コード“楽”4
専門家として呼ばれた神楽は重ね着したカラフルなローブで博士や研究員達の前で教鞭を振るう。
魔法についての教義を聞いていたツムギが楽しそうに聞く中でヨロズが頭を抱える。
「であるからして、魔法は超自然現象を魔素を利用して…」
ツムギが挙手しながら不躾に質問を投げる。
「具体的にはぁ?」
「火を起こす為に必要な要素は何かしら?酸素、燃焼物、熱の三要素ね、その要素に足りないものを魔素で補う事で実現させるのよ」
神楽は掌の上に火を一瞬だけボッと出して見せる。
「足りない要素を満たす方法が多く複雑な程に技術が必要よ、今のは燃焼物と熱を作ったわ」
ヨロズがもう無理と席を立つ。
「ちょっと紅茶飲んでくる…物質や現象を補うなんて理解出来ないぞ…」
神楽はヨロズが出ていってから軽く補足する。
「別に魔素を別の物質に変化させている訳じゃないからね?」
ツムギがメモを取りながら錬金術の基礎を持ち出す。
「でも燃焼したら色々出るよね?」
「ふふふ、心配ご無用、あくまでも火であって燃焼現象ではないわ、勿論この魔法の火から発生した燃焼は副産物を発生させるわ」
ツムギは渋い顔をする。
「あー、自然現象の火と魔法の火はあくまで別物だと?」
「そういうことになるわね、まぁ使い手は皆理屈で覚えて無いから説明すると面倒臭いってわけ」
講義を聞いていた竜司は無言で見よう見まねで手を閉じて開いてしてやってみるも何も起きずため息をつく。
「出来ない…」
「トレーニングよ、一朝一夕で出来る芸当じゃないわ」
それを聞いてツムギがぼやく。
「つまり箱があってもすぐに魔法使えないと?」
「…かもね」
聞いていた研究員達全員の姿勢がズコッと崩れる。
「しかし上の連中が魔法を理解したとは思えないんだよね」
ツムギの言葉に神楽は頬を膨らませて不服そうにするが竜司が同意する。
「確かに…魔素なんて研究していた時にあっても閉じられた今はもう無いだろうしな…」
「じゃあ…私の研究から得られるものって?」
神楽が腕を組み口を尖らせ竜司が尋ねるように答える。
「…武器の出し入れや精霊術か?」
ツムギがここに居ない黒姫を名指しして言う。
「クロヒメに聞いたら?報告書を纏めてたし」
「居ないのよね、講義はまだ必要かしら?」
「僕は興味あるけど皆の脳が知恵熱起こしちゃってるし休憩しよう」
ウキウキの神楽の気を害さないようにツムギが休憩を提案して承諾され研究員達は解放される。
魔法の話なんて知りもしないで黒姫と神姫を連れて仕事をする黒鴉は仕事が楽になったと喜んでいた。
「いやー、こういう時だけ自分が増えたらと思うけど…助かるわ」
「仕事溜めすぎです…」
「仕方ないじゃない、私はタレント業と兼業、お父様は研究所での作業もあるし」
黒鴉の言い分を仕方ないと受け入れ黒姫がハッとする。
「私が社長業やれば良いんじゃないでしょうか」
「出来るぅ?ダメだと思うけど」
二人の妹を前に黒鴉は仕事を任せられるか思案する。
「まぁお父様も手を離せないだろうし一日くらいなら様子見で…」
黒鴉の妥協の言葉に二人で手を取り合い喜ぶのを見てジト目で黒鴉が確認する。
「あー、成る程、浜松ね?」
ダメですかと言いたげな黒姫達を見てタメ息をつく。
「もういいわ、好きにしなさいよ」
黒鴉は一仕事終えて帰る準備を始める。
「後は任せるわ、試しに頑張ってみなさい」
一人早めに帰宅出来ると隠れて喜ぶ黒鴉だったが息抜きに来た駅前広場で小鬼の魔物が出てくる。
「あー、もう!」
剣を呼び出して小鬼をバッサリ切り捨てながら叫ぶ。
「しゃおら!かかってこいやー!」
黒鴉の姿に啓発されたのか箱を持った女性が現れ結界を呼び出し黒鴉と一対一になる。
「逃げずに向かってくるとはね!」
「新機能のテストさ!コード“楽”!」
敵の声に合わせて箱から剣が飛び出してくる。
「な!?そう来るの!?…ん?それだけ?」
出てきた剣を振り回す敵を見て黒鴉はジト目になる。
「…これだけ」
「あっそう…じゃあこれでお仕舞いよ」
黒鴉はバハムートを呼び出して威圧すると速攻で敵を降伏させる。
結界を解いてボランティアを拘束する黒鴉だった。




