コード“楽”9
ばら蒔かれた上位世界の武器に関しての対策を考える黒鴉は神楽に状況を相談する。
「そう、とっても残念ね…」
その武器を破壊する事にした黒鴉の話を聞き悲しい顔をする。
「あの子達に罪はないのよ、許してあげてね」
慈悲深い言葉に黒鴉はズキズキする胸を押さえて苦い顔をする。
「うぅ、罪悪感が凄いわ…」
黒鴉は腕輪の着いていた手を見て喪失感と罪悪感にため息をつく。
「手を下すなんて私には不釣り合いだったかしら…」
「意外とナイーブなのね」
「何かを本当に殺した事なんて初めてだもの…」
魔石になる魔物や偽物は殺害に計算しないで考えると自身の手を汚したことの無い黒鴉はまた大きくため息をつく。
「後悔しているかしら?」
神楽の質問に首を縦に振りそうになり横に目線を逸らす。
「…してないと言えば嘘になるけど、私にそんな暇は無いわ」
「そう、強いのね…ところで破壊した武器は?」
「研究に回しているわ…内部に仕込まれてないかを確認してる」
暗い表情の黒鴉の気持ちを汲んで神楽は話を変える。
「それじゃあ本題の敵の目的について…ね」
黒鴉はゴクリと生唾を呑む。
「分からないわ」
ガクッと膝の力が抜けて倒れそうになる。
「武器の普及なんてしたところで治安悪化もたかが知れてるし…敵に加担するようなものだと思うけど?」
「先生の武器は何か特別なのでは?」
「特別ねぇ…無いけど?想いの詰まった良質な武器というだけ」
疑いの目で神楽を見つめるが「本当」と真剣な眼差しで返され黒鴉は考える。
「向こう産の武器にやっぱり何か仕込みしている…としか」
「そうね、そうなったら機械とかは私は専門外だから…」
二人が考え込んでいるとアキトが面倒臭そうにやってくる。
「話があるからって来たが…何があったんだ?」
「あー、良かった進展無いからアンタの意見聞きたくてね」
黒鴉がパッと表情を切り替えてメモ帳片手に質問しようとする。
「…?」
状況も何も知らないアキトに黒鴉は精霊ウィスプとの会話を確認する。
「どんな会話したの?」
「うーん、あの時にも言ったが向こうには名前も無いくらい微弱な…いや、待てよ」
アキトが思い出すように顎に手を当てる。
「名前が無いんじゃなくて失われた…だったか」
黒鴉は神楽に確認する。
「失われるのと無いのの違いって?何か思い当たる?」
「そうね、武器、本体が磨耗して修復を受けた場合複数の想いを受け継いで精霊が変化や成長する事はあるわね…でも記憶すら消える事なんてあったかしら?」
アキトが質問の意図を聞こうとする。
「一体何の…」
「アンタは黙って、思考に変な偏りできると困るのよ」
「あ、はい」
アキトはジト目になりながら大人しくなる。
「じゃあ他に何かウィスプから見聞きした事ない?」
「いや、特に…素直に従ってたな」
「まるで向こうの意志が無いみたいねー」
意見を述べながらメモを取る黒鴉、アキトは苦笑いして神楽を見る。
「はは、何か言ってた神楽は嫌ってたな」
「あー、そうね」
黒鴉も鼻先を焼かれた神楽を思い出す。
二人に見られた神楽は鼻を押さえて首を横に振る。
「あ、あんなものコミュニケーションの一つよ!」
黒鴉はアキトに質問を続ける。
「他に気付いたことは?」
「無いな、そもそも精霊は普通はあの程度だと思うぞ?神楽のが特別なんだよ」
「木刀は?」
黒鴉のその言葉にアキトは苦笑いする。
「壊れやすいモノに精霊付けて情沸いたら使えなくなるだろうが」
「めっちゃ頑丈じゃない」
機械を破壊する程の木刀にツッコミをされてアキトは吹き出す。
「ぷっ、確かにな!だがな、お前らみたいなのとやりあったら折れるだろうが」
「ありがと、実があったとしたら名前が消える程の事があったって情報位かしら…」
黒鴉はメモを取り終えて推理する。
「…修繕、改造?…ばら蒔き、全世界に?」
アキトも神楽も真面目な雰囲気の黒鴉を見つめ神楽が一石投じる。
「他の幾つかの向こうの要素も混ぜてみたら?」
「そうね、箱、クローン、つなぎ服の連中…」
邪魔にならないようにアキトはそろりそろりと研究室を離れようとする。
「ちょっとアキトも意見出しなさいよ」
神楽が逃げるアキトに声をかけて面倒臭そうに答える。
「あー、えーっと…神楽達も向こうの要素だろ?んじゃ、紅茶でも飲んでっから終わったら呼んでくれ」
アキトの無責任な様子に神楽は腹を立てるが黒鴉はメモを取って頭をわしゃわしゃとする。
「んー!なーんかムカつく!スッキリしない!」
「翔君か黒姫ちゃんの意見聞いてみたらどうかしら?」
「…なんであの二人なの?」
神楽は一人悩む黒鴉に二人の名前を出すが不機嫌さが増す黒鴉だった。




