コード“華”2
黒鴉は翔に対して一言も喋るなと言いたげに口に指を当てて携帯をゆっくりとテーブルの上に置いてカスパーにもう一度質問する。
「もう一度聞くけど要求を飲まなかった場合、ばら蒔いた武器をアンテナ代わりに操り人形にする…しかも地球全体を掛けて」
「…いや、アーキタイプの世界だけじゃない、既に他の全ての世界に普及させている」
「っ!聞いてなっ…あー、もう!ちょっと退きなさい!遅すぎ!」
翔をゆっくりと席からどかして黒鴉は竜司に通話を試みる。
『あー、黒鴉か?どうしたんだ?』
「いまどこ?ちょっと急用」
『む?アメリカだが…急用?』
黒鴉はカスパーに目配せして名乗らせる。
「アーキタイプか?カスパー・テレンス博士だ」
『何!?久しぶりだなぁ!』
竜司は呑気に振る舞うが最初の驚きの声は全てを察したようだった。
「我々の要求を伝えに…」
『ふむ、すまない…わたしも用事があってだな…あ!わたしは大企業の社長をしていて暫く予定が…』
「ほ、本日中に神総出で出頭願いたいのだが…」
カスパーはマイペースな雰囲気の竜司にのまれて困惑気味になる。
『本日か、時差もあってだなぁ…無理だ』
「む、無理というのは…その…」
『物理的に無理だと言う事だ、行かない意志が無いわけではない』
時間稼ぎをするという宣言だがカスパーも頭を抱える。
「そ、相談させてもらう…失礼する」
『戻ったら食事にでも行こう、向こうより食事は楽しめると思うぞ』
終始竜司のペースで通話が切れてカスパーは愚痴をこぼす。
「なんなんだ…社交的になり過ぎだ」
「まぁ財閥のトップだからね…で、期日の引き延ばしはできるの?首欲しくても今日は無理だってよ?」
黒鴉がふぅと一息つきながら尋ねる。
「…取り敢えず確認する、妙な動きはするなよ?」
「はいはい、分かってますよー」
カスパーは箱を手に取り指示のを待つ。
暫くの沈黙の後カスパーは冷や汗を流しながら答える。
「『曖昧な返事の場合すぐに行動を起こす。その場で意思表示してもらおう』…とのことだ」
「…全員から?いないし連絡手段限られてるのに、これじゃ伝言ゲームじゃない」
黒鴉は文句を言いつつ確認する。
「どこまで妙な真似じゃないの?異世界の連中に連絡するの大変なんだけど」
「俺が監視している中で連絡するなら…通信機器に触って良いのは一人だ」
「めんどくさいわね、まぁいいわ…」
黒鴉は翔を指差す。
「ちょっと携帯貸しなさい、あんた連絡先知ってるでしょ?」
翔は渋々携帯を取り出して神鳴の番号に掛けて黒鴉に渡す。
『朝っぱらから何?遊び?』
「全員集合よ、他の神も呼びなさい、伝言ゲームだけど頼むわ」
『えー、黒鴉!?なんで?…めんど』
カスパーは自分の知ってる神鳴の雰囲気の違う声に驚いていた。
「いいから研究所の場所知ってるでしょ?」
『わかった、姉さんと行くわ』
通話の向こうで神鳴は玉藻前と会話をして嫌がる声が聞こえてくる。
『えー!ウチが神斎んとこ行くんか!?』
『集合、こういう時は大体面倒事なんだから行かないと大変よ?』
『しゃあないなー、お昼までにはそっち行くわ』
通話がブツッと切れてカスパーが腕を組む。
「お昼まで…って」
「物理的に移動だから瞬時に集まれる訳じゃないんだから…」
黒鴉の言葉にカスパーは唸る。
「…朝御飯まだなんだけど何か食べる?お昼まで拘束されるわけだし?」
「君達自由人過ぎないか?仮にも脅されてる立場なんだぞ」
「だってどうしようもないじゃない!ねぇみんな?」
食事抜きだった全員が頷く。
「…相談する、待て」
カスパーは疲れきった様子で箱を使って確認する。
「分かりました、箱を渡す。それを持って一人行け…10分だ」
「15分よ、私が行くわ、皆適当に注文してくるけど良いわよね?」
黒鴉は箱を持って会議室を出る。
扉が閉まりカスパーが呟く。
「息が詰まっただろう、少しの間なら話しても大丈夫だぞ」
全員が大きく息を吐いてそれぞれ言いたいことを言おうとする。
「K、あの黒鴉とは一体、あとクロヒメが二人いるんだが?」
カスパーは一番に翔に近づき訪ねてくる。
「あー、黒姫の双子の姉、んで二人はアーキタイプの娘、んで黒姫の片方はクローン」
「すまない、意味は分からないが何となく理解した」
やはり時系列の理解に苦しみ何となくで把握するカスパーだった。




