コード“威”11
バスに揺られる中で翔は窓の外を眺めながら物思いに耽る。
(平和になってないのに遊んでいていいのだろうか…)
そんな翔の様子に隣に座る黒姫が声をかける。
「何か心配事ですか?」
「いや、大丈夫だ…」
上位世界の件で黒姫に心配させまいと笑ってごまかす。
何かを察したのか何も言わずに軽く頷く。気を遣わせたと焦って翔は言い訳をする。
「ほら仕事とかさ、ちょっと溜まっててさ」
「ふふ、色々雑用させられてますもんね」
ホッと翔は一息ついてバスの到着まで大人しくする。
異世界組は遊園地のような行楽は初めてでワイワイと騒いでいた。
遊園地ゲート前に到着し竜司が作業でてんてこ舞いになる中で異世界組と学友組がワッとさっさと突撃していく。
手綱を握っていたアキトが何かを叫んで止めに行っていたがそのまま勢いに飲まれて消えていった。
竜司と優香夫妻は残った翔達にも先に行くように伝える。
ツムギとヨロズがパンフレット片手にどこへ行くかと話し合って翔と黒姫を巻き込んでくる。
黒鴉一人ムスッとし続け舌打ちをしていた。
「あーちゃん?大丈夫?」
学友達とは一緒に行かなかった周防が黒鴉に寄り添う。
「気に入らないわ、戦いの最中にお遊びだなんて…!」
「息抜きは大事だよ?…激化したら遊びなんてできないし」
「私は…」
黒鴉が反論しようとするが竜司が黒鴉を宥める。
「気休めだろうが心を癒すのは大事だぞ」
「こんな茶番…癒しにもならないわ!」
自分の事を皆理解してもらえないと黒鴉は文句を言いながら一人歩いて行く。
「あーちゃん!ちょっと待って!」
周防が黒鴉を追いかけて行ってしまう。
竜司は娘の気難しさに頬を掻いてどう接するべきかとぼやく。
「黒鴉を理解してくれる友人を信じましょう」
優香も遅れてきた反抗期に心配し遠巻きにその様子を黒姫が見てソワソワする。
「心配なら追いかけてやれ、デートならいつでもできる」
翔が黒姫に伝えるが黒姫は首を横に振る。
「私が行っても姉さんの機嫌治らないですから」
ヨロズもツムギも神藤家の複雑そうな様子に苦笑いする。
「お姉さんねぇ、僕一人っ子で良かったわー」
「ツムギ、流石に空気くらい読め」
「ごめんごめん、でもアレはマズいよねぇ」
ツムギは黒鴉の和を乱す振る舞いの危険性を説く。
「姉さんは…いつもあんな感じ…だと思います」
黒姫のフォローが入るが信じられないと言いたげにツムギは目を細める。
「そう?ならいいんだけど、んーいや、良くないけど」
乾いた笑いをするツムギをヨロズが肘でつつく。
「今日はオフだ、色々忘れてしっかり休む…そうだろう?」
「そーだね、僕遊園地みたいなの初めてだし楽しみだよ」
四人でゲートを潜り気持ちを切り替えていく。
翔も折角用意してもらった休みを満喫しようとパンフレットに目を移す。
(…げ!お化け屋敷…!?あの二人全部回る気だろう?俺苦手なんだよなぁ…絶対に回避しないと!)
自分の苦手なオバケの文字を見て震え上がる。
(まぁ事情を知ってる連中と一緒じゃなくて良かったー。絶対一人で行かされてたわ)
嫌な予感を感じつつどこから回れば効率的なのか等と相談する博士達を神頼みしながら眺める。
「アナログだねー乗り物系ばっかりで体験型はそんなにって感じかな?」
「体験型は…ゲームなどで自宅で楽しめる世間になってますし」
黒姫の意見を聞いてなるほどと相槌を打つ。
「逆行するもんだねぇ、ジェットコースターは面白そうだしいっか」
「はは、普段体験できない世界、興味深いぞ!」
ツムギもヨロズも絶叫マシンを目指して歩いて行くのだった。




