コード“威”6
研究所にてヨロズは目当ての竜司と面通りが叶う。
「受け入れ感謝する、竜」
丁寧なヨロズの言葉に竜司は悪気もなく言い訳に近い言葉を放つ。
「わたし自身が迎えなくて申し訳なかった、一応財閥企業の社長でね…」
竜司は軽く頭を下げヨロズの汚れた白衣を見て顎に手を当て質問する。
「着替えを用意しようか?お仲間もつなぎ服は嫌だろう?」
警戒しながらも提案を飲むしかないヨロズは本心を隠すような笑顔で快諾する。
「是非とも」
「では、今後の話はまた後で…住居の手配等もあるからな。失礼する」
去っていく竜司の代わりにツムギが頭を掻きながら入ってくる。
「やぁ、ヨロズ博士」
手を振って挨拶するツムギを睨みヨロズがため息をつく。
「…はぁ、何だ?カッコつけてるのか?」
口調が少し荒っぽくなりツムギは慣れた雰囲気で口を尖らせる。
「酷いなぁ、施設の説明してあげようと思ったのに」
「ツムギ博士、目上には礼儀正しくするものだぞ」
クローンとはいえ元の関係性ではヨロズの方が権限は強かった事もありくどくど文句を呟かれる。
「まぁまぁ、向こうの事は忘れて今はゆっくりしなってぇ」
馴れ馴れしくツムギがラウンジのカフェをお勧めする。
「珈琲…?ワタシは紅茶の方が…」
「え!?あのクソマズ紅茶!?」
上位世界のカフェテラスの不味い紅茶を想起してツムギが驚愕する。
「…不味い?そうだったか?」
「ごめん、人の味覚は分からないや…まぁ時間あるなら行こう」
ヨロズは何か言いたげだったがお腹も鳴ってしまい仕方ないと言い訳しながらツムギについていく。
カフェではヨロズの集めたボランティア達が空腹を満たすためにがつがつと食事をしていた。
「うわぁ、がっついてる…皆食事どうしてたの?」
ツムギがその様子を見てオーバーなリアクションをする。
「彼らは盗みや殺人を忌避して苦労していたようだ…」
「いやー僕って運良かったんだなぁ、Kとすぐに会えたし」
彼らの気苦労に同情しながら二人も席に着く。
「食文化は良いよね、向こうじゃ機能食ばかりで楽しみ少なかったし」
ツムギの話しを聞き流しながらヨロズは紅茶とパンを頼む。
「えー?小食過ぎない?サンドイッチ頼むよ」
「…得たいも知れないメニューなどは…」
知らない名前の食事なんてと文句を言うヨロズの前にツムギが頼んだサンドイッチが届き生唾を飲む。
「綺麗な食事処にハズレ無し、時間掛けて全部食べてみなよ」
「う、うむ…」
久しぶりのまともな食事にヨロズの目にホロリと自然と涙が溢れてくる。
「そういえばおハゲのマークとカスパーと会っている?あとダメダメ室長」
ゴクンと口の中のサンドイッチを飲み込んでからヨロズは装飾語が汚いぞと注意しながら答える。
「ワタシは知らない、ワタシの研究についての質問責めで隔離されていたからな」
「あー、やっぱり?じゃあいいや、探すの竜達に任せよー」
ツムギは欠伸をして「おっと」と珈琲を啜り目覚ましさせるのだった。
神藤ビル前、翔は神華に愚痴られながら仕事の為に帰ってくる。
「今回も博士の手掛かりすら掴めなかった…」
翔は励ますように思い付いた事を言う。
「ツムギの時は神斎の能力、ヨロズの時は神威の能力、そう考えて見るとまだ出番じゃない…とか?」
最もらしい内容に神華は小さく頷いて少しだけ口を緩める。
「…そうかもね…それでもアタシは心配です」
「一人で動くなよ?黒鴉に怒られる」
今にも飛び出して行きそうな神華に釘を刺して翔は職場に戻る。
(それにその時ってアタシの能力が…!それだけは!博士との絆、それを悪用させる訳には…!)
神華は何かを決意した様子で翔に続いてビルの中に入っていくのだった。




