コード“楽”1
機械軍団を駆逐して数日経過して研究所暮らしに慣れてきたとある平日、たまたま弁当を忘れて外食するかと仕事場の神藤ビルを出る。
(デスクワークは学校に居た時より肩と腰にくるなー、…休憩時間に教室移動と体育の授業とかあったからか)
仕事中あんまり動いて無かった事を思い出し腕を伸ばしたりしながら周囲を見渡す。
暫く襲撃も無く店がちらほらと開いていてワクワクする。しかしそんな翔に水を差すように後方から悲鳴が上がる。
(人の食事を邪魔するとは…)
ため息混じりに振り返り対応しようとする。
翔はキーホルダーを確認しながら走り出すと眩しい光と爆音がして急ブレーキをする。
「なんだ!?」とつい声を出して足を止め様子を窺う。
見覚えのある攻撃方法、どう考えても神姫の力であり黒姫は研究所で惰眠を貪っていて居るはずもないと冷や汗を流してジリジリと進むと箱を持った男性の若者が逃げてくる。
「おっと、逃げるな!」
足をかけて転ばせて取り押さえる。
「ひぃ!化け物!…助けて!」
衣服を着替えているボランティアの男に翔はゆっくりと威圧するように話しかける。
「何人殺した?」
「な、何の話だ!?離せ!」
刀を呼び出してもう一度質問をする。
「ひ、一人…腹減って…仕方なかったんだ!」
男の答えに翔は冷たい目をして拘束しようとする。
「じゃあ魔物出す必要ないよな?まぁ死体処理めんどくさいから処遇は上次第か…」
「っち!コード“姫”展開!コード“斎”発動!」
結界内に翔が取り込まれ魔物の奇襲を受けて距離を取らされる。
「…先に箱破壊だったか」
翔はため息を吐きながら刀を呼び出して二刀流に構える。翔の装備を見て銃を構える男は笑い声をあげる。
「近接で銃に勝てるか!やっちまえ!」
「少しは武器持ってることに疑問持てよ…焰鬼!雷怨!」
魔物をけしかけながら照準を合わせようとしたところを文字通り雷に撃たれ倒れる。焰鬼と翔は魔物を倒し終えて元の場所に戻る。
(全く、俺だって腹減ってイライラし始めてんだから大人しくお縄につけってんだ)
刀をキーホルダーに戻して周囲を見渡して残った魔物を確認して地面に転がる箱を破壊する。
食事したいと歩きだすと後ろから翔を呼ぶ声がする。
「翔君!?」
聞き慣れた声にハッとする。
(あー黒姫か忘れた弁当持ってきたのかな?)
翔はゆっくり振り返って石のように固まる。
確かにそこには黒姫がいた。白衣を着てどこかで見た出で立ちで…
(おー…まいがっ…!)
すぐに状況の判断をして死んだ目になる。
「大丈夫ですか?」
心配そうに近付いてくる黒姫に言われて即答する。
「…大丈夫じゃないです」
翔はやっと出てきたか細い声で答える。
「最初近かった実家に戻ったら工事中で誰も居ないし…次に近いビルに着いたら魔物が出て来て…」
身の上を一生懸命話す黒姫に真実を伝えるべきか翔は悩みに悩む。
「取り敢えず腹減ってるから飯に…」
「そ、そうですね…立ち話もあれですし」
ややこしい事になったと冷や汗を流しながら何が食べたいか聞こうとすると本物の黒姫が本当にやってくる。
「あ、翔君!お弁と…え!?ええ!?」
遠巻きに見られて勘違いされる前に本物とクローンが邂逅する。二人は指を指し合って翔は絶望感と空腹感で半泣きになる。
語彙力を失ってあ行しか話せなくなったように二人は翔ともう一人の自分を交互に見る。現実逃避したくなる翔だったが二人を落ち着かせるように口を開く。
「飯にしよう、取り敢えず落ち着こう…な?」
「で、でも…」
本物が弁当を指差す。
「…二人で話し合えるか?無理ならそれ晩飯にするわ」
固まる二人を見て無理そうだと判断して財布を取り出すのだった。
「どこか食いたいのあるか?」




