認!動けるものは動員して武器の破壊を狙うように指示を!」
バタバタと飛び出していく神と博士達、神威は部屋を出る直前に翔にインカムを渡す。
「付けろ、もしもの時の為だ」
カスパーは残された翔と黒姫に平謝りする。
「っく…申し訳ない、約束を違えたようだ」
「…翔君、私は父さんに連絡をします!姉さんを探してください!」
黒姫の言葉に翔は頷きカスパーに励まし部屋を出る。
「俺はカスパー、あんたを信じてる!皆のフォローを頼む!」
カスパーは呆然としつつ携帯片手の黒姫と共に会議室を出て神威達のサポートに向かう。
研究所ラウンジまで来て翔は足を止める。
「黒鴉…?」
黒鴉は剣を手に背中を向けていた。
ゆっくりと翔の方に振り返り正気ではない瞳を向けて不気味に笑みを浮かべる。
「お前…っ!」
神威の言葉を思い出しインカムを着けて報告する。
「神威!黒鴉が!」
『落ち着きたまえ、想定している!時間を稼ぐか箱を壊せ!』
神威の指示に耳を疑い黒鴉から目を逸らしてしまう。その隙に斬り込まれギリギリで避ける。
「時間を?!おわっ!」
神威と会話している余裕は無いと刀を呼び出して研究所の入り口から外へ出る。
追いかけて出てきた黒鴉に何とか呼び掛けてみる。
「しっかりしろ!何してるか分かってんのか!?」
「はま…まつぅ!コロス!」
翔はカスパーの言葉を思い出し殺意を抱かれているのかと少し悲しくなる。
(仕方ない箱を壊す!…どこに!?)
精霊も出さずに出鱈目に殺意で剣を振り回しながら突っ込んで来る黒鴉に困惑しながら注意深く視認する。
(ポケットの膨らみ…右側か!利き手側じゃ回り込めるか…)
「うぁ…こ、ろす!憎い…」
「時間なんか稼いでたら自我壊れちまうんじゃ!?」
呻きながら憎悪を口にされて翔は自分よりも暴走する黒鴉の身を案じる。
「焰鬼!」
翔は手早く精霊を呼び出して息を切らした黒鴉を焰鬼で捕まえ箱をそのまま抜き出させ破壊する。
「止まりやがれ馬鹿!」
黒鴉は頭を抑えて苦痛に絶叫する。
「うああ!ぐ、あああ!」
すぐに剣を持ち直し大きく体を揺らしながら振り回し未だに正気に戻らない瞳で翔を睨み付ける。
あまりの異様な雰囲気に震える声で翔は神威に状況を伝える。
「な、なんかヤバイんだけど!?」
『も、もう少し耐えてくれ!出力が足りない!』
「なんの出力ぅ!?うわぁ!」
タガが外れたのか既に言葉とは言えない声をあげ翔に切りかかる黒鴉、馬鹿力でコンクリートの地面が抉れるのを見て打ち合いは無理だと悟り何とか回避に専念する翔。
(は、早くしてくれ!マジで殺される!)




