コード“威”5
郊外に存在する廃工場、ツムギの同僚の博士であるヨロズに指定された場所に翔、神威、神華の三人はやってくる。
「ふーむ、レトロな雰囲気な工場だ」
ノスタルジーに浸る神威に神華が苦笑いして聞く。
「廃墟ですよ?」
「工場に人が必要な事こそナンセンスだ、我なら全て機械化するぞ」
人間の事情など知らんと噛み合わない事を言われ神華は呆れ顔になる。
「表には誰もいないな…」
翔が周囲を見渡し人影が無い事を不安視する。
「罠なら浜松が正面から潰すだけだな!」
「陣地作ってないのに何で強気になれるのかしらね…」
実質無能二人を背後に抱える翔が「誰か連れてくるべきだったかも」とぼやく。
そんな調子でゆっくり進み、閉じられた鉄製の扉をノックして反応を待つ。
耳を塞ぎたくなる軋む音を立てて扉が開きオレンジのつなぎ服の小柄な女性が顔を出す。
「…だ、誰?」
恐る恐る尋ねる女性に神威が営業スマイルで得意気に答える。
「竜の使いだ、神威と言えば通じると思うが?」
「か、神威!?…よ、ヨロズ様ぁ!」
神威の名前を聞いて出迎えの女性は逃げ出してしまう。
「む、我が何か悪いことしたか?」
表情が駄目だったかと頬を手揉みしてほぐし直す。神華は絶対違うと呆れながら答える。
「あんたの担当博士なら悪評だのなんだのを吹込んでいるんじゃない?」
「心外な!正直に言うと我は人に興味無いだけで…多分真面目にしていたぞ!?」
神華と神威のやり取りが終わった頃、鉄扉から汚れた白衣を着た糸目の内に隠した鋭い目付きで警戒した女性博士のヨロズが現れる。
「まさか神威、貴方が来るなんてね…竜を呼んだんだが」
「う、うむ…久しぶりだな博士」
「挨拶するようにはなったか、まぁ入れ」
神威の進歩に感心しながら翔達を工場内に招き入れる。
がらんどうの工場内で錆び付いた机にヨロズが腰掛ける。
「K、ついでに君が使いで現れるとはな…てっきり神鳴か神楽のとこかと」
翔が説明するより前に神威が勝手に答える。
「彼は我々に勝ち世界を統一した裏のボスだぞ」
「神を倒した?!あっはっは、傑作!我々を裏切った上層部が願って叶わない人材だ」
手を叩きヨロズが翔を称えた後に睨む。
「消耗品なのに重用されて果ては神を束ねるか、お伽噺かな?」
「博士、雑談は後でもいいだろう?用件はなんだ?竜に会いたいなどと…」
神威とヨロズが互いに警戒し睨み会う中で神華は隠れて様子を伺うボランティア達を確認して翔の肩を叩く。
翔はボランティアの怯えた様子に口論より結論を先に欲しいと伝えるとヨロズは神威と睨み会うのをやめて答える。
「そうだね、単刀直入に、我々を匿って欲しい」
「ふむ…信用できるのか?」
「支給されたテレボックスと銃を差し出す、我々はほとほと上層部に愛想が尽きた」
ヨロズは銃を取り出し床に放り投げる。神威は銃に興味を示さずヨロズから目を離さない。根負けしたのかヨロズが説明を始める。
「新しい機能を知っているか?君が大好きな機械を呼び出すやつだ、もう耳に入っているだろう?」
神威が不機嫌になり腕を組み言い切る。
「あんな稚拙な機械は好きになれんな!」
その言葉にヨロズは険しかった表情を崩して笑う。
「はは稚拙か、そうだな!奏者をも殺す機械など稚拙この上ないな」
「で、何人いる?」
神威が半ば同意する意志を見せて尋ねる。
「生き残ったのは十余名」
「竜に確認しよう、君はツムギと同じ様に協力した欲しい」
「ツムギ…そうか、彼もそこに居るのか」
ため息をついてヨロズは机から降りて大きく手を叩く。
「皆集まってくれ」
つなぎ服を着た様々な人が恐る恐る現れる。
「箱と銃は段ボールに詰めている、受け取って欲しい」
神威は頷き翔に今になって同意を求める。
「浜松、問題ないな?」
「全部勝手に進めちゃって…戦わないで済むならそれが一番だ」
神華はお目当ての人が見付からず肩を落とす。
翔はつなぎ服の人達を見てヨロズに確認する。
「これで現状この世界に来ているのは全員か?」
「いや、ワタシが集めた派閥はこの数だけだ…まだいるんじゃないだろうか?」
神華はまた焦らされるのかとため息をつき神威は携帯を確認してヨロズに朗報を伝える。
「許可が降りた、今後は竜に従ってくれ」
「人に興味無いと言いつつ…お前も変わったな」
「…言うな」
神威は気恥ずかしそうにする。
竜司は迎えにバスを寄越して全員乗り込み研究所に送られることになるのだった。




